第4回:故人のTwitterアカウントの正しい消し方、残し方【天国へのプロトコル】

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事例――急死した子どものTwitterアカウントを抹消したい

 Hさんからの相談は、急死した息子さんが残したTwitterアカウントを抹消したいというものでした。2年ほど前のことです。

 息子さんの遺品を整理していると、PCの履歴からTwitterアカウントが見つかり、それは、詐欺まがいの活動をしていると思われるものだったといいます。プロフィール欄に「自分は末期がんで余命幾ばくもないので、デイトレで成した財産をフォロワーさんに差し上げます」などと書かれており、ログインしたままになっているPCにはいまでも「いいね」やリツイートの通知が届いているとのこと。

「息子の死因はがんではありませんし、財産といえるほどの蓄えもありません。良からぬ行為をしていたのは明らかで、早く抹消したいのですが、パスワードも分からず、Twitter社に申請してもなかなか応じてくれません。何かほかの手立てはないでしょうか?」

 故人のTwitterアカウントを抹消したい場合、どうすればいいのか? うまく行かずにHさんが断念したものも含めて、今回は3つの方法を紹介し、検証していきます。

故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには、適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルは整備途上の部分が少なくありません。だからこそ、残す側も残される側も現状を掴んでおくのが得策です。この連載「天国へのプロトコル」では、デジタル遺品について10年以上取材を続けて、相談に乗っている筆者が、実例をベースに解説していきます(毎月1回更新予定)。

方法1――代行者としてアカウントを削除する

 もっとも簡単なのはユーザーとして(あるいはユーザーの代理として)、アカウント削除を選ぶ方法です。ログイン状態なら設定メニューの「アカウント」項目にある「アカウント削除」を選べば実行できます。

 ただし、その際に改めてパスワードの入力が求められます。Hさんの手元にはログイン状態で残されたPCがあるのみで、息子さんの遺品からパスワードらしい情報は見つからず、この方法は使えませんでした。

Twitterのアカウント削除リクエスト画面(PC版、以下同)

 パスワードが分からない場合は、「パスワードをお忘れですか?」を選んで再設定する手順もあります。その場合は登録しているメールアドレス、もしくは電話番号を入力すると、メールやSMS等に認証コードが送られるので、それをキーにして再設定に進みます。パスワードを再設定したうえでアカウントを抹消するわけです。

登録しているメールアドレス、もしくは携帯電話で認証コードを受けるとパスワードが再設定できる

 Hさんのケースではこちらも使えませんでした。息子さんは普段使っているものとは別のメールアドレスで登録したようでメール入力では先に進めず、所持していたスマホの電話番号もすでに解約済みなために試すことが叶いませんでした。そうなるとパスワード入力による抹消は諦めざるを得ません。

方法2――遺族としてアカウント削除を申請する

 この段でとれる正当な道筋は、Hさんが実施したとおり、Twitter社に遺族としてアカウントの抹消を申請するということになります。

 Twitterは故人のアカウントの停止を依頼するフォームを提供しています。ヘルプセンターの「亡くなられた人について」のページから、「アカウント停止フォーム」をクリックしてアクセスできる「自身での対応が難しい利用者や亡くなられた利用者のアカウントの停止」ページに、必要な情報を入力すれば申請可能です。

 故人のアカウントや申請者との関係性、申請者のメールアドレスなどを入力して送信すると、その後は運営元の判断を経て個別対応となります。Hさんの場合、その後にTwitter本社から下記の書類を追加でアップロードするように促す英文メールが届きました。

  • 死亡診断書のコピー
  • 故人の身分証明カードのコピー(運転免許証など)
  • 代行者として偽証のないことを宣言する一文と署名

 しかし、アップロードした後はなしのつぶてで、手立てが絶たれたために筆者に相談メールを送ったとのことです。

 実のところ、Hさん以外にもTwitterのアカウント抹消に関する相談を受けたことが過去に3回ありますが、このフォームで申請が通ったという事例には出合ったことがありません。フォームにある情報以外にどんな書類や署名が必要で、どうすれば申請がスムーズに通るのか。今回改めてTwitter社に問い合わせましたが、残念ながらノーコメントとのことでした。

方法3――ツイートを全削除してアカウント自体は保持する

 そのほかの方法としては、詐欺まがいということでアカウントや当該ツイートを通報して、アカウントの凍結を促す手段も考えられます。ただし、狙いどおりに凍結されるかはやはり運営元の判断次第となりますし、本来の通報対象と見なすべき内容以外では、無闇に試すのは控えるべきだと思います。

凍結されたアカウントのページ

 そこでHさんには、ひとつひとつのツイートを手動で削除していく方法を提案しました。ログイン状態が保てていれば、個別のツイートの削除や、フォロワーの整理、アイコン画像やプロフィール、壁紙なども変更可能です。パスワードがなくても、アカウントの中身を空っぽにしてしまえます。

ツイートやプロフィールなどを手動で全削除したページ

 パスワードなしでできないのは、アカウントの抹消を除くと、アカウントの非公開化(いわゆる「鍵垢」化)と、表示名の変更などです。なお、メンション先や自分のアカウントのURLとして使われる「@yskfuruta」のようなTwitterのIDは「ユーザー名(スクリーンネーム)」、「古田雄介」のように画面に表示される名前は「表示名」または「名前」と呼ばれます。

 この、アカウントを残し、ユーザー名を保持し続ける状況は、アカウントを抹消するよりもある意味で理想的かもしれません。

 変更や抹消で使われなくなったユーザー名は、30日間の復元猶予期間を過ぎると、誰でも再登録できるようになります。たとえば、2018年7月に自殺配信して死亡した10代女性のTwitterアカウントはやがて消滅しましたが、そのユーザー名は希死念慮を持つ一部のグループの間である種の偶像になり、現在までに少なくとも3人のユーザーの手に渡っています。ユーザー名を保持したまま、空っぽのアカウントを維持しておけば、そうした広がりが抑えられます。

アカウントの抹消、もしくはユーザー名の変更で、もとのURLに存在しなくなった状態のページ。同じユーザー名をを誰かが取得したら、URLもろとも再利用される

最後に――故人のアカウントを削除するということ

 ただ、故人のアカウントを処理するうえで念頭に置いておきたいのは、故人が残したものを抹消することには、ひとまず慎重になるべきということです。Hさんの息子さんが残したものは明らかに詐欺まがいの内容だったので、上記の方法を提案しました。

 しかし、誰かの「いいね」がついた無害なつぶやきだったり、誰かとの交流の足跡であったりが残されているなら、それは誰かにとっての大切な思い出かもしれません。当人が何の意向も残していなかったら、遺族などの残された側が難しい判断を下すことになってしまいますが、無条件に削除することだけは避けたほうがいいと思うのです。

 Twitter社は、2019年の暮れに故人のアカウントを含む休眠アカウントを一掃する計画を中止した際、故人のアカウントを保護する「追悼アカウント」機能を実装すると表明しました。この機能が実装されたら、死後対応における有力な選択肢になることでしょう。

 当初は2021年中に実装する予定でしたが、現在は2022年中となっています。現在の進行具合について、遺族によるアカウント抹消とあわせて質問しましたが、同社の返答は「追悼アカウントについてはアップデートはございません」でした。年内の動きに期待したいところです。

今回のまとめ
  • Twitterのアカウント抹消や鍵垢化にはパスワード入力が必要になる。
  • 故人のアカウント処理の申請はうまくいかないことが現状では少なくない。
  • 完全に手放すよりも、アカウントを残した方がいい場合もある。
  • 故人のページの処理はいつでも慎重でいたい。

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