メタバース のブーム加熱、真の「勝者」は誰になるのか?

DIGIDAY

メタバース業界は確かに熱い。IGの調査によると、「メタバース株」がGoogleで検索された件数は、前年同期比で1万7900%増加した。この関心の高まりのプラス面として、新たなイノベーションが次々と生まれている。

たとえば11月第1週には、Facebookが社名を「メタ(Meta)」に変更し、メタバース企業への転身にかける強い意気込みを表明した。しかし、それはまた、いい加減な煽(あお)り記事の乱発を生み、熱狂的な日和見主義者の集団を生み、巨大ハイテク企業たちをして、メタバースというコンセプトの争奪戦という短絡的な判断に走らせた。結果的に、メタバースのマイナス面も見えてきた。どうやらメタバースとは、うまく舵を取るには金も技術もかかる、複雑で雑然とした空間のようだ。

このことを誰よりも痛感しているのはマーケターたちだ。

実際、メタバースの台頭を機に、最新のトレンドに乗り遅れまいとするブランドから広告費を稼ごうと画策する企業が続々と現れている。ブランドとしては、ブームにあやかりたいだけの企業から、バーチャル環境で一定期間、安定して事業を展開してきた経験豊富な企業を確実に見極めなければならない。

挑戦者たち

文化的あるいは技術的に、真のメタバースに発展する可能性を秘めている領域がすでにあるとすれば、それはゲームとソーシャルメディアだ。さらに、第3のグループも台頭しつつある。それはディセントラランド(Decentraland)やトピア(Topia)などのメタバースに特化したプラットフォームで、その事業目的は、もっぱら仮想世界の構築と居住の推進だ。

複数の専門家によると、ゲーミングプラットフォームは、メタバース参入を狙うブランドを支援するのに、目下いちばん適した環境にあるという。仮想空間での消費行動に慣れている、忠実なユーザー基盤をすでに持っていることが大きいようだ。「この青年層は、Facebookが打ち出す新しいメタバース企業に、心底期待を抱くのだろうか」。そう問いかけるのは、ソーシャルメディアエージェンシーのムーヴメントストラテジー(Movement Strategy)で、最高経営責任者(CEO)を務めるジェイソン・ミッチェル氏だ。「メタバースが、ほかに比べるもののない、まったく新しいものであるのなら、それもありうるだろう。しかし、この世代はすでにロブロックス(Roblox)やフォートナイト(Fortnite)を使い慣れている」。

さらに、最近醜聞が絶えないFacebookは、ロブロックスやエピック(Epic)のようなビデオゲーム会社に比べ、消費者の評価が芳しくない。むしろ、Z世代の多くは、Facebookのメタバースが理想郷どころか反理想郷、いわゆるディストピアになるかもしれないと危惧している。「Facebookはメタバース体験の構築を極めて慎重に進めるだろう。広告に汚染されたエクスペリエンスでは話にならない」。ライブ配信ツールを提供するストリームエレメンツ(StreamElements)のドロン・ニールCEOはそう話す。「Facebookの過去の事業に鑑みれば、メタバースで広告収入を稼ぐ道は当面、断念するのではないか。少なくとも、新事業の本格化に必要なユーザー数を確保するまでは、そうなる公算が大きい」。

一方で、ブランドとの提携事業は、人目を引く派手なケースを含め、ゲーム業界のメタバースプラットフォームではすでに日常茶飯事となっている。たとえば、フォートナイトの場合、マーベル(Marvel)やスターウォーズ(Star Wars)のキャラクターを使ったコラボスキンやコラボアイテムを幅広く展開している。一方、ロブロックスは、人気アパレルブランドのヴァンズ(Vans)と提携して、「ヴァンズワールド(Vans World)」という恒久的な仮想空間をカスタム開発した。このようなゲーム内広告の既存の枠組みは、少し手を加えれば、容易に「メタバース内広告」へと作り替えることができる。「メタバースで広告を出すために必要な技術インフラを構築しただけだ」と、ゲーム内広告を手がけるアドミックス(Admix)のサミュエル・ヒューバーCEOは話す。「ブランドが要求するものを考えてみればよい。メタバースであれウェブであれ、彼らが必要としているのは、適切なユーザーに適切なタイミングでリーチし、作成したクリエイティブを統合して、効果を測定する能力だ。それは基本的にはDSP(デマンドサイドプラットフォーム)だが、もちろん、メタバースに特化したDSPが必要とされる」。

ブランド側の動向

ブランドには、適切なメタバースプラットフォームを見極める見識が必要だが、その反面、メタバースプラットフォームの側も、提携に値するブランドを慎重に検討する必要がある。すべての製品やサービスが、仮想空間での消費に適しているわけではない。たとえば、保険会社のステートファーム(State Farm)がディセントラランドにオフィスを構えるのは良いとしても、情報通の賢い消費者に「バーチャル保険」を売るのはかなり厳しい。

メタバースでは、複数のプラットフォームをまたいで、個人のオンラインアイデンティティを保持できる。必然的に、消費者がバーチャルで購入する可能性の高いブランドや商品は、ユーザー個人の外見やアイデンティティに関わるものとなりがちだ。デジタルマーケティングおよび広告サービスを提供するメディアモンクス(Media.Monks)で、ファッションおよびラグジュアリーブランド部門のグローバルクライアントパートナーを務めるリーアム・オズボーン氏はこう述べている。「いつの時代も、ファッションは個人のアイデンティティを構成するひとつの要素として使われてきた。人は、身につけるもので、現実世界の自分を表現する。デジタル世界が進化するに伴って、バーチャルな自分あるいはアバターに、より大きな重要性を認め、注意を向けるのは当然のことだ」。

現に、ゲーム業界以外のブランドで、メタバースにもっとも力を入れているのはファッションブランドや美容関連の企業だ。たとえば、ナイキ(Nike)とバレンシアガ(Balenciaga)はいずれもアパレル業界を代表するグローバルブランドだが、それぞれエピックゲームズと提携して、フォートナイト向けのコラボ商品を展開している。特にナイキは、新たにバーチャル専門のデザインチームを設置する一方、同社のスウィッシュロゴを使用したダウンロード可能なデジタル商品について、商標登録を出願している。「豊かになった仮想世界では、現実世界ではあまりにも高額で手の届かない服や化粧品も、あれこれ自由に試してみることができる」とオズボーン氏は指摘する。

だからといって、消費者の外見に関わるブランド以外は、バーチャルでのアクティベーションに手を出すなというわけではない。自分の買う物や好む物を、個人のアイデンティティを表す指標と位置づけるアメリカの消費文化の台頭は、メタバースの出現ときれいに符合する。一方で、「このような消費文化は、メタバースやインターネットの概念が生んだものではなく、むしろライフスタイルブランドの台頭と密接に関わっている」。そう話すのは、テクノロジーとストーリーテリングの専門家で、『The Sea We Swim In and The Art of Immersion(我々の泳ぐ海、そして没入の極意)』を著したフランク・ローズ氏だ。「ライフスタイルブランドは基本的になんでもアリだ。高級酒のブランドもアパレルメーカーもライフスタイルブランドだ。逆にいえば、ハーレーダビッドソンはライフスタイルブランドだからこそ意味がある」。

仮想空間で、着用するもの以外の物品、たとえば自動車や家などの所有が普及すれば、消費者はこのような買い物も、自分のアイデンティティに紐付けるようになるだろう。そうなれば、バーチャルな所有権という概念にも、自ずと価値が備わるようになる。アパレル企業や化粧品会社が、非代替性トークン(NFT)という一種のデジタル資産やバーチャル商品の販売で成功している事実は、より具体化されたバーチャル経済のあり方を予見させるものだ。

メタバースで販売される商品がバーチャルであろうがリアルであろうが、人々が仮想空間に慣れるにつれて、広告の性質も変容するだろう。ロブロックスは、ブランドとのパートナーシップを広告ではなく「共有体験」と表現し、デジタル環境でのインタラクティブな交流が、ブランドと消費者のあいだに双方向の関係を築くと強調する。メタバースの住人たちが、高度にインタラクティブなブランド体験に慣れてしまえば、物理的な世界のビルボード、さらには従来的なインターネットのバナー広告でさえ、相対的に色褪せて見えるかもしれない。「オーディエンスが真に関わりたいと願うブランドはどこなのか。我々はそういうブランドを提携相手に選びたい」と、ロブロックスのブランドパートナーシップ担当バイスプレジデントを務めるクリスティーナ・ウートン氏は述べている。「メタバースの可能性に対するオーディエンスの期待は大きい。ユーザーエクスペリエンスの向上にもつながる」。

eコマースの機会

バーチャル所有権が消費者のあいだで一般化するまでは、バーチャルとリアルの商品をうまく組み合わせることで、デジタル商品に価値を付加することができる。たとえば、ロブロックスの「ヴァンズワールド」では、スケートボードやTシャツなど、さまざまなデジタル商品を展開しているが、ヴァンズの実店舗に行けば、まったく同じデザインの商品を買うことができる。ヴァンズのグローバル統合マーケティング担当バイスプレジデントを務めるニック・ストリート氏はこう説明する。「バーチャルと実店舗がぴったり重なる。同じプラットフォーム、同じエクスペリエンスだ。バーチャルで見たシューズを、リアルの店舗で購入できる。独自のデザインを追加することも可能だ」。

現在、ヴァンズワールドのゲーム内ストアとヴァンズのオンラインショップは統合されていない。ロブロックスはCOPPA(児童オンラインプライバシー保護法)に準拠したプラットフォームであるため、ユーザーがゲーム内のオブジェクトをクリックしてゲーム外に移動することは不可能なのだ。しかし、仮想空間の商品と現実の商品の組み合わせは、すべてとはいわないまでも、ほとんどどのメタバースプラットフォームも、将来的な事業計画の一部として検討している。たとえば、バーチャルライブのプラットフォームであるステージヴァース(Stageverse)の世界には、物販のための専用エリアが設けられている。動画素材サービスのストーリーブロックス(Storyblocks)でCEOを務めるTJ・レナード氏はこう話す。「デジタル商品の価値を高める要因はいくつかあるが、仮想世界と現実世界の橋渡しができる商品は、ただそれだけで価値が高い」。実際、モナコマーケット(Monaco Market)のようなプラットフォームは、メタバース経済が形を成してくれば、リアルとバーチャルの組み合わせが一般化すると確信している。この信念のもとに、モナコマーケットは、スニーカーやベースボールカードのような現実世界のコレクターズアイテムを専門に取引するNFTマーケットプレイスを立ち上げている。

メタバースはまだ歴史が浅く、真に有用なツールというよりは、その目新しさが注目されているというのが現状だ。しかし、新型コロナウイルス禍を背景に消費者の行動が変容する一方、ビデオゲームの世界ではデジタルネイティブの新世代が育っている。メタバースはもはや必然だ。それは今日のインターネットの進化形であり、それに取って代わるものではない。eスポーツベッティングを運営するライヴァルリー(Rivalry)のスティーヴン・ザルツCEOは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)が広く認知され、ユーザーの注目がゲームプラットフォームに集まるなか、「インターネット上でエンターテインメント商品を作成している人は、誰でもメタバースの参加者だ」と述べている。

究極的に、「メタバースの拡大から一番の恩恵を受けるのは、メタバースの主流化を背景に仮想空間で試行錯誤を重ねるブランドやプラットフォームではない」とザルツ氏は話す。同氏の見立てによれば、メタバースの最大の受益者は、かつてビデオゲームのブームで最大の恩恵を受けたのと同じ者たちだ。メタバースで遊ぶにしろ、働くにしろ、あるいは物を買うにしろ、この仮想空間を稼働させるには、大量のハードウェアが必要となる。プレイヤーであれブランドであれ、あるいはプラットフォームであれ、その事実は変わらない。「勝ち組がいるとすれば、それはNVIDIAのようなグラフィックカードを製造する企業だ。高性能のGPUやCPUを提供する者たちだ。それはいまに始まったことではない。ゲームエンジンの開発企業も勝ち組だろう。メタバースに関する限り、最後に笑うのは、アンリアル(Unreal)やユニティ(Unity)あたりだろう」。

[原文:With brands and platforms diving into the metaverse, leaders are emerging from the gaming space

ALEXANDER LEE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)

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