多くの建造物に使われているコンクリートは50~100年ほどが寿命とされていますが、ローマ帝国時代に作られたローマン・コンクリートは2000年近くにわたって強度が保たれています。「なぜローマン・コンクリートが現代のコンクリートを上回る強度を示すのか?」という謎に迫るべく、マサチューセッツ工科大学(MIT)やユタ大学の研究チームが、「2050年前に作られたローマン・コンクリート製の巨大な墓」の分析を行っています。
Reactive binder and aggregate interfacial zones in the mortar of Tomb of Caecilia Metella concrete, 1C BCE, Rome – Seymour – – Journal of the American Ceramic Society – Wiley Online Library
https://ceramics.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jace.18133
2,050-year-old Roman tomb offers insights on ancient concrete resilience | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2021/roman-tomb-offers-insights-ancient-concrete-resilience-1008
イタリアのアッピア街道州立公園にはさまざまなローマ時代の遺物が残されています。中でも保存状態がよい建造物に、ガイウス・ユリウス・カエサルらと共に三頭政治を行ったマルクス・リキニウス・クラッススの妻、チェチーラ・メテッラの墓があります。
チェチーラ・メテッラの墓は正方形の土台に築かれた巨大な建造物であり、高さ20m、直径29mといわれています。紀元前30年頃に建造されたとみられるにもかかわらず、現代までその姿を残しており、中世には軍事拠点としても利用されたとのこと。以下の画像を見ると、チェチーラ・メテッラの墓がどれほど立派な建造物であるかがわかります。研究チームのメンバーであり、ユタ大学で地質学および地球物理学を研究するMarie Jackson氏は、「2050年後になってもコンクリートの組織は強度と回復力を示しています」と述べています。
by Roger Ulrich
チェチーラ・メテッラの墓は共和政ローマ末期における洗練されたコンクリート建設技術の一例です。ローマの建築家であるウィトルウィウスは当時のコンクリートの製法について、粗いレンガや火山岩などの骨材を石灰と火山テフラ(噴火によって放出されるガラス結晶や多孔質の破片)で作られたモルタルで結合して分厚い壁を作ると「長い時間が経過しても廃虚にならない」と説明しています。
ウィトルウィウスの言葉は、ローマン・コンクリートで作られたトラヤヌスの市場や防波堤をはじめとする海洋構造物など、複数のローマ時代から残る建造物によって裏付けられています。研究チームはチェチーラ・メテッラの墓に使われたコンクリートについて、走査型電子顕微鏡でミクロンスケールの微細構造を、エネルギー分散型X線分析で構成元素や濃度を調査しました。
分析の結果、チェチーラ・メテッラの墓に使われたコンクリートは火山テフラを含むモルタルがレンガと火山岩の骨材を結合しており、モルタルはトラヤヌスの市場で使われたものに類似していることがわかりました。しかし、トラヤヌスの市場のモルタルはカルシウムシリケート水和物(C-A-S-H結合相)という成分とsträtlingite(ストラトリンガイト)と呼ばれる鉱物結晶で構成されている一方、チェチーラ・メテッラの墓に使われたモルタルにはストラトリンガイトがほとんどなかったとのこと。
チェチーラ・メテッラの墓のモルタルには、白榴石というカリウムとアルミニウムを主成分とするケイ酸塩鉱物が豊富に含まれており、雨水や地下水が何世紀にもわたり墓の壁にしみ通った結果、白榴石のカリウムがモルタル中に溶けだしました。現代のコンクリートでは、カリウムが豊富すぎると膨張性のゲルが形成されて微細な亀裂を引き起こしますが、チェチーラ・メテッラの墓ではカリウムが溶解してC-A-S-H結合相が再構成されていたとのこと。このプロセスによってコンクリートの結合が堅固になり、耐久性が増していると研究チームは述べています。
MITで土木工学および環境工学の准教授を務めるAdmir Masic氏は、「コンクリートにおける骨材とモルタルの境界面は、構造の耐久性の基本です。現代のコンクリートでは、膨張性のゲルを形成するアルカリ骨材反応により、最も硬いコンクリートでさえも界面が損なわれる可能性があります」と指摘。「チェチーラ・メテッラの墓における古代ローマのコンクリートの界面領域は、長期的な再構成によって絶えず進化していることがわかりました。これらの再構成プロセスは界面領域を強化し、機械的性能の向上と古い材料の耐久性に寄与する可能性があります」と述べました。
この記事のタイトルとURLをコピーする
・関連記事
2000年もの耐久性を誇るローマ時代のコンクリートは海水の腐食によって強度を上げていた – GIGAZINE
光合成を行う細菌が強度を高める「生きた建材」が開発される – GIGAZINE
約2000年前の時点で1700km以上離れた場所から木材の長距離輸送が行われていたことが判明 – GIGAZINE
水力発電よりも低コストで実現できる「コンクリートバッテリー」とは? – GIGAZINE
3Dプリンターによりコンクリート製の建物を24時間で建設する技術をアメリカ海兵隊が開発 – GIGAZINE
火星で使われるコンクリートは宇宙飛行士の「血と汗と涙」で作られる可能性 – GIGAZINE
・関連コンテンツ