米国企業の「 研修旅行 」、より豪華になって復活の兆し:「贅沢なんかじゃない。なくてはならないものだ」

DIGIDAY

経営者たちはいま、研修旅行を開催しようと奮闘している。これには、この1年半、直接お互いに顔を合わせて話す機会がないまま業務を行っている社員たちに、仲間意識を持たせようという意図がある。

パンデミックが始まってからというもの、研修旅行予約会社ではその多くがビジネスの主軸をバーチャル体験の提供に変えていたが、どうやらここにきて、対面プログラムの予約が再び増えはじめたようだ。

しかしながら、現在予約が入っている企業研修と、パンデミックが始まる前のものとでは明らかに違いがある。なによりも「豪勢になっている」。そう話すのは、企業文化の構築をサポートする企業、モニカー(Moniker)でCEOを務めるショーン・ホフ氏だ。これには、オフィスの不動産関連コストの減少など、新型コロナウイルスに起因する経費節減分を再投資に充てたことも関係しているという。しかし、それ以上に反映されているのは働き方の進化だ。パンデミック以前には多くの企業で見られていた中央集約型の組織構造がなくなり、本社の所在地にかかわらず柔軟に雇用できるようになったことで、従業員は大都市に偏らず、世界各地から集まっている。

「顧客からは、研修場所には組織全体が集まりやすいところを探すように依頼されている」とホフ氏は話す。「以前は滞在先といえば北米やメキシコ、カリブ海諸国が圧倒的に多かったのだが、今では西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、アジア、南アメリカで探して欲しいと依頼される。いったん飛行機に乗ってしまえばどこに着陸しても同じ。航空券が600ドル(約6万6000円)であれ、800ドル(約8万8000円)であれ、会社にかかるコストはそれほど大差ないからだ」。

「パンデミックで思い知らされた」

モニカーによると、企業から求められる内容も変わっており、研修旅行はひとりあたり500ドル(約5万5000円)から1000ドル(約11万円)と幅があるという。それまでの研修といえば、参加する社員それぞれの業務に合わせたものが重視されていたが、いまではほとんどがチームビルディングや人材交流、リラックスしてオフタイムを過ごすといったテーマだ。その内容も、脱出ゲームから凝りに凝った犯罪謎解きミステリー、没入型演劇(immersive theater)体験、テーマ別パーティ、ウォータースポーツ、ヘリコプターライド、近くの山岳地帯まで足をのばすといった小旅行までさまざまだ。

また、デルタ株の威力で先行きが不透明になり、特に全米ではオフィス出勤再開に遅れが見られているため、研修先も、パンデミック前に人気だった都市部より僻地の方が選ばれているとホフ氏は話す。

問題は、今秋、結婚式、大規模会議、企業研修などありとあらゆるイベントが重なるため、宿泊施設の争奪戦が激しさを増していることだ。「必要な規模の宿泊施設を押さえるのは本当に難しい」と、ホフ氏はいう。

IT企業のプレックス(Plex)は研修旅行を積極的に取り入れており、研修旅行の人気復活に大きな期待を寄せている。共同創業者のスコット・オレホフスキ氏によると、完全リモート勤務の同社の場合、社員同士の信頼関係の構築で企業研修が需要な役割を果たしているという。研修のおかげで、「歴史を共有し、私たちを結びつける文化を築くことができる」とオレホフスキ氏は話す。「私たちが成功するために、研修がいかに大切なのかは、パンデミックを経験して思い知らされた。というのも、パンデミックのあいだは、研修が一切できなかったからだ。全員で顔を合わせる機会が失われてしまったので、何とかして以前のようにまた一緒に過ごせるようになりたいと思っている」。

「イベントはいまや企業文化の一部」

以前のオフィスには戻らず、100%リモートのままで業務を行うと決めた企業にとって、オフサイトの活動は、企業文化と生産性を維持するために欠かせなくなっている。ブランディング体験を提供するクリエイティブエージェンシーのブッチャーショップ(Butchershop)では、グローバルCEOを務めるトレバー・ハバード氏によると、昨年2020年のサンフランシスコオフィス閉鎖後、収益がほぼ100万ドル(約1億1000万円)回復したという。同社は、その分をヨーロッパ市場拡大に向けた企業買収や社員の報酬の増額、リモート環境に役立つツールの導入などさまざまな分野に再投資している。もちろん、企業研修もその対象だ。

2021年6月、ブッチャーショップは、対象者全員がワクチンを接種したうえで、72時間にわたる独自の企業研修を実施した。参加者にはそれぞれ自分の体験を話す機会が与えられた。また、ジェレミー・ミラー氏によるリーダーシップ・コーチングを受講し、リモートワークの環境でより自由にフィードバックをやりとりできるようにするにはどうしたら良いか、実際に訓練も行った。午後と夜は交流を深める時間だ。プールや食事会、花火大会、キャンプファイヤーなどで楽しく過ごす。もちろん、チーム力構築の王道、カラオケも外せない。同社では今後も、年2回は研修を実施しようと考えている。

「このような従業員全員が参加するイベントの開催は、いまや私たちの企業文化の一部だ」とハバード氏。「こうした企業研修にかかる費用は投資だ。つまり、当社が成功し、失敗をものともしない企業であるためにもっとも重要で不可欠なこと、そう、お互いの絆を構築することへの投資なのだ。毎月、サンフランシスコやメキシコのグアダラハラ、オーストリアのウィーンを訪ねるチーム旅行の費用を負担したり、世界各地で業務に携わるグローバルクルーのための年2回の研修会やリーダーのための年1回の研修会を計画したりすることは、贅沢でもなんでもない。必要不可欠なことだ。こうした研修のおかげで、楽しみができて仕事にも張り合いが出るし、研修で学んだことは、次の研修までの数カ月間、心のよりどころにもなる」。

ブッチャーショップでは、従業員が必要なときにその都度コラボレーションできるようなネットワークスペースをコンセプトにした、「ラボランド(Labland)」というワークステーションを設計・構築中で、来年早々にサンフランシスコでローンチする予定だ。

「その場限りのものではない」

企業の経営者はこれまでも長いあいだ、成績優秀なスタッフを激励したり、チームの絆を強めたりする活動の一環として、定期的に行う豪勢な企業研修やオフサイトの会合に投資を繰り返してきた。しかし、こうした集まりができなくなってから早1年半。経営者たちも、もうそろそろ結果が欲しい頃だ。ハバード氏によると、企業研修を終えたグローバルチームのSlackのやり取りから、大いなる成長が見て取れると話す。

「ブッチャーショップが6月に開催した研修のあと、コミュニケーションの質も改善した。常に解決策を考えながら業務に取り組むようになっている。これはメキシコのプエルトパジャルタで仲間と一緒に3日間を過ごし、お互いの絆を深めることができたからだ」とハバード氏。「夜のビーチでマルガリータを一緒に飲み明かしたときのエネルギーは、決してその場限りのものではない。ちょっとした会話でも込み入った仕事の話でも、日々のやりとりにパワーを与えてくれる」。

[原文:‘It’s not lavish, it’s vital:’ In-person corporate retreats return with a twist

JESSICA DAVIES(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)

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