小田急電鉄が、来年春から子ども(12歳未満)の運賃を乗車区間にかかわらず一律50円にすると発表しました。
現状の運賃は、最長区間の小田原から新宿だと、片道445円ですから400円近く安くなります。約9割引きという大幅ディスカウントです。
運賃だけ見るとすごい値下げに見えますが、予想減収額は年間2億5000万円程度だそうです。小田急の運輸収入は、コロナ禍の2021年3月期でも810億円(2021年3月期)ありますから、減収比率は軽微です。
見た目のインパクトと話題性が大きい割に負担が小さく、巧みなマーケティング戦略といえます。
それだけではありません。子育て世帯へのアピールになり、ファミリー層の沿線人気を高めます。また、家族の外出を促進する効果も期待できます。
小田急はこのような運賃引き下げによる価格戦略だけではなく、沿線の魅力を高めるコンテンツの競争も広げています。
既に「子育て応援トレイン」を走らせ、「Emotパスポート」という沿線店舗で使えるサブスクリプションサービスも開始しました。
ファミリー層にフォーカスした地域住民向けのサービス向上策を次々と打ち出しています。
従来の保守的な鉄道会社には見られない大胆な競争を仕掛けるのは、将来の鉄道利用者減少という厳しい経営環境を見越しているからです。
日本の人口は既に減少フェーズに入っていますが、今後そのスピードは加速していきます。東京はまだ人口流入が続いていますが、安泰ではありません。沿線住民の人口減少と高齢化に加え、リモートワークにより鉄道の利用頻度も減っています。
今回の運賃値下げは、鉄道会社同士で沿線住民を奪い合う競争の号砲と捉えることもできます。
新宿から多摩センターの区間では、京王電鉄が競合します。こちらもユニークな経営で知られる京王電鉄のリアクションが楽しみです。
今後、鉄道各社が様々な沿線の活性化策を出すことで、鉄道会社の勢力地図が変わるかもしれません。鉄道の世界にもコロナ禍が日本国内の変化を加速させていることを感じます。
編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2021年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。