損害保険大手の三井住友海上が打ち出した、「社外カルチャー経験者比率」。これは、外部の企業や官公庁への出向、副業といった社外での業務を経験した人の比率で、今後、社員が昇進するための重要なポイントにするという。
「損保業界は非常に環境変化が激しくなっていて、これに対応していくためには多様な価値観を意思決定層に反映していく必要がある。一般的に中途入社の方を増やすとか、そういったかたちで社外の経験を持つ人にクローズアップされるところが多いと思うが、当社はそれだけではなくて、社外に出向した経験であるとか兼業・副業であるとか、こういった外で働いた経験というものも含まれるんだろうと考えて、今回、社外カルチャー経験者比率という目標を作った」(三井住友海上 人事部人事チーム長 越智貴之氏、以下同)
現在、三井住友海上では、中途採用者を含めて管理職に占める社外カルチャー経験者比率は約20%。これをさらに推し進め、2025年度までに30%にするという目標を掲げている。
「(ジャンルは)特に『これでなければならない』ということは決まっていなくて。社員の専門性を生かせるものであればということで、そこは広く構えている。ちょっと変わったところでいけば、医療機関のレントゲン撮影とかを手伝うとか。当社の中には医療技術を持った技術社員なんかもいるが、もしかしたらテレビ局なんていうのが出てきてもおかしくないかもしれない」
外部のカルチャーに触れることで、本業では得られないスキルや能力を伸ばし、人脈も獲得。そんな外部での経験を持ち帰ることで、自社のカルチャー変革にいい影響を及ぼすのではないかと期待を寄せているという。
一方、外部での業務を認めることにはデメリットもつきまとうため、中々踏み出せない企業が多いのも現状だ。
「本業がおろそかになるんじゃないかとか、あとは長時間勤務、過剰労働によって健康面への影響はないかといったのは気になるところ。特に当社は金融機関なので、情報管理の問題であるとか、取引先への影響であるとか、こういったところもケアしなければいけないと思っている」
一方、人材流出の懸念については次のように考えを明かした。
「今世の中そういった人材の流動化がすでに起こっていると思っているので、外を見た結果、当社よりも魅力的だとか成長機会があると思って退職する人が出るかもしれない。だからといって、中に囲い込むということよりも、そういった経験を積んでもらって、中に戻ってきて生かしてもらう。これの方が当然メリットとして大きいと思うし、社員にとって魅力に感じてもらえる会社にしないと、どちらにしても生き残っていけないんだろうと。きれいごとだが、そういう風に思っている」
■若い人の副業要望=賃上げ要望?
パーソル総合研究所発表の「副業の実態・意識調査」(2019年5月)によると、副業を「全面容認」「条件付き容認」「全面禁止」する企業を比較した場合、全面容認の企業で副業をする人ほど会社への忠誠心や本業でのパフォーマンスが高まる傾向が確認できたという。
一方で、全面容認の企業ではデメリットも発生しやすく、過重労働となり本業に支障をきたした、体調を崩した、本業をおろそかにするようになったという人の割合は高くなっている。
企業は副業を全面解禁するべきなのか。社会学者で東京工業大学准教授の西田亮介氏は、「最近、若い人中心に多くの人が副業を求めているというのは、賃上げを求めているということではないかと考えている」として、次のように話す。
「この間、大卒初任給水準は微増にとどまり、物価上昇や社会保険料の負担、2度の消費税率の引き上げ等があったことを思うと、ほとんど伸びていない。またコロナの中で残業をうまく作れず、収入が減ってしまった人がいるのではないか。」
企業にとって、人件費を抑えながら社員のスキルアップが期待できることも副業を容認するメリットともいえる。一方、個人の考え方としては「自分の職場や会社が将来も安定・安泰かどうかを考えてみるといい」と西田氏は促した。
「日本では、いま3~5番手ぐらいの会社でも『いい会社に入ったな』と思っているかもしれない。ただ、日本企業の多くが内需で回っている。しかし日本の人口は減っていき、景気もよくない、さらに人々が財布も引き締めそうだといった時に、自分の勤め先が大丈夫かということだ。自分が将来、今の勤め先以外で働けるだけの力をどうやって養うかを副業や資格取得、大学院等での学び直しなど含めて考えるべきだ」
(『ABEMAヒルズ』より)