アニメ『ルパン三世 PART6』の菅沼栄治監督にインタビュー、シナリオが求めている映像の表現を目指して

GIGAZINE



アニメ化50周年を迎える『ルパン三世』のシリーズ最新作『ルパン三世 PART6』が、いよいよ明日・2021年10月9日(土)深夜から順次スタートします。本作の舞台はロンドン。ルパン阻止のためにスコットランド・ヤードやMI6、おなじみの銭形警部が立ちはだかるほか、探偵シャーロック・ホームズも姿を見せることになります。

シリーズ構成はミステリ作家・大倉崇裕さんが担当。各話のゲスト脚本家として、『ルパン三世』小説版を手がけた作家・脚本家の辻真先さん、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』などの作品で知られるアニメ監督・押井守さん、『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』などの著作があるミステリ作家の芦辺拓さん、『天空の犬』などの著作がありデビューが『ルパン三世 戦場は、フリーウェイ』だったという小説家・樋口明雄さん、『告白』『ユートピア』『望郷』などの著作がある小説家・湊かなえさんが参加します。

そんな作品をどうまとめ上げて形にしていったのか、監督・菅沼栄治さんにお話をうかがってきました。

TVアニメ『ルパン三世 PART6』公式サイト
https://lupin-pt6.com/

GIGAZINE(以下、G):
まずは、菅沼さんのもとに、どういった経緯で本作の監督にという話がやってきたのかというところをうかがいたいです。

菅沼栄治監督(以下、菅沼):
『ルパン三世』シリーズは、トムス・エンタテインメントの野崎康次プロデューサーのチームが手がけているのですが、野崎さんはかつて『ソニックX』というアニメを制作していたんです。当時、演出をしていた、今は『アイドリッシュセブン』の監督などをされている別所誠人さんに「ご一緒してみませんか」と声をかけられて作品に参加して、そこで野崎さんのチームとのご縁ができました。それからも定期的に原画のお仕事をさせていただく機会があって、『ルパン』の遊技機の映像のお手伝いをする経験もありました。そこへ、久々にご連絡があり、『ルパン三世 PART6』にお声かけいただきました。

G:
ふむふむ。

菅沼:
僕の立場からは、どのような経緯で僕の名前が挙がったのかはわからないのですが……きっと制作ビジョンなどがあるのだと思いますが、「聞かない方がいいかな?」と。

G:
(笑)

菅沼:
いろいろと監督さんを想定する中で名前を挙げていただいたのだろうと思います。話をもらったとき、少し迷いはあったのですが、「せっかく推してくれたのであれば」とポジティブに考え、参加させていただくことに決めました。声をかけていただいたあと、作品をよく理解するためにTVスペシャル『ルパン三世 プリズン・オブ・ザ・パスト』の演出と一部原画をやらせていただいて、『ルパン三世』という作品が目指すものや試みたいことについて、プロデューサーからお話をうかがった、という流れです。

G:
菅沼さんは「仕事の依頼」について2020年12月11日に、「引き受けるのに迷った案件は、のちに自分にとっていい分岐となっていることが多かった気がする」というツイートをしています。仕事の依頼が来て迷うときというのは、どういうところが迷いどころになるのでしょうか。


菅沼:
自分の携わってきた仕事に誇りは持っていますが、僕はそんなに名の通った演出家ではないので……これに関しては『ルパン三世』というタイトルが大きかったということです(笑)

G:
なるほど(笑)

菅沼:
常に、その作品に関わらせていただくにあたっては、自分がどのように貢献できるかを考えて参加するようにしているのですが、『ルパン三世』では自分は何をできるだろうかということを鑑みて、「こう描いていければ」という目標が見えたのでお引き受けすることにしました。

G:
今回のシリーズは、メインストーリーが「ルパン三世対シャーロック・ホームズ」だと発表されています。確かにアルセーヌ・ルパンシリーズにも「ルパン対ホームズ」はありますが、まさかアニメでもそういうものをやるとはということで、どういう流れでこのストーリーになったのかとても気になるのですが……。これは、菅沼さんが監督として参加することが決まった時点で、すでに固まっていた部分なのでしょうか。

菅沼:
はい、固まっていました。1クール目のシナリオ陣の面々も決まっていましたし、キャラクターデザインも丸藤広貴さんが担当するということで、最終的に「どのようなフィルムテイストか」という演出が決まっていなかったところに、ピースとしてはめていただいた感じです。

G:
「ルパン対ホームズ」という題材だと聞いての印象はどうでしたか?

菅沼:
あまり詳しい方ではないので、勉強しなければならないことがたくさんありそうだな、と感じました。お話に関してはスペシャルな方々が書いてくださるのでまったく心配はしていませんでした。『PART4』『PART5』はそれぞれイタリア、フランスが舞台で、雰囲気作りが重要視されていると感じたので、今回、舞台となるロンドンを自分なりにどう消化できるかということをやらなければならないと感じました。

G:
今回、脚本はまさに「スペシャル」な面々がそろっていますが、特に、かつて映画『ルパン三世』の監督をやる話があった押井守さんの参加に驚きました。「この脚本を採用してくれた製作者の皆さまの英断に感謝します」と、コメントが不穏なのですが、脚本を読んだときの第一印象はどうでしたか?

菅沼:
一言でいうなら「面白い」です。脚本として面白かったです。

G:
「責任はとれませんが、きっと大倉さんを始めとした皆さんが戦ってくれるのでしょう」とのことですが、なにか戦わなければいけないような内容だったのですか?

菅沼:
押井さんのリップサービスで、作品の期待値を上げるようなコメントをしてくださったんだと思います(笑)

G:
(笑)

菅沼:
「戦う」という意味では、自分も文芸チームも制作チームも引っくるめて、まず映像を作るために、どう表現するか調査するための資料を探す部分からの「戦い」だったとはいえます。文字を見せていくわけにはいかないので、どう映像に変換していくか、というところです。この押井さんのお話では、具体的に「ここ」という実在の場所が出てくるんです。

G:
ほうほう。

菅沼:
しっかり調査しなければいけないのですが、このご時世ですから取材には行けませんし、制作で手を尽くして資料を集めていただきました。なかなか難航しました……。あとは、誰が絵コンテを描くのかというところです(笑)

G:
(笑) ちょうど絵コンテの話が出たので、菅沼監督が絵コンテについて触れたツイートのことを伺いたいと思います。2021年7月25日に「絵コンテを尊重してくれるのは嬉しいけど、絵コンテに引っ張られるのはちょっと困る。我が儘。」とツイートされているのですが、監督としてはどういった状態が理想なのでしょうか。


菅沼:
期待値を上回ってくれるのが理想的です。でも、上回ってきたとしても、絵コンテの内容を逸脱していてはよくない。僕もアニメーターではあるので、自分の経験や反省を踏まえて「自分が気持ちいいだけではダメだよ」と暗に言っているというところです。アニメーターに対しては絵コンテがあり、絵コンテマンに対してはシナリオがあるわけですが、シナリオは何週間も大人たちが顔をつきあわせて「ああでもない、こうでもない」と相談して決めたものですから、コンテマンがそのときの気持ちで変えていいものではない、ということです。各セクションの人たちが膨らませるのと、自分勝手は違うよ、と。たぶん当時、自分がTwitterで目にする内容にそういう風潮を感じたのだと思います。

G:
本作には美術監督として、ベテランの小倉宏昌さんや竹田悠介さんをはじめ6人の方が参加しているのが1つの特徴だと思いますが、これは何か、舞台であるイギリスの再現に気合いを入れた結果だったりするのでしょうか?

菅沼:
僕の把握している限りは、コロナの影響が大きかったのだと思います。仕事の流れ方が変わる中で、こういった体制になっていきました。

G:
まさにこのご時世で、制作はコロナの影響をもろに受ける形だったと思います。おそらくリモートでの作業も多かったと思うのですが、菅沼監督にとってこの制作環境はどうでしたか?

菅沼:
僕自身はそんなにストレスを感じることはなくて、恩恵にあずかっているかなと思います。コロナによる仕事上のダメージもあまりないかな?と。

G:
おお。

菅沼:
怒られてしまうかもしれませんが、緊急事態宣言が出ていたころは現場が混乱していましたから、そのおかげで絵コンテをゆっくり進められたということもあったり(笑)

G:
(笑)

菅沼:
いいところも悪いところもあるので、あまり深刻に考えすぎないようにしよう、とは思っていました。

G:
絵コンテでゆっくり時間が取れたときのメリットには、どういったものがありますか?

菅沼:
「魅せるべきカット」の表現の方向を考えるとき、どうしても時間がかかることがあるんです。「この1カットが出てこないと先に進めない」というところで3日、4日かかってしまうこともあり……あらかじめ考えておけばよい話ではあるのですが、なかなかそうもいかず。

G:
ふーむ、なるほど。

菅沼:
本作に関しては、ロンドンのどこでどのようなことが起きるか、Googleストリートビューでロケハンしつつ絵コンテを描くという並行作業になりましたので、そうしたことに時間をかけたりもしました

G:
これも菅沼監督のTwitterからで、リテイクに関するツイートがありました。「どんな内容であれ、駄目出しをするのは本当に心苦しい。」ともありましたが、それでも伝えなければならない時があるのだと推察します。ディレクションする際に、何か心がけていることはありますか?


菅沼:
みんな、頑張って作ってくれているというのは間違いないんです。自分も原画マンや演出をする立場ですから、そういった努力の結晶を否定したくはなくて。でも、時にはハッキリと「これは違う」と言わなければならない。だからこそ、駄目出しの時は「怒っている」と思われないようにしています。相手を不愉快にさせてしまったら、伝わるべき内容も正確に伝わらない恐れがあるので、意図的に笑顔でいるというか。

G:
できるだけ深刻な雰囲気にはせず、軽めに伝えると。

菅沼:
それが原因で甘く見られないようにしたいですが……(笑)

G:
本作から離れるのですが、監督は以前、「中学3年のとき教室に『忍耐と根性』ってスローガンが貼られてて、凄く嫌だったなぁ。確かイケてる系溌剌生徒たちの立案だったんだけど、冴えない凡庸生徒なぼくにはしんどかった。」と過去を振り返るツイートをされていました。アニメの演出やデザイン、作画を生業にしようと考えたのは、いつ頃のことだったのですか?


菅沼:
高校生の後半です。僕の通っていた高校は多くの卒業生が就職していたのですが、僕はあまのじゃくな性格なので就職はしたくなくて(笑)、就職案内も見ずぶらぶら過ごしていたんです。

G:
なんと、まあ(笑)

菅沼:
そこへアニメが好きだという友人が2人ほど来て「学校があるけれど、行ってみないか」と。それで引っ張って連れて行ってもらい、国際アニメーション研究所の願書を出すことになったんです。ところが、学校に行ってみたらその誘った友人たちはいないんです(笑)

G:
いない?

菅沼:
気づいたら就職していたんです。

G:
ひどい!(笑)

菅沼:
本当、ひどいんです(笑)。でもアニメーションという、絵を動かす行為には興味があり、楽しいという想いがあったので、今は感謝しています。

G:
菅沼さんの初監督作品は『Ninja者』で、2020年5月に当時の絵コンテがツイートされていました。こうして本作を手がけるに至って、「初めて監督したころにはわからなかったこと」というのはどういったものがありますか?


菅沼:
最初に監督をやらせてもらったときは演出経験も少なく、周りのアニメーター以外とのつながりもなく、色彩設計さん、美術さん、音響さんといったセクションの方々の立場や考え方が、知識としてなかったです。アニメーターや作画の考え方に偏っていたと思います。

G:
初監督のときも今も変わらずに大変なところは、どういったところですか?

菅沼:
ありがたいことに『Ninja者』のときも良いスタッフに恵まれて作業ができました。最終的に納品に間に合わせるためのスケジュールがなくなりそうという中で機転を利かせてもらい、優秀なヘルプの方々に入っていただいたりしました。

G:
当時もということは、今も恵まれていると感じる瞬間があるのでしょうか。

菅沼:
もちろんです。僕はどちらかというとだらしない方なので、「申し訳ない」と思うぐらいにみなさんしっかり、きちんとしています。特にトムスさんは時間もきっちりしていて、コロナのご時世の中、制作の人たちに過剰な労働させないようにケアしている会社であることが、付き合っていて見えてきました。上司は部下をちゃんと見ているし、上下関係もうまくいっている。そんなところにいると、恥ずかしくなってしまいます。

G:
本作を試写で拝見しましたが「これぞ『ルパン三世』だ」という作品でした。見ていて感じるこの『ルパン三世』っぽさは、何から生み出されているのでしょうか。

菅沼:
「何をもってこれぞ『ルパン三世』か」ということですが……なんでしょうね?(笑)

G:
監督としては、完成した第1話を通して見てみた感想はどうでしたか?

菅沼:
感謝しかありません。まず、映像を作る段階でよくここまで頑張ってくれたなと。絵コンテは、自分の中で頼りないながらも足場を固めていきましたが、それを映像に落とし込むのが可能かどうかというところでした。それに現場スタッフが応えてくれて「やったー!」という感じがありました。『プリズン・オブ・ザ・パスト』のとき、パート演出で手伝いをさせてもらってチームの原画マンのクオリティを見せてもらい、「この戦力をあてにできる」と思った時点で、これぐらい描いていいだろうという絵コンテにはしていましたが、それでもうれしかったです。

G:
監督はよく銃そのものや持ち方のツイートをRTしたりしていますが、銃の作画が難しいから参考に、ということなのでしょうか。

菅沼:
こういうところをポイントとして意識してもらえるとありがたいなという意味もありますし、2020年に亡くなった友人の村田峻治くんが銃器にとても明るかったので、情報共有の意味もありました。今は『ルパン三世』をやっていて、ちょうど銃や車に興味が大きく向いているということもあります。

G:
本作では、次元大介役が小林清志さんから大塚明夫さんに代替わりするという、大きな変化がありました。現場はどうですか?

菅沼:
僕は小林さん時代のアフレコに立ち会う経験はなく、大塚さんのアフレコしか知らないのですが、『ルパン』シリーズに関しては音響監督の清水洋史さんの方が付き合いが長いので、お任せしています。長年携わり「ルパンとは」ということを深く持っている方なので、見事な引き出し方をするんです。僕はただただ客観的に「すごい」と見守っています。

G:
今回、パート演出ではなくシリーズの監督をやってみて、不安はあったけれどうまくできたというのはどういったところですか?

菅沼:
自分なりの手応えとして、提案していただいたシナリオを極力曲げることなく、そのまま出せているのではないかと思います。これだけの作家さんがそろっていますから、絵コンテ段階で余計なストーリー性が入ったり、持ち味のいい部分が損なわれたりしないように、あらかじめ誘導したい部分についてはシナリオ段階で提案させていただいて、「絵コンテでどうにかしよう」という部分がなくなるようにしました。最終的に「僕なりの解釈」はなるべく入れないようにして、シナリオが求めている映像を表現できていたらいいなと思っています。

G:
なるほど。本日はありがとうございました。

アニメ『ルパン三世 PART6』は10月9日(土)24時55分から日本テレビほかで放送スタート。また、10月9日(土)25時30分からは各種配信サービスにて順次配信もスタートします。

【第2弾PV】シリーズ最新作『ルパン三世 PART6』2021/10/9(土)24時55分より日本テレビ他全国放送!│”LUPIN THE THIRD:PART 6″ New Trailer 2021 – YouTube
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【キャラクターPV:石川五ェ門見参!】シリーズ最新作『ルパン三世 PART6』2021年10月9日(土)24時55分より日本テレビ他全国放送!│”LUPIN THE THIRD:PART 6″ – YouTube
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【キャラクターPV:峰不二子♡】シリーズ最新作『ルパン三世 PART6』2021年10月9日(土)24時55分より日本テレビ他全国放送!│”LUPIN THE THIRD:PART 6″ – YouTube
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