事業終了のニュースが駆けめぐった「スピードラーニング」の思い出…結局英語は話せるようになったのか

ロケットニュース24

先日ネットサーフィンをしていた筆者は、あるニュースタイトルを2度見した。プロゴルファー 石川遼氏を起用し「聞き流すだけで英語が話せるようになる」として一時代を築いた「スピードラーニング事業終了」だと……?

サイトを確認すると、たしかに「諸般の事情により、2021年8月31日をもちましてエスプリラインにおけるスピードラーニング事業は終了いたしました」とある。

なにを隠そう筆者は10年ほど前に会員だった。「スピードラーニング」とともに過ごした日々が走馬灯のようによみがえる……。


・「スピードラーニング」の仕組み

いまでこそYouTubeやPodcastなど、無料の英語チャンネルはたくさんあるが、当時は「英語通信教育」というものに それなりのニーズがあったと思う。「イングリッシュ・アドベンチャー」の『家出のドリッピー』もよく広告を見かけた。ただ、料金は決して安くない。

記憶が定かではないが、「スピードラーニング」は月額4000円程度だったようで、月1本(コースによる)のCDが届く。

世間話や旅行会話など1本ごとにテーマがあり、優雅なクラシック音楽を背景に、複数の登場人物が会話をする。この辺りはテレビなどの英会話チャンネルと大して変わりはない。

しかしCDでは英語の後に日本語の対訳が流れ、辞書など使わずに、つまり「テキストもノートも必要なく、聞き流すだけで」意味を把握できる、というものだった。

外国語学習は「わからない」ことが最大のストレスになる。そのストレスを排除し、しかもゆったりしたクラシック音楽でリラックスするので、英語嫌いを作らない、というような理屈だったと思う。

「聞き流し」は子どもが自然に母語を覚えるのと同じプロセス……という説明もあったように記憶している。

たしかプロのナレーターやアナウンサーを起用している、というのも特徴で、「正しく美しい発音」がセールスポイントだった。実際、収録されている音声は男女ともにクリアで耳に馴染みやすく、とても心地よい話し方だった。


筆者が経験した範囲では、1本のCDに短い会話が複数入っている形式で、ストーリーはとくにない。しかし「繰り返し出てくる登場人物」というのはいて、人間関係が微妙に進展していくのが微笑ましくもあった。

ちなみに同時期に愛用していたNHKの「リトル・チャロ」のリスニングCDはストーリーがあったので、「早く先を聴きたい!」と思わせる。一方の「スピードラーニング」は夫婦が互いに今日の予定を尋ねたり、次に行く観光名所の相談だったり、本当に「オチのない会話」なので、そういう意味では少々退屈さもあった。


・英語が話せるようになったのか

結果的にCDが結構な枚数になったので、1年以上続けたのだと思う。しかも当時は車通勤で、習慣的にカーステレオをオンにしていたので「土日を除くほぼ毎日」聴いていた。

それで英語が話せるようになったのか。


答えは「否」である!


繰り返し聞いているうちに、英語特有の音の省略などにも慣れ、たしかに聞き取りやすくなる。正しい発音に触れる機会にもなった。おそらくリスニング能力という点では無駄ではなかったと思う。しかし、それだけでは英語は話せない。

理由は簡単。語学はインプットだけでは決して身につかないのである! 覚えたことを活用する、つまりネイティブの人と話すなり、アドリブ・スピーチを練習するなり、アウトプットの時間がなければ不十分なのである。


ようやくそのことに気づいた筆者は、シリーズの残りはまだ数十巻あったが解約した。すでにそこまで数万円の出費であった。


これまでの人生で、英語習得にもっとも効果を感じられたのはやはりネイティブ講師の英会話教室で、かつマンツーマンのクラス。とにかく自分がしゃべらないと気まずい沈黙が流れるだけなので、無理にでも言葉をひねり出そうとする。

デタラメでもボディランゲージでもいいから、とにかく旅先で困らないくらいのコミュ力が欲しい、という場合には効果的だと思った。体系的に正しい英語を学びたい人には、また別の方法があると思うが。

今回の「スピードラーニング」終了の理由は明らかではないが、おそらく事業の先行きは明るくなかったと思う。冒頭で述べたとおり、自宅にいながら世界中の英語話者の動画が見られる時代だし、オンライン英会話教室など双方向のサービスもたくさんある。

「聞き流すだけ」で月数千円の学習方法は、もはや時代のニーズに応えられていなかったのではないか。なんてったって、筆者はまったくしゃべれるようにならなかったし。

ひとつの時代が終わった。一抹の寂しさを感じつつ、筆者はパソコンを閉じた。


参考リンク:株式会社エスプリライン
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:株式会社エスプリライン公式ホームページ

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