末期的な菅内閣 批判せぬ自民党 – 田原総一朗

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新型コロナウイルス対策を助言する厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は8月18日、コロナの感染状況について「全国各地で災害レベルの状況にある」という見解をまとめた。実際、新規感染者や重症者の数も増え続けていて、医療現場の逼迫した状況が連日伝えられている。この現状をどう見るべきか。田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸 亀松太郎】

オリンピック開催が感染拡大を招いた

AP

17日間にわたって開催された東京オリンピックが8月8日に終了した。このオリンピックをどう総括するか。

アメリカのバイデン大統領は菅首相との電話会談で、東京オリンピックの成功に対する祝意を述べた。僕も、アスリートたちはすごく頑張ったし、オリンピック自体は見事な大会だったと思う。

しかし、新型コロナウイルスの感染が深刻な時期に、東京でオリンピックを開催したことはかなり問題だったと考えている。

政府は五輪開催を目前に控えた7月下旬、東京に緊急事態宣言を出した。オリンピックの開催期間の前後も含めた宣言で、これによってコロナの感染拡大を抑えられると見込んでいた。

ところが、実際には感染者の数は減るどころか、むしろ爆発的に増えた。

なぜか。一つは、コロナウイルスの変異株である「デルタ株」の影響が大きい。従来のものよりも感染力が強く、ワクチン接種が進んでいない若い世代を中心に急速に感染が広がっていった。

もう一つは、緊急事態宣言にもかかわらず、東京の街の人の流れが大きく減っていないということがある。その背景にオリンピックの開催があると考えられる。

政府や東京都は「不要不急な外出はするな」「都道府県をまたぐような旅行はするな」と自粛を呼びかけた。その一方で、オリンピックという国際的な大イベントのために、県をまたぐどころか国境を越えて、世界中から数万人もの人が集まってきた。

政府は「バブル方式」で感染を抑え込むと強調したが、選手村から街に出る選手もいたし、五輪関係者とみられる外国人が数多く、東京の街で目撃された。なによりもIOCのバッハ会長が銀座を歩いている光景が報道された。

また、テレビは連日オリンピックの中継を流して、関連番組の放送に力を入れたが、それによってコロナ関連の報道が手薄になるという事態も生じた。

そのような状況を見ていた国民が「国をあげてオリンピックに夢中になっているのならば、別に外出してもいいんじゃないか。会食してもいいんじゃないか」と考えたとしても、それは無理からぬことだろう。

「危険水域」に入った菅内閣の支持率

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菅首相は「オリンピックの開催はコロナの感染拡大と関係ない」と言っているが、多くの有識者が「五輪開催が感染拡大につながった」と指摘している。僕も同じ意見だ。

おそらく国民も同様に考えているのだろう。コロナの感染拡大を受けて、菅内閣の支持率はさらに低下している。

内閣支持率は、朝日新聞の世論調査で28%、NHKで29%。危険水域と言われる30%を切っている。読売新聞は35%だが、内閣発足以来最低の数字という点では他と同じだ。

菅首相のリーダーシップに疑問を投げかける人は多く、「早く辞任すべきだ」という声も出るようになった。

ある政界に詳しい有識者は「菅首相には3つのSが欠如している」と問題点をあげている。(1)説明力(2)説得力(3)説明責任。この3つのSが欠けていて、信頼を失っているという。

また、朝日新聞は8月11日の社説で「迷走が続く根っこには、首相の政治手法や政権の体質がある」と指摘する。爆発的な感染拡大に至っているのに「現状への危機感は伝わってこない」としたうえで、「異論を受け付けない、首相の姿勢」に大いに問題があると批判している。

菅首相は「オリンピックを開催すれば、国民が熱狂して、政権の評価も高まるだろう」と期待していたのだろう。しかし、その期待は完全に外れた。世論調査の結果がそれを示している。

かつての自民党であれば、ここまで内閣支持率が低くなれば、「俺が代わりに首相になる」という議員が党内から出てきたものだ。ところが、政権末期といえる状況になっても、自民党内からは現政権を厳しく批判する声が出てこない。

そこに非常に大きな問題がある。

政界での関心は、自民党総裁選がいつ開催されるのか、衆議院の総選挙がいつになるのかという点に移っているが、その前に、自民党の各議員がやるべきことがある。

また、野党もただ単に政権批判をするだけでなく、具体的な対策を提示して、国民に問いかけるべきだろう。

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