化石がどれくらい古いのかを知る方法

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どれくらい古いの?

旧石器時代のハンターたちが掘ったマンモスの落とし穴1万4700年

チベット高原で見つかったデニソワ人のアゴの骨16万年

孵らなかった恐竜の卵は? 8000万年

じゃあ地球で一番古いとされている足跡は? およそ5億5000万年

化石がどれくらい古いかを知ることで、大昔の出来事を時系列に並べて、前後関係の中で理解できるようになります。どれくらい古いかわからなかったら、考古学者や古生物学者の研究も無意味になってしまいますよね。

化石の年代を調べるなんてアタリマエじゃん!と思われがちですけど、具体的な手法は意外と知られていないのでは。ということで、ここでは年代測定について詳しく見ていきたいと思います。

化石を知ることで己を知る

現代の年代測定技術なくして地球の歴史を語ることはできないでしょう。

マンモスの骨とか、デニソワ洞窟内で発見された不思議な線画とか、化石人類のアゴの骨だとか…、すベて「とても古い」ことは誰の目にも明らかですけど、正確に「どれだけ古い」のかを測定できなければ進化論的・地質学的な時系列に並べることができず、意味のある比較分析を行なえません。過去には(今のところ)遡れませんから、地球で大昔に起こった出来事を知るには年代測定が有効な手立てなのです。

年代測定は認識論的にも大きな意義を持っています。聖書直解主義者は地球が誕生してからまだ6000年しか経っていないと言いますが、科学的な年代測定技術に基づいた地球の歴史はもっとずっと古いものです。ですから、化石がどれくらい古いかを正確に測定することは、私たち人類について、ひいては私たち人類の宇宙における立ち位置について知ることでもあるのです。

「ホンモノの化石」の見分け方

化石の年代測定はもう何百年も前から行なわれてきました。その間、さまざまな技法が編み出され、科学技術の進展により着々と技が磨かれてきました。とはいえ、年代測定は決して単純明快なプロセスではありませんし、まだまだ改善の余地はあります。

さて、化石の年代を測定するための第一歩。ちょっと意外かもしれませんが、まずは調べようとしているものが本当に化石かどうかを見極める必要があるそうです。年代測定のために科学者のラボに持ち込まれるアイテムの大半は、化石っぽい外見をしているだけでホンモノの化石ではないケースが多いらしいんですね

英インスブルック大学の地質学者で、光学年代測定法の専門家であるメイヤー(Michael Meyer)氏は、メールでこのように説明してくれました。

石の表面にキズがついていたり、不自然なかたちに侵食されていたり、石に含まれる鉱物が“変な”もようを織りなしていたりと、あたかもその石がかつて生きていたみたいに見えたりします。

大多数の人は化石がどうやってできるのか知らないことに加えて、人の目には無機質なモノに慣れ親しんだかたちを投影する傾向があるので、ふつうの石が化石化したオブジェクトだと思い込んでしまうケースも多いんです。

メイヤーさんはかつて「化石化した足とアヒル」を手渡されたそうですが、どちらも非常に奇妙なかたちをしたただの石だったとか。これはパレイドリア効果と呼ばれ、火星から送られてきた写真にスプーンやらリスやら謎の女の姿を発見してしまうのと似ているそうです。

では、正しい化石とは一体どんなものなのでしょうか。メイヤーさんによれば、化石とは広義において①過去に生命を宿していた物質(有機物の場合が多い)が石化したものまたは②過去に繁栄した生命の痕跡を現しているもの、このいずれかだそうです。

探している答えに最適な化石を見極める

正真正銘の化石を見つけ出す難しさ以外にも、こんな問題があります。カリフォルニア工科大学の人類学者・アレックス(Bridget Alex)さんによれば、年代を測定したい対象物が化石化したものを見つけ出すのがそもそも大変だというのです。

たとえば、古代都市がいつ火事で焼失したかを特定したいとします。すると研究者たちは炭化した木片だとか、焼け焦げた遺骨の年代を測定するかもしれませんが、これらが果たして古代都市の焼失と直接的に関係していたかは確約されていません。または、新たにネアンデルタール人の遺骨が見つかったとして、同時にその場で発見された動物の骨の年代を測定したところで、ネアンデルタール人の年代とはまったく関係がないかもしれませんよね。

「その動物はネアンデルタール人が存命していた時代よりずっと後になってから洞窟に迷い込み、たまたまそこで死んだのかもしれません」とアレックスさんは電話で説明してくれました。「これが年代測定の難しさでもあるのですが、探している答えに適した正しい化石選びが大事なんです」。

さらに、「ありがたいことに、化石のほとんどは年代測定が可能です。あとは時間、お金、それと状況的な要素が揃っているかが年代測定のカギとなってきます。化石の年代測定は大変な労力を要しますからね」とも話しています。

発見状況にもよりけり

言わずもがな、年代をもっとも測定しやすいケースは化石がもともと形成された場所で発見された場合です。化石だけでなく、化石のまわりの状況からも貴重な情報がたくさん得られるからです。一方で、もっとも測定しにくいのは発見現場から離れた場所で発見された化石。

たとえば中国で見つかった通称「ドラゴンマン」の頭蓋骨は14万年前のものと考えられていますが、発見されてから85年間も井戸の底に隠されていたため、もともとあった場所を特定することはもはや不可能で、年代測定が難航しました。

ちなみに、年代測定によってどれぐらい前まで遡れるかですが、制限はないようです(お金と時間が潤沢にありさえすれば)。地球でもっとも古いとされている石はおよそ30億7700万〜9500万年前のものと考えられているそうで、もっとも古いとされている化石は30億4200万年前のものだそうです。

相対年代決定とは

年代測定はざっくり言うと「相対年代決定(relative dating)」と「絶対年代決定(absolute dating)」のふたつの方法に分けられ、科学者たちは両方を駆使して化石がどれくらい古いのかを割り出します。相対年代は化石を古い順に並べて相対的に考えられ、絶対年代はピンポイントで数値化されたものです。

相対年代は18世紀頃から使われており、化石をほじくりかえすシャベル以外はさしたる技術力を要しません。しかし、アレックスさんによればもっともシンプルな年代決定方法がもっとも正確な結果を導き出すことが多いのだとか。

相対年代決定の基本的な考え方としては、アレックスさん曰く

深く掘り下げるほどに、埋まっているものは古くなる傾向がある

というもの。

メイヤーさんによればこれは「地層累重の法則(Law of Superposition)」と呼ばれ、「より古いものは新しいものの下に埋まっている──洗濯物の山と一緒です」と説明しています。なるほど。

19世紀の地質学者・ライエル(Charles Lyell)は相対年代決定を使いこなした先駆者でした。メイヤーさんの説明では

ライエルは、化石として発見された古生物の中で、子孫が現存している生物の割り合いを調べることで時間の経過を読み解く方法を編み出した

そうです。更新世鮮新世中新世斬新世などの年代区分は、ライエルの考え方から派生したものでした。

ふたつ以上の化石が同じ場所から発見された場合も相対年代決定が役立ちます。たとえば、年代がハッキリと印字されている硬貨が発掘された場合、そのまわりにあった埋蔵物に関してもある程度は年代が特定できるでしょう。

メリットも多い一方で、相対年代決定の弱点はコンタミネーション(汚染)の可能性です。時間が経つにつれて地層にある程度の乱れが生じることを前提としなければ正しい分析はできない、とアレックスさんは話しています。「一番古い層は一番下、というように、完全に自然のままの状態で残されている地層などないと想定したほうが無難でしょう。」

地層が乱れる原因には凍結と解凍、生物の採掘行為、人間の開発行為などが挙げられます。化石を掘り出す時、科学者としてはこのような「マクロなコンタミネーション」が起きていないか注意深く点検する必要があり、時にその道のプロである地質考古学者に判断を仰ぐことも求められます。

絶対年代決定とは

絶対年代決定の場合、うまくいけば化石がどれくらい古いのかをドンピシャで数値化するか、一定の年数内に限定することができます。メイヤーさんの説明によれば、絶対年代決定は「化学的、もしくは物質的な特徴からある程度の誤差を含んだ年代を特定するもの」。

時計式年代測定法とも呼ばれる手法は放射性崩壊に基づいています。そして時計式アプローチで一番有名なのが、考古学に革命をもたらした放射性炭素年代測定法です。放射性炭素年代測定法は、骨、歯、葉、木の幹などの炭素を調べることにより、基本的にはかつて生きていたものすべての年代を調べることができます。

炭素年代測定法では、すべての細胞に含まれている放射性炭素の量を普通の炭素の量と比較して年代を測定します。放射性炭素は安定していませんから、時間の経過と共に余剰のエネルギーを失って窒素に変わります。

「この窒素への変換は、あらかじめ予測できる速度で進行します」とアレックスさん。

生物が死んだ瞬間から放射性炭素──正確には炭素14──の崩壊が始まり、5730年毎に半分の量に減っていきます。言い換えれば、生物が死んでから5730年後には、もともとあった炭素14の半分しか残されていないことになります。

ところが、放射性炭素年代測定にはひとつだけ問題があって、それは化石の年代が6万年以下だった場合のみ使えるという点です。なぜか?それは「6万年以上経った化石にはもはや微々たる量の炭素14しか残っていないため、それに基づいて正確な年代を把握することが難しいから」だとメイヤーさんは説明しています。

炭素年代測定においても、コンタミネーションの問題はあります。化石とはまったく関係のない有機物が混入して、実際の年代よりも若く測定されてしまうことがあるからです。アレックスさんによれば、これは「ラボ内でも起こりうる問題」だとのこと。ただし、最近になってコラーゲンの抽出・洗浄など新たな手法が編み出されるとともに、ラボ内でのコンタミリスクはかなり軽減されつつあるそうです。

炭素以外にも、ウランの同位体を使った年代測定法、さらには電子スピン共鳴(ESR)を使った年代測定法もあるそうです。

ルミネセンス年代測定法とは

では、6万年よりも古い化石の年代をどうやって測定しているのでしょうか? 直接的ではないものの、化石を取り囲んでいた土砂や鉱物などの無機質物質の年代を調べることでわかるのだそうです。光ルミネセンス年代測定法(OSL)を使えば、土壌に含まれているある特定の鉱物が最後に日光を浴びたのかがいつだったのかがわかるため、その化石がおおよそいつ頃土に埋まったか見当をつけることが可能です(測定前に光に当ててしまうと台無しなので、そこらへんは要注意、とメイヤーさん)。最近では光ルミネセンス年代測定法により、ストーンヘンジが実は今とはまったく違う形から始まっていたことが明らかにされました。

また、熱ルミネセンス年代測定法というのもあり、これはその名が示す通りその化石が最後に熱されたのがいつだったかを特定する方法。「たとえば石器がいつ摩擦により熱されたか、または火の中にくべられたかがわかります」とアレックスさんは説明しています。

化石を育んだ環境を知る

ところで、化石の年代測定は必ずしもラボ内で完結するとは限らないそうです。

マックス・プランク人類史科学研究所に所属する考古学者・セーリ(Eleanor Scerri)さんは、「時計式年代測定法が研究室だけで行なわれるもの、という認識は間違っています」と指摘しています。

化石の年代を正しく測定するためには、化石が出土した周辺環境がどのように形成されたかを知ることが不可欠だからです。土砂崩れはあったか? 堆積物はあったか? それとも時間とともに重ねられてきた地層にまったく乱れがない状態なのか?

水が化石や埋蔵物をもともとあった場所から遠くへ運ぶことも考えられますし、動物や昆虫の活動により異なる年代の土砂をごちゃ混ぜにしてしまうことも考えられます。

この辺を考慮して化石のサンプルを選ばないと、いくらラボで正確に年代を測定することができたとしても、結果に期待できません。

複数の年代測定法を併用

時計式年代測定法は、考古学者にとってパワフルなツールです。しかし、パワフルだからこそ、使う者の方法論的な責任が問われます。

セーリさんによれば、まず測定しようとしているものの本質をしっかりと把握した上で、できる限りひとつ以上の測定法を使って年代を割り出すことが理想的だそうです。

たとえばです。最近ある洞窟の奥深くに、山のように大量の化石化した骨が発見されました。

骨の山のまわりを放射性炭素年代測定したところ、これらの骨はなんらかの大規模な洪水によって洞窟内に流されてきたのだとわかりました。ところが、肝心の骨自体はこの洪水が起こった時よりもはるかに古いこともわかったのです。

セーリさんたちは現在、ウラン電子スピン共鳴のふたつの方法を併用しながら骨の年代測定を進めているそうです。

もし骨の一部がほかの骨とは著しく異なる年代であると判明すれば、おそらく異なる時代の骨がひとつの大洪水イベントによって一緒くたに流されてきたものと考えられます。

他方で、骨がおおよそ同じ年代のものである可能性もあります。骨を見るかぎりはほとんどが同じ種だからです。それでいて、洪水が起こった時よりずっと古いものなのかもしれません。これらのさまざまな仮説を追求するためには、複数の年代測定法を使う必要があります。

もちろん、複数の年代測定法を使うことによって、結果の信憑性がより高くなってくることも考えられます。

火星の石も測定できるか?

これらの年代測定法は、今まではほとんどと言っていいほど地球上の化石を調べるために使われてきました。でも、今後は宇宙の石を調べるのにも使われ始めるかもしれません。たとえば、火星からのサンプルリターンが予定されていますが、火星の表面に転がっている石って一体どれぐらい古いのでしょう?

地球上の歴史を紐解いてきた年代測定法。これからは、火星の歴史、そして火星にその昔生物が存在していたかどうかさえも明らかにしてくれるかもしれません。

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