2019年のこと。仕事でスペインはバルセロナへ行く機会があった。
無事に日程をこなして帰途につく日、日本行きのフライトまでちょこっとばかり時間に余裕があることに気づいた。
こういうときはあれだ。市場を覗くのがベストな振る舞いであると相場が決まっているのだ。
…「スペインの台所」を徘徊する
そもそも、この時の仕事はテレビ番組のロケ協力でバルセロナ郊外に生息する巨大ナマズ(ヨーロッパオオナマズ)を捕まえて紹介するというものだった。
その仕事は全うできたのだが、ナマズ以外の魚をあまり拝めなかったのが少々の心残りだった。
特に、現場が川のほとりだったので、当然ではあるが海の魚にはまったく出会えずじまいであった。
もっと魚見たかった…。
その欲求不満を解消するためにも、やはり市場へ行くほかないのだ。
そこで日本人のコーディネーターさんにおすすめの市場はないか訊ねたところ「ボケリア一択」「ボケリア市場こそスペイン国首都・バルセロナの台所」とのことであったため、寄り道先が確定した次第である。
空港までの距離を考えると、1時間ほどは滞在できる計算だ。それだけあれば、いろいろ買い食いしながら隅々まで見られるだろう。…と、この時は思っていた。
ちなみにボケリア市場のスペイン語での表記は「Mercat de la Boqueria」であり、発音は「ボゥケーリャ」に近い。日本語表記の場合「ブケリア」とあらわされることもある。
この市場はバルセロナ市街地中に立地するため、アクセスは良好である。むしろ交通の便がよすぎて、「たいして面白い品もないのでは…」と不安になるほどだ。
しかし、それが杞憂であることはゲートをくぐってすぐに判った。
立ち込める香辛料の香りが、ここには日本人にとって目新しいモノが溢れていることを物語っている。
活気にあふれる鮮魚売り場
というわけで魚を見たくてやってきたはずが、なかなかどうして鮮魚売り場にたどり着く前に十分エンジョイできてしまった。
もっともっと、隅々まで舐めるように見たいところだが、あまりのんびりしていると飛行機に乗り遅れてしまう。
小腹も空いてきたことだし、いったん食事を挟んで鮮魚売り場へと移ろう。
スペイン最後の食事を終え、いよいよ潮の香りが漂うゾーンへ。
おお、やってるやってる。
明らかに他の売り場よりも活気がある。解体や良魚の争奪戦がリアルタイムで行われることもあり、客側からしてもライブ感が一味違うのだろう。
日本にいそうでいない魚たち
さて、肝心の鮮魚だが遠巻きに見た限りでは日本で見られるものとそうかわり映えしないようであった。
まだ色とりどりの熱帯性魚類で溢れる沖縄の市場の方が異国情緒がある。…と思っていた。しかし。
たとえば上の写真のヒラメはやたら体高があるというか幅が広い。
これはロダバージョという魚で、日本ではイシビラメと呼ばれることもあるが日本近海にはいない。
↑この魚は日本のスズキに似るが、もっとおちょぼ口。スペインではルビーナとかベレタ、英語圏ではコモンバス、ヨーロピアンバスなどと呼ばれる。
右奥のアジのような魚はニシマアジといい、干物の原料として日本にもかなりの量が輸入されているという。
和食で定番の食材もあるが、ここバルセロナでは一体どのような料理に用いられるのだろう?
それを想像しながら市場内を散策するだけでも楽しい。
小魚も並ぶ
また、鮮魚売り場を見回していて気になった点がある。魚種はともかくとして「日本ではこんな小魚は絶対に店頭へは並ばないな…」というサイズの魚たちが数多く売られていることである。
どうやら、底曳漁でとれた雑魚も出汁をとる目的で利用されているようだ。
なかなか下処理が大変そうだが、この「とれちゃったもんはすべて使う」精神には見習うべきところもありそうだ。
エスカルゴは魚介類にあらず
貝といえば、ボケリア市場でもっともたくさん売られている貝はなんだと思われるだろうか。
それは意外にも陸貝であるエスカルゴである。
しかも、鮮魚売り場にはまったく並ばず、なぜか鶏肉を扱う店が専売権を有しているようであった。
中には、鶏をモチーフにした看板を掲げておきながら、販売スペースの半分近くをエスカルゴに占拠されている店舗も見られた。
1時間ではとても足りない
と、そうこうしている間にフライトの時間が迫り市場をあとにした分けだが。なんとも心残りであった。1時間じゃあ流し見するのが精一杯だ。
もっとしっかり写真を撮りたかったし、店主に話も聞きたかった。
それに、できることなら買って食べてみたい魚介もたくさんあったのに。この時世では一体いつになるかわかったものではないが、いずれまたの機会にリベンジしようと思う。
そして、きっと多くの魚好き外国人観光客は、まったく同じ思いで日本の市場に目を輝かせ、後ろ髪を引かれているに違いない。
そう考えると、すさまじい種数の魚介が集まる豊洲に通える僕らは幸せ者だ。
というわけで、まずは日本の市場をじっくり楽しみ学ぶことから始めたいと思う。