国のルール変更、アナログ廃止をビジネスチャンスに–小林史明衆院議員が行政のデジタル化を解説

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 2月1日から1カ月間、CNET Japanの年次イベント「CNET Japan Live 2023」がオンラインで開催された。今回のテーマは「共創の価値を最大化させる『組織・チーム・文化づくり』」。新規事業開発や共創、あるいは組織風土の改善などに取り組んできた企業らが、その経験をもとに成功のヒントを明かした。

(右下)衆議院議員 自由民主党 副幹事長の小林史明氏と(右上)モデレーターのCNET Japan 編集長 藤井涼
(右下)衆議院議員 自由民主党 副幹事長の小林史明氏と(右上)モデレーターのCNET Japan 編集長 藤井涼

 イベント最終日、トリを飾ったのは自由民主党 副幹事長の小林史明衆議院議員だ。NTTドコモから政界に飛び込み、以降一貫して国のデジタル化に関わる政策や、そのための規制改革にコミットし続けてきた。それによって徐々にデジタル化が広がり始めている日本だが、現在は行政システムのクラウド化に加え、世界に通用するスタートアップ育成のための支援にも力を入れようとしている。それら政府が進めている最新の取り組みを、小林氏が解説した。

デジタル化と規制改革などを一体的に行う「デジタル臨時行政調査会」

 日本に暮らす国民としては「遅れている」と感じることが多い行政手続きの仕組み。対面が困難になったコロナ禍を経て、オンライン手続きを可能にした自治体もあるが、大半は足踏みしている状況だ。こうしたデジタル化の遅れ、自治体間での対応の差異などを解決するには、長年の間に染みついてきたアナログな発想や仕組みを根本から変えなければならず、課題は山積みと言える。

 そこに真っ向からぶつかり、国のデジタル化を阻む規制の改革に先陣を切って取り組んできたのが、小林氏。日本における主要な問題点が、法律・社会システム・慣習などの「制度」、自律的に動きすぎている自治体の「ガバナンス」、施策を実行するための「リソース」の3つにあると考え、それらを解決するべく2021年に同氏が提案し、「デジタル庁」内に発足したのが「デジタル臨時行政調査会」だ。

 国のデジタル化は、特定分野の政策だけを動かしても進まない。2020年頃に巻き起こった行政における押印の廃止も、ただ「廃止する」と方針を示しただけでは不可能で、関連する法律などに記載されている「押印」に関連する文言をすべて修正しなければならず、「48個の法律を丸ごと変えなければいけなかった」と小林氏。

 デジタル化を実現するには、規制や行政の慣習などもまとめて変えなければならない。「デジタル化と規制改革と行政改革を一体的に」行う必要があり、そのための組織としてデジタル臨時行政調査会を設立する必要があった、と小林氏は語る。

行政機能をアプリ化する構想とは

 デジタル庁が中心となって現在進めているプロジェクトの1つが、自治体ごとに異なっていたシステムを共通化する「ガバメントクラウド」だ。2025年を目処に全国に導入される計画となっており、自治体によらない基本機能や認証、クラウドサーバー、データベース、ネットワークなどの基盤が共通化される。

 全国で共通のクラウド基盤となることで、国が必要な統計情報を収集するときにも素早く、正確かつ容易に把握でき、住民においても「自治体を越えて引っ越しするときにスムーズに情報移行ができるようになる」といったようなメリットがあるという。

 加えて、自治体がそれぞれ独自に行っている業務については「アプリ化」して対応できるようにする「ガバメントクラウド・デジタルマーケットプレイス(DMP)構想」も同時に進めている。これは、スマートフォンのアプリストアのように、各自治体が必要とする行政機能を「国が認めたアプリ」として用意し、「マーケットから取得してもらう」ものだ。

「ガバメントクラウド・デジタルマーケットプレイス構想」のシステムイメージ
「ガバメントクラウド・デジタルマーケットプレイス構想」のシステムイメージ

 これと同じ仕組みは、デジタル庁が提供している新型コロナウイルスの「ワクチン接種記録システム」と「ワクチン接種証明書アプリ」ですでに実用されている。DMPがスタートすれば「こういうものがあらゆる行政手続きで(スマートフォンを通じて)使えるようになる」とし、自治体が新たな行政サービスを取り入れるときも、「2週間ほどで住民にサービス提供できるようになる」と期待している。

海外からの投資増、世界進出を狙う「スタートアップ育成5カ年計画」

 もうひとつ、「新しい資本主義実行本部 スタートアップ政策に関する小委員会」の参画メンバーでもある小林氏が力を入れているのが、2022年11月に政府が打ち出した「スタートアップ育成5カ年計画」を通じたスタートアップへの支援だ。

「スタートアップ育成5カ年計画」の概要
「スタートアップ育成5カ年計画」の概要

 日本国内のスタートアップに対するベンチャーキャピタル(VC)からの投資は、年間8000億円程度。しかし、スタートアップへの投資が活発な米国では45兆円と規模が全く異なることから、「スタートアップ育成5か年計画」では、2027年度までに日本のスタートアップへの投資額を現在の10倍以上の10兆円規模、スタートアップを10万社にすることを目標としている。

 小林氏は「ディープテックと呼ばれるような投資金額が大きく、投資が長期に渡るものが大学の研究室からまだ出てきていない。それを掘り起こしたい」とし、そのうえで、直接スタートアップに予算を割くのではなく「(VCに)LP出資をして、VCを育てる」ような方法も考えていると話す。「海外の多様な能力のあるVCに、国内スタートアップの目利きをしてもらう」ことで、そのスタートアップが「世界のマーケットに接続しやすくなる」ことも見込んでいる。

 さらに、日本では利用しにくいストックオプション制度を米国と同じように導入しやすくする「人材確保」に向けた施策や、「スタートアップを買収して事業を成長させていくところに対して減税する」あるいは「株売売買の利益でスタートアップに再投資する場合は上限20億円まで非課税にする」といった「税制」に関する施策などを通じて、「お金と人がしっかり回っていく環境を作る」のも同計画のポイントだとした。

ルールの変更は「ビジネスチャンスになる」

 国・政府においてこうしたさまざまな動きが出始めているわけだが、そもそも行政業務の生産性を上げるには「業務全体をデジタル化したいところだが、その行政業務は基本的に法律に基づいているので、制度をデジタル対応にする必要がある」ことに加え、法改正の手続きに伴う作業もこれまたアナログで膨大だという問題がある。そのためデジタル臨時行政調査会では、今後2年間で「日本の1万の法令と3万件の通知・通達・ガイドラインに書いてあるアナログなルールを全て見直し、テクノロジーを活用できるようにする」ことも決定したという。

 そのうえで小林氏は、既存のアナログな制度・慣習の撤廃やデジタル化によるルールの変更は「ビジネスチャンスになる」とも強調する。たとえば現在、公共インフラなどの建造物や設備の維持・改修の際、目視点検するよう定められているが、「目視」の規制がなくなれば、ドローンで上空から観測してデータ計測し、それをもとに整備計画を立案することも可能になる。そうすれば代わりにドローンや計測システムといった「新たな産業が生まれる」だろう。「押印を廃止した結果、2年間で電子契約のマーケットが約3倍に成長している」という実例も挙げ、「これがあらゆる業界で起きる」と小林氏は予測する。

 また小林氏は、国のルールを着実に変えていくことで、国民が「どうせ変わらない」という思い込みから脱却し、「声を上げれば変えられる」と感じてもらえるようにすることを期待しており、それがデジタル臨時行政調査会の狙いでもあるという。

 一方で、国のデジタル化を舵取りするデジタル庁の人材は、まだまだ足りていないとも明かす。「違う文化、違う仕事のやり方を持っている人たちにもどんどん入ってきてほしい」とし、「最新のテクノロジーを使った働き方、人事制度などを取り入れ、デジタル庁でその理想型を作りながら別の省庁にも波及させていく」ことで、国としての働き方改革をますます進めていく考えだ。

 働く人が自律的にキャリアを選び、自由に活躍することで、それぞれのパフォーマンスが上がり、それのより賃金が上がり、国も良くなっていく流れを作りたい」と意気込む小林氏。「まずは古いルールがどんどん時代に合わせて変わっていくことを感じてもらいながら、そのなかで自分がどういうキャリアを選んでいくのか、どういう仕事をしながら人生をつかんでいくのか、考えてもらえるとうれしい」と述べ、セッションを締めくくった。

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