「思っていたより難しい」:オフィス出勤を再開した、あるパブリッシャー 編集者の告白

DIGIDAY

アメリカでは、新型コロナウイルスのデルタ株感染拡大の懸念から、メディア企業のオフィスの正式な再開が、秋以降にずれ込みそうだ。だが、パブリッシャーのなかには従業員が自発的にオフィスに戻ることを認めているところもある。

匿名を条件に本音を語ってもらう「告白」シリーズ。本記事では、あるデジタルパブリッシャーの女性上級編集者が、パンデミック中にパブリッシャーに入社後、今夏オープンしたニューヨーク市にあるオフィスに出社した際の体験を共有してくれた。

家に閉じこもっていることにうんざりしていたこの編集者は、同僚と会って交流できることを楽しみにしていた。しかし、出社という選択肢を選ぶ人はほとんどいない。デスクに座っているときでもマスク着用が必要になったいま、この編集者は出社する理由があまりないことに気づき、この状況に失望しているという。以下に、その告白の内容をまとめた。なお、読みやすさを考慮し、以下のインタビューには若干の編集を加えている。

──出社を選んだ理由は?

私は在宅ワークが好きではなかった。気を取られるものがたくさんあるからだ。私は社交的な人間で、オフィスに行くのが好きだった。友達はみな、そこにいた。その後、パンデミックが起こり、私のメンタルヘルスに悪影響を与えた。ひとり暮らしだし、オフィスに行きたくて仕方なかった。一日中、家の中で過ごしたくはなかった。昼寝をしたり、眠ったり、テレビを見たり。しなくていいのなら、こんなことを一生続けたくはない。

反面、着替えたり、持ち物をまとめたりする必要がないことが楽しくなり始めていたので、毎日出社しなくてもいいという点には、ある意味ワクワクしていた。でも、逃げ場ができたことに興奮していた。パンデミックの最中に仕事を始めたので、実際に人に会ってみたかったのだ。

──最初の数回、オフィスでの仕事はどんな感じだった?

私は世間話のやり方を学び直さなければならなかった。新しい仲間に認めてもらわなければならなかった。これは最近あまりやっていなかったことだ。我々はみんなで、「わぁ、背が高ね」「わぁ、背が低いね」というダンスをした。これは楽しい緊張ほぐしになった。オフィスでどうやって生産性を上げるかを考えるのは、学び直しの経験になった。以前はヘッドフォンをつけて仕事をしていたが、いまはそうしてはいけない、実際に人と知り合いにならなければという義務感がある。ほかの人たちも、人と直接会って話をしたいと思っていた。

──在宅ワークからの切り替えについて、想像と違ったことは?

思ったより難しかった。ルーティンをすっかり忘れてしまっていて、決まった時間に起きて家を出る必要があった。出社モードに戻るのはとても大変だった。同僚たちとの再会が楽しみだったし、儀式めいた瞬間が来ると思っていたが、まだ何もかも怖いことばかりなので、ほとんど誰も出社して来ない。すべてがまだ漠然としている。ウイルスに対して強い不安を抱く人は多いし、それも当然だと思う。

──定期的に出社している?

数日前も出社してきたが、そのあいだ誰も来なかったから、奇妙な感じがした。最初は週に2回出社したいと思っていて、1週間だけそうしたが、それ以降は週1回にしている。

自主的な出社が始まったころ、ワクチン接種をしていればオフィスではマスクを着けている必要はなかったのでよかった。「いいね。ここにいるあいだ、1日中マスクをしていなくていいんだ」と思った。でもいまはデルタ株が広がって、オフィスのある建物でもコロナ感染が出ているので、マスク着用とソーシャルディスタンスが義務づけられている。だから、出社は魅力的な選択肢ではなくなった。

何かしない限り、マスクを着けなくてよくなるまで、これ以上出社の回数を増やすことはないと思う。今のところは、身を守ろうとするのは良いことだと思う。事態が落ち着けばもとに戻すかもしれないが、たとえば来週出社することは考えていない。

──自分が出社したときに同僚が来ていないと、オフィスに戻って仕事をしたいという気持ちに影響が出る?

最初は「家を出て、また人と交流できるのは素晴らしい」と思ったが、いまはまだ、奇妙で一貫性のない状況が続いていて、私の生活に正常さや一貫性をもたらすものではないので、ちょっとイライラしている。私は、オフィスの再開にはある程度の一貫性を望んでいる。

我々が柔軟性を求めているのは間違いない。だが、こんなにも柔軟でオープンで、なんでもあり過ぎるのはおかしい。オフィスには誰もいないし、同時出社を促すための統一されたものも何もない。オフィスに他人がひとりいたとしても、それではやる気が起こらず、ただ身なりを整えてそこにいるだけになる。

──より多くの人が自主的に出社するようにするには何をすればいいと思う?

会社がインセンティブを用意する必要がある。軽食の用意が必要だし、本当の意味での後押しや指示、命令が必要だ。私は、自宅で仕事をする日もあれば、オフィスで仕事をする日もあるという、よりハイブリッドな方法が気に入っている。ズボンを履かずに寝ていられる日もある。

オフィスが再開されるのがいつになるのか、私の仕事が本来あるべき姿になるのはいつなのか、いまはわからないが、これが私の「ノーマル」になるのは嫌だ。

[原文:‘Harder than I expected’: Confessions of a media employee on their experience returning to the office

SARA GUAGLIONE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:小玉明依)

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