書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。
書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
こんなに外は夏なのに、夏らしいことがほとんどできない夏。
国際的運動会、たしかに選手にはがんばって欲しいけど、ほんとにいろいろありすぎて……せめて涼しい部屋で、ひとときの現実逃避をお楽しみください。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご招待しましょう!
書き出し自由部門
入道雲に乗りたくて、夏の子が飛び跳ねている。
紅井りんご
思いっきり夏を感じさせる秀作。全然関係ないけど昔、石原良純がテレビで「理想のタイプは入道雲みたいな女性」と言っていて「??」ってなったことを思い出しました。
水たまりを踏んだら、空が歪んだ。
一色凛
県をまたぐ瞬間、息を止めた。
ブーゲンビリア
小5の夏休み、はじめてチャリンコで県をまたいだ景色をなぜか鮮明に覚えている。
生乾きの体操服が、廊下に寝転がっている。
海斗
夏の市民センターがだらけている。
terayo
市営プールが暮れる。
タカタカコッタ
夏のナイロビは、熊谷ほどじゃない。
戸似田一郎
今日はみんなに、転校するって伝えに行く日。
昼行灯
あっさりした文体に、これがはじめてじゃない気配もある。親が転勤族なのかな。いろんな心情が読み取れる秀作。
ダムの底に沈む故郷から、返礼品が届いた。
suzukishika
おそらく流しそうめんの中間地点ではなかろうか。
ろっさん
地平線まで伸びる半分に割った竹
洗濯物を奪おうとするカラスに父親がツボ押し棒で立ち向かい、負けた。
KESHI
手の中に収まるタイプのツボ押し棒で。
「大人になったね」という空っぽの感想を聞きながら、夏の雲を見つめていた。
もんぜん
みんながキレイだというものが実際にキレイで、感動を噛み殺したあの頃。
正夢の3人目
ワイパーに挟まった果たし状を夕立が溶かした。
寂寥
傷は絆創膏に覆われ、かさぶたになり、やがてこっそり姿を消した。
花惑
主役のかなちゃんは、踵が光る靴をブラックホールに投げ入れた。
ベランダ
原型だけを取り出すとシンデレラと同じ話。
塩水責めにされて、アサリは砂と組織の情報を吐いた。
さくさく
熱中症一歩手前の時に食べた、さびれたフードコートの醤油ラーメンが、おれの人生で最もおいしい一杯だった。
さくさく
記憶に刻まれる味ってこういうものかもしれない。
「年貢を50倍払わせてください」私は地べたに頭を擦りつけ、領主様に懇願し土下座した。
釧路ダンディ
過払い年貢?
ドーベルマンと叔父は互いに引き合いV字になってこちらへ来る。
井沢
冷えきったカレーうどんから、息継ぎのような泡が出ている。
prefab
自由部門は毎回、その季節を反映した作品が多く寄せられます。今回はとくに照りつける太陽、青空、気怠い昼下がり、を連想させる秀作が多かったようです。
続いては規定部門。今回のテーマは夏の恒例、書き出し怪談です!書き出しだけで鳥肌の立つ、瞬間冷凍の恐怖をお楽しみ下さい。
規定部門・モチーフ『怪談』
剥がされる爪がもう無い。
人馬一体勘
「あなたの目玉焼きを作ってあげる。」
ウチボリ
「娘さんを僕にください」新しく塗られた壁に向かって、彼は頭を下げた。
ぴすとる
スリーポイントシュートは大きく弧を描き、黒髪をなびかせながらゴールに吸い込まれていった。
ぴすとる
鏡に映る自分の方が先に瞬きをした。
節度亜図夢
万華鏡の綺麗な模様がゆっくり全て目に変わった。
みよおぶ
金次郎は夜の散歩へと向かった。
ミヤカン
サンタは返り血を浴び、次のプレゼントへ向かった。
寝かせ兎
「だるまさんが転んだ」について、本当の話をしよう。
タカタカコッタ
もう怖い(笑)
小さな祖父母は、茄子にニケツで跨がった。
ろっさん
点滴の中に赤い虫が泳いでいる。
モンゴノグノム
生理的な怖さ。
「かき氷が食べたい」と祖母が言ったので、アイスピックを手に取った。
八千代
怪談という前提があると、むしろなんでもない文章の方が怖ろしく感じるという好例。
先輩の残り香は棺の匂いとよく似ていた。
葱山紫蘇子
夢に何度も出てきた見知らぬ男が、引越しの挨拶に来た。
紅井りんご
玄関を開ける。音が無さすぎるし、自分の名前を言えない。
正夢の3人目
カーテンの影だけが膨らみはじめた。
午前0時
月にかかった雲が、金切り声を上げて千切れていく。
午前0時
まるでゴッホが見た夜空のような狂気を感じる。
柔突起は音の吸収もいい。小腸は防音室に最適だ。
ビールおかわり
柔突起、久しぶりに聞きました。グロくて好き。
蚊の世界にも、呪いってあるらしいよ。
七寒六温
あれっ、おかしいな、変だな、ここ別館だな。
ベランダ
火の玉に細かい指示を出しながら、女優の霊が現れた。
昼行灯
何か異様な気配を感じたそのとき米が炊けた。
寂寥
腹が呻くように鳴った。
四谷怪談48で、センターをしていた時の事です。
にら将軍ハルナ
数える度にバナナの本数が違っているのだ。
いそうろう
皿を数える声は最後には大合唱になった。
いそうろう
白組が数え終えた後も、まだ紅組は数えている。
まだ憑いてはいたがジョレイ!!の大声で終わらせた。
哲ロマ
除菌もジョキン!で終了。
飛び降りた女性は電線に引っ掛かり膝から千切れていた。近づくと、両目をパッと見開いた。
夢雀
「これでも…きれい?」と言い、女はサングラスとサンバイザーと不織布マスクを外し始めた。
インターネットウミウシ
すっぴんの中条あやみであって欲しい。
この時期になると、きまって私たちの噂話が流れ出す。人間界ではそれを「怪談」というようだ。
南極行太郎
女装して死んだら、そりゃ女装したまま化けてくるわな。
prefab
その合コンには母がいた。
ミミズグチュグチュ
今度は私を忘れないで。
井沢
それでは次回のお題を発表します。
次回モチーフ
『サウナ』
もはやブームというより、すっかり定番になったサウナ。「整う」などお馴染みのフレーズも生まれました。暑苦しいこの季節、さらに汗をかいてストレス発散といきましょう。締め切りは8月6日、発表は8月8日を予定しています。下記の投稿フォームよりお送り下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
ベル/のと/ 一色凛/こんどう巨神兵/たらはかに/たこフェリー/ ぐるりん/吉田髑髏/モリダイ/はいよ/熱帯魚でっかいよ/坂上田村麻呂の従兄弟/眞栄団子うどん/にかしど/野焼き/はいよ/若葉猫