総括なき枝野氏に福島県民は落胆 – 鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

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立憲民主党の枝野幸男代表が12日、代表の座を降りた。総選挙での議席減の責任を取った形だが、10年前の「ただちに影響ない」発言に対する謝罪は無いまま。当時、わが子を守ろうと必死だった福島の人々からは「非を認めて欲しかった」と落胆と怒りの声があがっている。10月22日号では今なお消えないモヤモヤを報じたが、枝野氏は結局、官房長官当時の自身の言動について一度も総括することなかった。福島選出の同党所属代議士は「謝罪に近い言葉を発したと聞いている」と話すが、そのように認識している人は多くない。

【「正確な情報欲しかった」】

 「今日のこの場においでいただくことができない、そういう結果になった多くの仲間がいると。本当に、この間皆さんのおかげで歩んでこられた、そのことを私自身が大変幸せに感じているだけに、こうした状況になってしまったことをいっそう残念に、また申し訳なく思っているところでございます」
 枝野氏は12日に開かれた立憲民主党両院議員総会での代表退任あいさつで、先の総選挙で落選した所属議員にそう言って詫びた。しかし、落選議員以外にも枝野氏の謝罪を待っている人々がいる。10月22日号で報じたように、2011年3月の原発事故発生時、当時の枝野官房長官の「ただちに影響ない」発言に翻弄された福島の人々だ。実際、中通りの男性は「結局、謝罪しないまま辞めるのか」とつぶやいている。

 実は総選挙後、立憲民主党の関係者は「それは鈴木さんが取材で質問するからそう言うわけでしょ?選挙期間中も私の周りにはそこにこだわっている人はいなかった」と首を傾げた。
 果たしでそうだろうか。本気でそう考えているのだとしたら、あまりに認識不足ではないか。枝野氏が応援演説のため川俣町を訪れた際、聴きに来ていた50代男性も、こう吐露しているのだ。
 「枝野さんは「『ただちに影響ない』のイメージは強いですよ。〝誰も経験したことのない原発事故〟というのは分かるんだけど、やっぱり正確な情報を発信してくれれば良かった」
 当時、男性の子どもは幼稚園児だった。〝自主避難〟も検討したが、様々な事情でできなかったという。

 「避難指示が出なかった区域にだって線量の高い場所はあったから。川俣でも飯舘村に近い地域、山木屋に近い地域、二本松に近い地域…。後から考えると、避難指示が出なかった区域に住んでいるわれわれも(避難指示に)該当したんじゃねえの?っていう想いがあるよね。特に幼い子どもがいる家庭は自力で県外に逃げた。とどまった人の多くは枝野官房長官の言葉を信じてた。だって分からないんだから信じるしかなかった。でも実際どうだったのかね。そのモヤモヤを抱えている人は多いですよ」

果たして被曝リスクが存在するのは避難指示区域だけなのか。初めから避難指示が出されなかった区域には被曝リスクは無いのか…。原発事故発生から10年経ってもなお、福島の人々は複雑な想いを抱えている

【「非を認めずに天下とれぬ」】

 郡山市の女性は自民党総裁選挙が行われる直前の今年9月、こう語っている。
 「枝野さんは嫌いですよ。あの人の顔ほど見たくないものはありません。自分だけ防護服を着て来たんですよ、ここに住んでいる人が防護服を着ていないのに…。でも、彼自身は危ないと分かっているから防護服を着て福島に来たのでしょう」
 「あの時の『ただちに影響ない』は謝って欲しいですね。被曝リスクが存在すると当然分かっていたはずなのに私たちには伝えなかった。許されないでしょ、そんなこと。そもそも、何の影響もないはずないじゃない。10年経って何か身体に影響が起きても原発事故が原因だと証明などできない。どんなに調べても『因果関係はない』と言うでしょう。誰も立証できないのだから」
 総選挙投開票日の夜、自民党候補を支持する中通りの男性も「枝野さん嫌いです」と口にした。
 「やっぱり原発事故対応が一番大きいですよね。あれを思い出すと拒否反応が出てしまう。あのとき『ただちに影響ない』しか言わなかったでしょ。あれ一辺倒だったでしょ。もっと違う言い方があったんじゃないの?と思いますよ」
 では、男性が枝野氏に厳しいのは自民党支持者だからなのだろうか。率直にそう質すと、男性は否定した。
 「もちろん、安倍さんだって好き勝手やってるなと思いましたよ。決して手放しで支持しているわけではありません。それでも、10年前と比べるとね…民主党政権の震災・原発事故対応を思い返すと、あれよりはまだ自民党政権の方がマシかなって思ってしまう。そのくらい僕たちにとってインパクトが大きかったんですよ」
 だからこそ、一度総括して頭を下げ、そのうえで支持を求めるべきだった。伊達市の男性は「謝ってくれれば、俺には許す用意がある」と言っていた。しかし、それは叶わなかった。前述の郡山市の女性も「非を認めるべきだ」と語っている。
 「非を認めないって駄目じゃないですか。先に進めないでしょ。認めたら先に進めるけど、一向に先に進めないのは反省しないからですよ。それでは天下などとれません」

当選証書を受け取った金子恵美代議士。取材に対し「枝野さんは謝罪に近い言葉を発したと仲間からは聞いている」と語った=福島県庁

【「枝野さんは分かってる」】
 「あのとき私は副幹事長でした。すごく混乱はありました。確かに、枝野さんのあの言葉はおかしい。私も問題発言だったと思います。テレビで官房長官会見を観て、何これ?って言いましたよ」
 今月2日、福島県庁で当選証書を受け取った金子恵美代議士(福島1区)は、囲み取材を終えると20分ほど筆者の取材に応じた。
 「『命と暮らしを守る』と言っているのであれば、最悪のことを考えて動くべきでした。官僚に言わされたのか分かりませんが、ああいう言い方はまずかった。私には受け入れがたい言葉でした。だから『おかしいんじゃないですか』って党内で言いました。それは枝野さんにも伝わっているはずです。伝わったから本人も気にしているんです。気にしてると思いますよ。分かってると思いますよ。福島入りして良いのかどうかというのは、やっぱり毎回毎回、躊躇していたと思います。やっぱり考えながら福島に入っていたと思います」
 他方、立憲民主党に所属する福島県議のなかからは「皆さんに何回もお詫びをしているし(怒りは)薄れているのではないか」との発言もあるという。
 「私は直接その場に居たわけではありませんが、どこかの場で福島の皆さんにお詫びしたと。明確な伝え方はできていないのかもしれないけれど、謝罪に近い言葉を発したと仲間からは聞いています。枝野さんは自分がしてきたことは分かってる。でも伝わってないんですね。発信ができていなかったのかもしれませんね」
 金子代議士は「枝野さんは廃炉など原発の問題には力を入れてきたんですよ」と強調した。
 「私は役員室の次長として枝野さんと週1回は接してきました。ALPS処理水の問題などの取り組みはちゃんとしてくださったと思います。現場に来て意見を聴くとか対応してくださった。私たちに目を向けて寄り添ってくれているという印象はあった。でも、伝え方が上手ではなくて、ご理解いただけていないのかもしれないですね」
 伝え方が上手でないリーダーに、「一度頭を下げるべきだ」と進言する人が周囲にいなかったのだろうか。枝野氏が発したという「謝罪に近い言葉」は残念ながら、福島の人々には届いていない。

(了)

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