内密出産を導入 医師が語る実情 – ABEMA TIMES

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 医師や助産師の立ち合いがないまま自宅などで子どもを産む「孤立出産」を防ぐため、熊本市の慈恵病院が導入した「内密出産」。ニュース番組『ABEMAヒルズ』はこれまで様々な事情を抱えた妊婦と向き合ってきた慈恵病院の蓮田健院長に話を聞いた。

【映像】内密出産のメリット・デメリット

 去年12月、慈恵病院に相談していた西日本在住の10代の女性が、身元を明かさないまま仮名で出産。産後1カ月経っても「身元を明かさない」「自身で養育しない」という女性の意思は変わらず、国内初となる内密出産。

 女性は名前などの個人情報を病院の相談室長のみに明かしていて、赤ちゃんが今後「知りたい」と意思表示するまで病院が保管することに。この情報は、父親や家族はもちろん、行政にも提供されない。しかし、この内密出産について、母親に関する氏名を伏せたまま病院が出生届を市に提出すれば、刑法に抵触してしまう可能性があると指摘されていた。

 母親欄を記入せず出生届を提出した場合、刑法に抵触するのか。慈恵病院が熊本地方法務局に問い合わせると、刑法についての明言は避けたものの、出生届がなくても市長の職権で戸籍ができる戸籍法の規定に基づき、赤ちゃんの出生日と出生地を市に伝えるよう協力を求めたという。そこで慈恵病院は出生届を出さずに戸籍を作るために市と協議を進め、その後市長の職権で戸籍が作成される方針となった。

 小さな命を救う最後の砦になるかもしれない内密出産をどう考えるべきなのか――。独自に動いてきた蓮田院長はこう話す。

「元はというと、私たちは15年くらい前に『こうのとりのゆりかご』いわゆる“赤ちゃんポスト”を始めて、これまで159名の赤ちゃんが預けられました。ですが、その母親の多くが自宅で1人で出産したりするわけで、その行為が私たち産婦人科からすると非常に危険で、お母さんが途中で大出血を起こすかもしれない、あるいは赤ちゃんも死産することも多いのでそこを予防するために、病院で安全に出産していただきたい。そこで、内密出産を提案しました」

「去年から赤ちゃんの遺棄や殺人などの裁判にも関わるようになり、(現状を知って)赤ちゃんが可哀想だと思いました。死産になったり、遺体が腐敗したり、あるいはお母さんに首を締められたり、口を塞がれたりなど、そういった形で亡くなっていく赤ちゃんの姿を裁判を通じて知りました。

また、被告になった女性たちも警察に捕まり、その裁判では親御さんらが後ろ側で肩身を狭くして傍聴する姿もあったので、こういった事件はもちろん赤ちゃんが可哀想ですけど、被告になった女性もご家族も辛い思いをするわけなので、それを回避するためには、赤ちゃんポストではなく、内密出産といった、病院で安全に出産していただき、私どもがお母さんと赤ちゃんを保護することが大事だと思いました」

 去年、内密出産した女性は1人で新幹線に乗り、慈恵病院まで出向いたが、その途中で出血や陣痛が始まり、心配になった蓮田院長は妻と2人で迎えに行ったという。その翌日、無事に出産は終えたものの、赤ちゃんは感染の可能性があるため二日間の入院となった。

「赤ちゃんは感染の可能性があったため抗生物質の点滴を打って二日間入院してました。保育器の中にいたので、赤ちゃんを抱っこすることはできなかったけど、彼女は毎日面会に来て、写真撮ったりしてました。一度は抱っこしたいだろうと思い、最後の日に特例で保育器から出して、抱っこしてもらうと(彼女は)涙していました。私は用があってその場を離れたのですが、妻が言うにはわんわんと泣いてたそうです。それだけ思いが強かったのだと思います。

ですが親御さんの過干渉がとっても恐怖になっているようで、金縛りのようでした。そこまで泣くほど赤ちゃんが大事であれば、自分で親御さんに謝罪して、内密出産を撤回して育てることもできると思うのですが、なかなかその一歩が踏み出せないというのは、私たち周囲の人からは理解しづらいところもあると思います。彼女は去っていく前に『人生の中で大人からこんなに優しくされたのは初めてだ』と言っていて、それくらい過酷な環境にいたんだと思い知らされました」

 赤ちゃんポストの母親たちの8〜9割は発達障害・知的障害を含めた精神科の領域、被虐待歴だったりするという。また、妊娠した時にキーパーソンとなる実の母親が亡くなっていたり、過干渉を含めた虐待をしていたりと家族関係が悪かったりすることも。蓮田院長はそういった女性に対して「『頑張りなさい』と言っても頑張る能力がないのです。そのため、かえって虐待しかねないので心配」と不安をこぼした。

 また、悩んでいる妊婦さんは「年間で100〜200件くらい」だと蓮田院長は推測していて、彼女たちを日本の法整備で助けてあげたいと話す。そんな女性と赤ちゃんを守るためにも、日本でもこの内密出産を認める法整備を進めた方がいいのではないだろうか。進まない理由について、蓮田院長は「日本は自己責任論が大きいことが原因」と見解を述べた。

「私も赤ちゃんポストは海外では何十個もあるのに日本は一つだけなのかと考えました。やはり(日本は)自己責任論が大きいなと。ある先生に相談したら『日本は滝あたりの世界だよね』と言われたんです。つまり、知らずとその日本人の文化や社会の中に『頑張りましょう』といった発想があるということです。逆に、海外は欧米を地心としてキリスト教文化なので、私が思うにはキリスト教は『罪を許して助ける』というのが強いと思うんです。ボランティアや寄付などもありますし、考え方の違いがあって進まないのだと思います」

 内密出産の課題については「自分の目線で考えてはいけない」としつつ、「理解して助けてあげてほしい」と蓮田院長は訴える。

「内密出産の法律もなかなか今の政治の世界では成立するのかと思う。本来、『産んだお母さんが自分で育てるべき』『名前くらい明かすべき』といった雰囲気はあると思うけど、それは日本の社会がそういうところがあるだけ。自分の目線で考えてはいけない。とても過酷な人生を歩んでいる100人、200人なので頑張ろうと思っても頑張れない。そこでずっと苦しんでいる人たちなので、そこに思いを馳せてまず理解していただいて助けてあげてほしい」

 最後に、悩める妊婦に向けて「なかなか一歩を踏み出せないと思うけど、私たちは困った時にはどこにでも迎えに行きます。まずはご一報をいただきたいと思います」とし、周囲の大人には「若い世代にわかるように、学校の先生も含めて性教育の周知を図っていただきたい」とメッセージを送った。(『ABEMAヒルズ』より)

【映像】内密出産のメリット・デメリット
【映像】慈恵病院の蓮田健院長&熊本市の大西一史市長に聞く
「赤ちゃんを抱っこした時、彼女は号泣した」「全国どこでも起きている問題だ」“内密出産”を決断した慈恵病院の蓮田健院長と熊本市の大西一史市長が生出演で訴え

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