超音波ビームで「がん治療薬を脳に送り込む」治療法が登場

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従来のモノクローナル抗体治療では効果が見込めなかった脳内のがんについて、新たに「MRIと超音波ビームでモノクローナル抗体を脳に送り込む」という治療法が登場しました。

MR-guided focused ultrasound enhances delivery of trastuzumab to Her2-positive brain metastases
https://doi.org/10.1126/scitranslmed.abj4011

MRI and Ultrasound Can Sneak Cancer Drugs into the Brain – IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/mri-ultrasound-brain-cancer

モノクローナル抗体は、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異物に対して人体が産生した特定の抗体をクローニングして作成された抗体です。モノクローナル抗体がどのようにがんを治すかについては、以下のアメリカ国立がん研究所が作成したムービー(日本語字幕付き)が参考になります。

モノクローナル抗体はがんをどう治す?/米国国立がん研究所(NCI) – YouTube
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このモノクローナル抗体によるがん治療は近年注目を浴びている治療法ですが、脳内のがんに関しては血液と脳組織との間で異分子が行き来するのを妨げる血液脳関門という機構の存在によって、脳にモノクローナル抗体を届かせることは困難とされていました。

こうした状況の中、新たにカナダ・サニーブルック保健科学センターの脳神経外科医チームが「MRIによって誘導される超音波ビームによって腫瘍近辺の血液脳関門を一時的に無効化してモノクローナル抗体を脳に送り込む」という治療法を開発しました。

すでに人間を対象にした治験も行われており、転移性乳がんの一種であるHER2陽性乳がんを有する患者4名が、HER2陽性乳がんに対応するモノクローナル抗体治療薬のトラスツズマブを、1024個の超音波トランスデューサを備えた半球状のヘルメットから超音波の照射を受けながら投与されました。この投与は計20回(一人あたり最大6回)行われ、放射性物質で薬剤を追跡するシステムによって多数の薬剤が腫瘍に到達した一方で無関係な領域には到達しなかったことが確認されたほか、実験期間中に目立った副作用も確認されませんでした。


今回の研究結果について、論文筆頭著者のニル・リップスマン氏は「非常に有望」「がんだけでなく脳に影響を与えるさまざまな疾患にも対処できる」と語りましたが、コメントを求められたハーバード大学医学部放射線科のネイサン・マクダノルド教授は強力な治療効果を得られるかどうかは不明瞭であるという点と、放射性物質による薬剤追跡システムは解像度がかなり低く、腫瘍内に到達した薬物量の測定が不正確な可能性がある点に注意すべきと語りました。

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2021年10月29日 14時00分00秒 in サイエンス, Posted by log1k_iy

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