物理的虚無、なにも書かれていない新聞

デイリーポータルZ

新聞紙が、読む以外に紙としても重宝するとはよく聞く。

子どもの頃は濡れた靴に突っ込んで水を吸わせたし、野菜をくるんだり荷物の緩衝材に入っているのも、光景としてはっきり、見覚えがある。

この「古い新聞紙ってあると便利だよね」のその先に、なにも書いていない新聞紙、という文化があった。

文字がないという感動(!?)

先日、わら半紙が欲しくて探しているときに「まっさら新聞紙」という商品を見つけた。

IMG_2754.JPG
こんなのがあるんだなあ

古新聞を使うようなシーンに同様に使え、しかもインクがついていない分、ラッピングや商用の緩衝材など用途が広い。

衝撃だったのはパッケージのキャッチコピーだ。

「文字がないという感動を」

IMG_2755.JPG
はっ!

しれっとものすごい過激なことを言ってくるではないか。

意図としては、上にも書いた、インクが付いていないことの利点を訴えているわけだが、それにしても文字がないことに感動を宿しえるとは、人類への皮肉みたいな寓話っぽさだなと思ってしまう。

IMG_2756.JPG
出すとこんな感じ。風合いがあって紙として良い
IMG_2757.JPG
厚み0.07mmとかなり薄手
IMG_2761.JPG
緩衝材として使うべく丸めると、シャシャシャッときれいに丸くなった。詰めやすそう

「まっさら新聞紙」は大変なヒット商品のようで、サイズもさまざま。さらにもう少し厚手のものや、色の白いものなど商品展開があった。

まっさら新聞紙”厚揚” A3・二つ折り/80枚 420×297mm 無地 新聞紙 国産紙 厚さ0.14mm クラフト紙風 厚い紙(お絵描き/梱包材/包装紙/緩衝材/ペットシーツ/敷紙/引っ越し/野菜保存/食器保護/インコ/ハムスターなど)折ってA4 アースグリッド厚揚A3

 厚手のタイプ

まっさら新聞紙”白雪” A3・二つ折り/130枚 420×297mm 無地 新聞紙 国産紙 厚さ0.07mm 柔らかい紙(お絵描き/梱包材/包装紙/緩衝材/ペットシーツ/敷紙/引っ越し/野菜保存/食器保護/インコ/ハムスターなど)白雪A3

こっちは白いの 

厚くしちゃったら新聞紙の範疇から出てしまうのではとも思ったし、色が白いのも新聞っぽさから離れるのではと素人の私は思ってしまうが、「もうちょと厚手の(もっと白い)、しかも文字のない新聞紙があったらなあ」という尽きない願いが人々の間にあって、それにこたえたのだろう。

無地の新聞への望みの熱さがうかがえる。文字のある方の新聞とは別の意味で商品としてホットだ。

調べるとこの世界には「まっさら新聞紙」だけではなくいろいろと文字を排した新聞というのがあるようだ。

新聞紙 無地新聞紙 インクで汚れない 清潔 詰め物 更紙 ペットシーツ 梱包材 無地 10kg 中敷き 荷造りの緩衝材等 たっぷり 約530枚 人気 お得! 通常タイプ

ぎゅっと縛られたさまがいかにも新聞紙っぽいが、無地 

いったん広告です

本当の「無地の新聞」も売ってた

へえと思ったのは、東京新聞のオフィシャル通販サイトだ。なにも印刷されていない新聞を販売しているという。

注文すると、「こんな感じで送ります」とサイトに断りがあったとおり、みちっと東京新聞のA4の封筒に入って届いた。 

IMG_2763.JPG
無地の新聞がそのまま投函で届いたら興奮するなと思ったが、これもぐっとくる
IMG_2765.JPG
あっ!新聞だ!!!! ここまでは普通の新聞とかわんない!!!
IMG_2768.JPG
うおおおお、無地だ~~

新聞の印刷所では、印刷の際に何も印字されない新聞が毎日出るのだそうだ。

新聞ぐらいぎゃんぎゃんに大量に刷る印刷物となると、その勢いで無地の新聞が輪転機から飛び出してくる様子はなんとなく想像できる。

IMG_2771.JPG
無地~~っ! (お気づきかと思いますが、背景紙からはみ出したため、背景が床です)

新聞になれなかった新聞 

販売サイトではこの商品を「新聞になれなかった新聞」と紹介していた。

IMG_2770.JPG
←なれなかった新聞 なれた新聞→

なんちゅう悲しいことを言うのかよ……。『人間になりたがった猫』の新聞編がいま開幕してしまう。ありったけ買って抱えて泣きたいキャッチコピーではないか。

活躍できる場があって堂々と出荷されるのだから温かいことである。

IMG_2772.JPG
「あの穴」がちゃんと開いてる……

物理的に広がる無

広げると、何も書かれてない。そうなんだけど、「おお……」と思わされる迫力がある。

IMG_2775.JPG
ぞっ

虚無がこんなに物理だったことがかつてあったろうか。

めくってもそこには何もない。私が悪いのではないか、となぜか思った。誰も悪くないんだよ、誰も。

無地の新聞の方が一般的になる未来

Amazonには、ふつうの文字の入った古新聞も売っていた。軍手付きのセットなどもあって、読むためではない、作業に使う強い意思がうかがえる。

Catsobat 新聞紙 古新聞 軍手1組セット 荷造り ペット飼育 トイレシート 引っ越し 梱包 中敷 BBQ アウトドア 包装材 緩衝材 機械油 掃除用品《予備紙梱包でボロボロな新聞一切なし!》 (90日分(約15kg))

新聞を窓ふきに使った際は、インクの性質が窓を磨くのに向いているのだと教わった覚えがあり、無地にはできない本物の新聞ならではの良さもあるんだろう。

この先新聞の電子化が進むと、もしかしたら紙の新聞紙は無地の方が一般的になったりするんだろうか。

そんなとき、印刷されたほうの新聞は、「文字新聞」などと呼ばれるのかもしれない。「固定電話」とか「有観客」みたいに。

利便のために何も書かれていない新聞が求められ、そして売られている。考えを及ばせる必要のない、これは事情である。

しかし、やっぱり、そこにあった文字がないことには目を開かせるものがあった。

お~~~~い! 文明~~~~! どこいった~~~! と思った。

探した。

IMG_2777.JPG
おーい
人間になりたがった猫 (児童図書館・文学の部屋 ロイド・アリグザンダー・ユーモア作品)

Source

タイトルとURLをコピーしました