AppleのLightning規格について考えてみた!
ついにAppleの新型スマートフォン(スマホ)「iPhone 13」シリーズが9月24日に発売されました。目新しさがないと言われつつもProモデル2機種は予約開始直後に1ヶ月待ちになるなど、滑り出しは好調のようです。
筆者も「iPhone 13 mini」のピンク/512GBモデルを購入し、このコラムを書いている最中に届いたところで、すでに開封レビューについては別の記事にてお伝えしています。今回のiPhone 13シリーズについてネット界隈で何かと話題になっていたのは、外部接続端子規格であるLightning(ライトニング)の継続採用でした。
SNSなどでは「またUSB Type-Cにならなかった」や「いい加減やめてくれ」とネガティブな反応が多数あり、かく言う筆者も「そろそろLightningはやめても良かったのでは」と感じています。
タイムリーなことに先日、 EUが廃棄物削減と利便性の向上を目的とした端子統一法案(USB Type-C採用義務化)の草案を提出するとのニュースを目にしました。いよいよ法的にもLightningを採用し続けることが難しくなってくるかも知れません。
なぜLightning端子は人々に嫌われるようになってしまったのでしょうか。AppleがLightningにこだわる理由とは一体何処にあるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はAppleの端子規格「Lightning」について考察します。
早く開封したいが……グッと堪えてコラム執筆
■「Dockを継ぐ者」として登場したLightning
古参のiPhoneユーザーであれば、かつてiPhoneには「Dockコネクター」と呼ばれる端子規格が採用されていたのを覚えている人もいるでしょう。正確には「Apple Dockコネクタ」と呼ばれるもので、日本航空電子工業のDD1という汎用コネクターを流用した規格でした。
このDockコネクターからLightningへと切り替わったのは、iPhoneの世代で言えば201年9月に発売された「iPhone 5」からです。
日本国内ではiPhoneが本格的にブームとなって一気に広まり始めたのがiPhone 4やiPhone 4Sからなので、当時iPhone 4Sあたりから購入した人は「え、もう端子が変わるの?」と戸惑ったかも知れません。
歴代iPhoneの中でも特にデザインで人気の高かったiPhone 4&4S。下部には大きなDockコネクターが見える
この時の端子規格変更の理由は、主にサイズの問題でした。小型軽量であることを目的としたiPhoneの場合、その端子部の部品が占める面積を小さくする必要があったのです。そのためLightningでは、Dockコネクター同様に最大転送速度480MbpsのUSB 2.0に対応させていました。
2012年当時としては、それでも十分な転送速度でした。iPhone 5のストレージ容量は最大でも64GBしかなく、余程ゲームや動画を詰め込まない限りは16GBや32GBもあれば十分という時代です。
iCloudなどという便利で簡単なワイヤレスのオンラインバックアップシステムも存在しない当時、データのバックアップや同期をPCで行っていても、Lightningで時間が掛かりすぎるといった不満はあまりありませんでした。
iPhone 5からiPhoneの画面比率は9:16に
■時代の潮流に取り残された「過去の遺物」
あれから9年。テクノロジーの世界において、この9年という時の流れはあまりにも大きすぎました。
iPhone 13シリーズのストレージ容量は最低でも128GBとなり、最大では1TBにもなります。最大容量で比較するなら実に16倍にもなります。
仮に1TBのストレージ容量を動画や画像で目一杯使っている状態で、尚且つ新規でPCにフルバックアップを取ろうと考えた場合、なんとLightningの通信速度の理論値で考えても約5時間も掛かってしまうことになります。
実際には動画や画像で1TBを使い切ることは不可能であり(最低空き容量やアプリ保存領域があるため)、さらにアプリのバックアップではアプリの購入情報や設定ファイルなどのみをバックアップすることでバックアップ容量とバックアップ時間を大幅に圧縮・短縮しているため、ここまで時間が掛かることはありません。
しかしながら、それでもiPhoneのストレージ容量を200GB以上使っている筆者の体験を例に挙げるならば、数ヶ月前に起きたデータトラブルによる初期化からの復元作業に2時間以上も要したのは紛れもない事実です。
筆者がiPhone 13 miniで一番嬉しかったのは512GBモデルがあったことだ。これでデータを削らなくて済む
iPhoneの高性能化とともにアプリがリッチ化し、カメラ性能の向上によって画像や動画の容量は増え続け、ストレージ容量にテラバイトという単位が並ぶほどとなった今、もはやUSB 2.0という20年以上も前に策定された規格で動作するLightningは過去の遺物、負の遺産と化してしまったのです。
EUが端子規格の規制を掛けずとも、このような「旧時代の規格」を最先端技術に敏感なAppleが採用し続けていること自体が異常にも感じられます。
実際のバックアップデータは必要最小限に圧縮されるためこの程度には小さくなるが、それでもバックアップ作業に30分~1時間弱は掛かる
Lightningへの批判や不満が急増した背景には、AndroidスマホでUSB Type-C(USB 3.x)に対応したスマホが主流化したこともあるでしょう。
Lightningが旧規格化し始めていた2016年頃でもAndroidスマホの外部接続端子はUSB 2.0を基本としたmicroUSB(microUSB Type-B)などが主流だったため、比較される対象がなく問題とされていませんでしたが、2017~2018年頃にはAndroidスマホで一斉にUSB Type-C端子が採用され始め、通信速度もUSB 3.xに準拠したものへと移行し始めました。
USB Type-C端子は小型な上にLightning同様に裏表のないリバーシブル仕様となっており、取り回しの良さという点でLightningに並んでいました。
人々がUSB Type-Cの利便性や高速性に慣れ始め、「Lightning遅くない?」、「充電ケーブルが量販店で安く買えるからUSB Type-Cのほうがいい」と不満を漏らし始めるのは必然だったと言えるでしょう。
最近はLightningも一方の端子がUSB Type-CになりUSB PDによる高速充電などには対応するようになったが、通信速度は相変わらずUSB 2.0相当だ