ハイブリッドな労働環境への対応を進めるリーダーたち:「みんなが輪のなかにいるように」

DIGIDAY

創業100年の大手自動車メーカーであるフォード(Ford)からテクノロジー界の巨人であるAppleやマイクロソフト(Microsoft)まで、変化した世界でもっとも効果的な業務モデルとして、ハイブリッドな働き方を広く採り入れるようになった。

さまざまな業界の最高経営責任者(CEO)たちで構成される非営利団体「パートナーシップ・フォー・ニューヨークシティ(Partnership for New York City)」が行った調査によると、雇用主の71%がハイブリッドモデルの採用を計画しており、そのうちの63%が、従業員には週3日の出社を求めていることがわかった。

従業員や雇用主のこうした希望は、ロジスティックな課題を提示する。

「誰も取り残さない」環境づくり

サンフランシスコを拠点とする投資管理ソフトウェアの専門企業ジュニパー・スクエア(Juniper Square)は、自社の労働環境を3つのハブに再構想した。物理的なオフィスはサンフランシスコとオースティンに、そして3つ目のハブはクラウドにある。このクラウドは、リモートで働く従業員が仕事を共有したり共同作業したりする中心的なオンライン空間だ。

ジュニパー・スクエアの共同創設者でCEOのアレックス・ロビンソン氏は、クラウドハブのゼネラルマネージャーを兼務している。ロビンソン氏は、リーダーがデジタルファーストになるためには、文化や仕事の規範を見直すことが重要だと考えている。「デジタルをデフォルトモードにすることで、従業員の条件を平等にし、場所を問わず、誰もが同じように情報にアクセスできるようになる」。

多くの従業員がオフィスに戻ってくるなかで、ジュニパー・スクエアでは、これらの規範を文書化し、再構築することを徹底している。たとえば、共同作業の時間帯については、太平洋時間の午前9時から午後3時までという基準を設け、ミーティングが実施される時間帯を全員が共有できるようにした。ロビンソン氏は、「すべての会議には Zoom(ズーム)の招待が必要で、バーチャル参加も可能なようにしている」と付け加える。

インド、米国、中東に拠点を持つワークフローソフトウェア企業、キスフロー(Kissflow)は、ハイブリッドモデルの「リモート・プラス(Remote+)」の開発前に、社員からの幅広いフィードバックを集めた。チームは月に1回、オフィスに出勤する週を選び、残りの週はどこでも仕事ができるようになっている。キスフローのCEO、スレシュ・サンバンダム氏は次のように述べる。「我々は、議論から取り残されていると感じる人がひとりも出ないように、同期および非同期のコミュニケーションをサポートするデジタルワークプレイスプラットフォームを展開している」。

キスフローは、Googleのワークスペース(Workspace)と組み合わせてプラットフォームを利用している。「デジタルワークプレイスプラットフォームは、仕事のコンテキストを維持するのに役立ち、会話をしたり、仕事の残りの部分を同じ場所でタスク管理したりすることができる。これは誰も取り残されないということでもある」とサンバンダム氏は話す。

ツールをいかに効果的に使えるか

優れたコミュニケーターであることは、リーダーにとって必須のスキルだが、分散した従業員とのコミュニケーションには、数多くのデジタルツールを活用することが有効だ。英国北西部のブラックプール近郊に拠点を置くスタジオLWD(Studio.LWD)のクリエイティブディレクター、ローラ・ウェルドン氏は「みんなが輪のなかにいて、いま何が起こっているのか、そしてみんなが問題ないかを常に把握しておくことが大切だ」と述べる。

スタジオLWDでは、「トグル・プラン(Toggl Plan)」や「トレロ(Trello)」など複数のツールを使ってプロジェクトのスケジュール調整を行って、全員がプロジェクトの状況をチェックできるようにしているほか、チーム内のコミュニケーションにはSlack(スラック)を、週1回のミーティングにはZoomを利用している。

休憩室でのお喋りやオフィス環境で自然発生するチームビルディングなど、非公式なコミュニケーションを再現するうえでも、デジタルは重要な役割を果たす。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のオンラインMBAのディレクターであり、クリエイティビティとイノベーションのアシスタントプロフェッサーでもあるジェームス・ベリー氏は、既存のサイロを強固にしないために、デジタルを使って「異なるチームのメンバー間で、予期しないコミュニケーションや議論ができる瞬間を作る」ことをリーダーに勧めている。

キスフローは、「常時オン」で、従業員が立ち寄り気軽に会話ができるバーチャルカフェテリア「カフェ(KAFE)」を作り、日常的なつながりを維持している。

リーダーの存在意義

デジタルファーストの考え方はハイブリッドな労働環境において効果的なリーダーシップの発揮につながるかもしれないが、注意すべき落とし穴もある。ベリー氏は、Zoom上でクリエイティブなコラボレーションを最大限に生かすためには、リーダーは適切な基盤を整えるべきだという。

「チームのメンバー同士がすでに互いを知っていて、最低限の努力で互いの思考の流れについていける場合は特にそうだ。対面でのやり取りは、そうしたつながりができているのを確認するのに役立つので、長期的に人材を最大限に活用したいチームには必須のアイテムだ」。

ベリー氏は、デジタルミーティングは生産性が高い一方で、チームに事前に計画を立てさせるようにする必要がリーダーにはあると述べる。「クリエイティブな従業員は、会議の準備と、会議への積極的な参加を意識的に行うべきだ。そうすれば、ブレインストーミングやそのほかの会議で共有されるアイデアや情報が、適切かつタイムリーで生産的なものになるだろう」。

「Zoom疲れ」に留意することも大切だ。組織心理学者で、英国南西部ブリストルにあるモンキー・パズル・トレーニング・アンド・コンサルタンシー(Monkey Puzzle Training and Consultancy)の共同創設者、カレン・ミーガー氏は、コミュニケーションの方法を変えることで、この問題を防げると考えている。「何時間もビデオ通話をするのではなく、短い音声通話や短いダイレクトメッセージを会議のあいだに挟み込む。また、『ビデオ通話のない金曜日(video free Fridays)』を設けて、全員がスクリーンタイムの厳しさから解放されることを奨励している組織もある」と話す。

最後に、分散したチームを管理する際には、仮想空間でのエンゲージメントを促進することが重要だ。「リーダーとして、グループメッセージに積極的に参加し、バーチャルイベントを立ち上げ、熱意を持って会話に参加するようにするといい」と、ミーガー氏はいう。

要するに、ハイブリッドな労働環境ではデジタルはかけがいのないものだが、リーダーが手本を示すことは、「コロナ」という言葉が出てくる前と同じく重要なのだ。

[原文:Leaders prepare for hybrid-work models ‘ensuring everyone is in the loop’

NICOLA SMITH(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:小玉明依)

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