トゲトゲのついた服は怖い。
パンクファッションを代表するものに、鋲ジャン(トゲのたくさんついた革ジャン)がある。
それを着ている人はみんな怖いと思ってしまう。
でも、私は知っている。
怖く見せようなんて気は1ミリもないのだ。
ただパンクロックが好きすぎて、このパンクな精神を表したくて、それがしっくりくるのがトゲの形で、そのトゲが体内から突き出てるような服を着てしまうのだと。
私もパンクロックが好きだ。その誤解を解きたい。
今回は「怖い印象を与えない、やさしいのトゲの服」を作ろう!
トゲの服がもっと親しみやすくなったらいいなと思う。
やさしいトゲ
そもそも、なぜトゲの服が怖いのかと思ったら、鋭くトガった形もそうだが素材にあると思うのだ。
トゲの服代表である鋲ジャンは、黒い革のジャンパーに銀のトゲの鋲がいっぱいついている。
この黒い革と銀のトゲのハードな素材の組み合わせが強そうに見えて怖いのだ。
さらに黒と銀のカラーも悪魔を連想させて怖い。
要は、素材と色が怖さを倍増させている。
それならこれと真逆なものを使えば、やさしいトゲの印象にガラッと変えられるはずである。
答えはすぐに見つかった。
白いニットで作ろう!
トゲニットって名前もいい。
デザインを考える
さっそくデザインを描いた。
作り方は簡単。毛糸でトゲを編み、それを既存のニットに縫いつけていくだけ。
しかし、私は編み物をしたことがない。
以前リリアンで巨大な靴下を編んだのだが、それしかしたことない。かぎ針などを使って編んだことがないのだ。困った。
トゲを編みにいく
持つべきものは「編み物教えて!」というとすぐに集まってくれる友である。
編み物を教えてくれる友人と、最近泣ける韓国ドラマ「愛の不時着」を見終えて語りたくてたまらない友人と3人で土手に集まった。
まずはトゲの作り方より基本の編み方から教えてもらう。見よう見まねでやってみよう!
少し編んで「ここまでできた?」と見せられたやつが、私のと全然違った。
「あれ?どこで間違えた?」と聞かれたけど、何もわからなかった。私にわかるのは、星が輝く理由だけ。
しばらく格闘していると、教えてもらってる分際で「円錐って縫えば3秒で終わるのになぁ。」という気持ちが大きくなってきた。でも言えない。言えないし、言えない。
ひたすら手を動かしてると、愛の不時着にハマってる友人が感動シーンを語り始めた。
編み方を教えてくれる先生も、愛の不時着の話の方への入っていってしまった。
そして気づいたら感動をぶり返して友人が泣きだし、先生は「わかる!つらい!」と興奮絶叫し、私は間違えてるほどいてる途中でミッキーができた。
土手で西日を浴び、愛の不時着の話を聞きながら2時間ほどで作ったのがこれ。
予定では今日理想のトゲを3つくらい編めるかなと思っていたのだが、ひとつもできなかった。想像以上に難しい。
家に帰ってからも編んだ。
千里の道も一歩からである。初日はこんなものかもしれない。
ひたすら編む
翌日、編んでも編んでもトゲにならないので先生に電話し、ひと工程ずつ手順をメモした。
「くるんする」が気に入って「ここで2回くるんだよね?」と先生に聞いたら「くるんがなんなのかわからないけど。」と言われた。でもめげずに使おう。
だんだんと仕組みがわかってきた!
それから毎日編んだ。
大型のトゲが編めるようになった。
しかしこれだとニットにくくりつけるときに、底が広くて面積をとってしまう。着た時に体のカーブがでるとトゲが自然にならない気がする。もう少しトゲを細くし、底を小さくしよう。
そして少し細いトゲを作った。
今回の編み方は、1.2.3番目の穴まで1回ずつくるんして、4番目の穴は2度くるんする。
1.2.3、44のリズムでくるんするのだ。1.2.3、4.4のリズムをやりすぎて、せんべいを食べる時も一口食べるごとに今2だなと思っていた。
一週間経つと編むのが早くなってきた。
そしてさらにトゲが細くなった。
今の私からは細いトゲしか生まれない。
ピカソの青の時代みたいな感じで、ほその時代である。
まだまだ編む。
寝ても醒めても、編む。
途中ほその時代が終わって、どう編んでもねじれができるねじれの時代が来た。
毎日寝る前に編んでいたら、ベッドのふちがトゲだらけになった。
こうして全部で20個のほそトゲが完成した。
初日のものから並べると人類の進化のよう。
ニットに縫いつける
よし、トゲをニットに縫い付けていこう。
お気に入りの白いニットを引っ張り出してきた。
まずはデザイン画どおり、前面にトゲを無造作につけていく。
着てみよっと!
乳がいっぱいあるヤマンバみたいでグロテスクだ。これは鋲ジャン着てる人より怖い。
それならトゲを背中にして着てみたらどうだ。
白いトゲたちになんか見覚えあるなと思ったら蔵王の樹氷だ。
冬の絶景が背中についてるのは嬉しいけど、なんか違う。やさしさがゼロ。
見栄え的にも、前から見た時にトゲがわかりやすい方がいい。あと横着しないでトゲは規則的に並べた方がいいと思った。
世の中の無造作って実は無造作じゃないんだった。
手直ししてトゲを肩から袖に一列につけてみた。
さぁどんな感じだろう!
トゲの主張が強い。やたら強い。全然やさしくなれない。
ひじを曲げるとかなりトゲが目立つ。
なのに着るとトゲが邪魔じゃない。手も動かしやすいので実用的ではある。
しかし、やさしさはない。
この写真を姉に送り「やさしい感じにしたい。」と相談したら、「真ん中に顔つけたら?」と写真が送られてきた。
人の認知は色→形→素材の順だと聞いたことがある。
人はトイレのマークを赤と青で認識しているため、男女のシルエットが入れ替わっても女性は赤だけをみて入っていくらしい。
その法則でいけば、今回は白→トゲ→ニットの順で認識するのだ。おそらくトゲが強すぎてニットの優しい風合いを感じるまでにたどり着いていない。
トゲがこんなに強情だと、このままでいいな、と思ってきた。ここまで逆をついても主張の激しいトゲってすごい。
もう、トガりたいだけトガらしてやろうと思って、作ったトゲを全部つけてみた。
着ると最終形態っぽい。
小ぶりなトゲを胸元につけたらかわいい。
背中はいかついモンスター。
そもそもトゲをやさしくしようなんて考えが間違ってた。
トゲはなにで作ってもトゲであり、どうしても怖くなっちゃうところが魅力なのだ。
それでいて欲しい。
気になること
2週間ほど毎日編み物をしていたら、左手の人差し指が痛くなった。
編む時に、常に折り曲げていたのが原因で、編み物をやめて一週間経った今でも、指を曲げると痺れるように痛い。
全然ロックじゃなくてすみませんが、これはなんていう病気なのか、わかる方がいたら教えていただけると助かります。
よろしくお願いします。