TikTok「レシピ」動画に期待する、食品・飲料ブランド急増 :「シンプルかつ直感的なのがいい」

DIGIDAY

バイラルレシピがソーシャルメディアプラットフォームを席巻するなか、食品・飲料ブランドはTikTokへの投資をはじめた。

TikTokでは、レシピを扱ったコンテンツがバイラルになる力を持っている。最近のプラットフォームでもっともヒットした2大レシピ「#フェタパスタ(#fetapasta)」と「#ダルゴナコーヒー(#Dalgonacoffee)」のハッシュタグは、何千人ものユーザーによる何千もの動画によって拡散され、それぞれ9億9900万回と5億1600万回見られた。こうした動画は、Facebookやインスタグラムで以前見られていたようなレシピ動画のトレンドを進化させたものだが、ユーザーが作り出す最近のトレンドは、やや大ざっぱな作りだったり、洗練されすぎていないものを良しとする美的感覚が特徴だ。

ブランドはこうしたユーザーにファンになってもらうため、バイラルなレシピコンテンツへの投資をはじめている。すでに確立されたトレンドに沿って作るブランドもあれば、エンゲージメントが高まることを期待して新しいレシピを作成し、そこで生まれたトレンドを、のちにほかのプラットフォームや製品開発に広げていくブランドも見られる。

大型ブランドも注目

クリスティーナ・ロス・ブランクファイン氏とジェニファー・ロス氏は2015年、糖分ゼロのレモネードのブランド、スウーン(Swoon)を立ち上げた。今年6月に同ブランドのTikTokを立ち上げる際、ブランクファイン氏は、TikTokで流行っていたホイップレモネードを中心としたコンテンツを作りたいと考えた。ホイップレモネードとは、下にレモネード、上にいちご味のホイップクリームをのせた飲みもので、すでにインスタグラムの再生回数が伸びていた。同氏は、TikTokのクリエイターに声をかけ、レシピつきの動画とインフルエンサーの動画を組み合わせた、ブランド最初のコンテンツを作った。

ブランクファイン氏は、「動画を作ったのはこれが初めてだったのだが、ホイップレモネードの動画をTikTokで見て、私たちにあまりにぴったりで、自分たちのコンテンツを作らない手はなかった」と振り返り、「TikTokのレスポンス動画は、オリジナルの動画よりもバイラルになることがある」と語った。

デジタルメディア企業のピュアワウ(PureWow)が先週投稿した、スウーンを使ったホイップレモネードの動画は7月初頭、TikTokのトレンド動画のトップセクションに入っていた。

大型ブランドもTikTokのフードトレンドに注目している。ドーナツ&コーヒーチェーンのダンキン(Dunkin’)でブランドエンゲージメントを担当するアシスタント・マネージャー、オリビア・ウエスト氏は、「レシピコンテンツは、昔からの人気商品をプロモーションするだけでなく、新商品に興味を持ってもらうための手段にもなっている」と述べている。ダンキンはTikTokでもっとも人気のある食品ブランドのひとつで、290万人のフォロワーと2070万の「いいね!」を獲得している。また、TikTokでもっともフォローされているクリエイター、チャーリー・ダミリオ氏と公式パートナーシップを結んだ。

ウエスト氏は、「ダンキンのコーヒー、特にアイスコーヒーは常にファンのお気に入り。TikTokのコンテンツやレシピでも頻繁に利用している」と話した。「私たちはまた、可能な限り新発売の商品を紹介するようにしている。幸いなことに、TikTokには私たちの新商品をレビューするのが好きなクリエイターたちによる素晴らしいファン層がある。そのため、商品レビューコンテンツ「TikTok Made you Buy It(#tiktokmademebuyit)」で次に取り上げてもらえるような新しい飲料や食品を常に用意している」という。

旧来型プラットフォームとの決定的な違い

バイラルなレシピ動画は、TikTokに限ったことではない。メディア企業のBuzzFeedは2015年、料理レシピのマルチプラットフォームかつレシピ動画のハブとなるテイスティ(Tasty)を立ち上げ、それが瞬く間にバズフィードの最大の収益源のひとつとなった。テイスティは、主にFacebookで成功しており、現在9800万人近くのファンを抱えている。テイスティの初期の動画は、シェフ向きのものというより、今日のTikTokの動画のように、短く、モバイル用に最適化され、使われている食材に焦点を当てて俯瞰で撮影されていた。

しかしFacebookによると、バズフィードはその後、収益を上げるために3分以上の長編動画にシフトした。これに対し、TikTokの動画は3分以下である。また、TikTokのトレンドは、テイスティのようなメディアハブによって形成されるのではなく、オーガニックなバイラル動画、あるいはレシピを見た人がそれを再現することで、ユーザー自身によって形成される。ひと昔前の動画は、予算のあるメディアチームによって制作され、Facebookやインスタグラムの伝統的なアルゴリズムを考慮してキュレーションされた、整然としたものだった。より雑然としたDIYレシピが繰り返される今日のTikTokは、古いソーシャルメディアプラットフォームからいかに乖離しているかを浮き彫りにしている。

TikTokのプラットフォームは成長を続け、2018年には5400万人だったユーザーが世界で6億8900万人になったことで、TikTokのバイラルレシピは購買動向にも影響を与えるほどの力を持つようになった。最近TikTokでバイラルになったフェタパスタ料理は、パスタとトマトを混ぜたものにフェタチーズのブロックを丸ごと加えるという、家庭にいる「シェフ」たちにもできる比較的シンプルなレシピで、フェタチーズの売上増加をけん引した。中西部のスーパーマーケットチェーン、ザ・フレッシュマーケット(The Fresh Market Inc.)によると、2021年1月にソーシャルメディアでフェタパスタのトレンドが起きたあと、店舗でのフェタチーズの売り上げが45%増加したという。調査会社フィッチ・ソリューションズ(Fitch Solutions)によると、2020年3月、韓国でホイップ入りインスタントコーヒーのダルゴナコーヒーが流行した際には、インスタントコーヒーの輸入量が全国で65%増加した。

新方程式は「より短く、より少なく」

再生時間が短いTikTokの性質を考えると、動画はシンプルであることが重要だ。TikTokの再生時間は最長3分だが、成功している動画のほとんどはさらに短いものだ。コミュニケーションの専門家ダン・スリー氏の分析によると、2019年における同プラットフォームの動画トップ100のうち、80%が20秒以下であることがわかった。さらに、ほとんどのバイラルレシピは、使われる材料が5つ以下だった

ピーナッツバタークッキーのナッターバター(Nutter Butter)のブランドマネージャー、イー・ウォン氏は、「シンプルで視覚的なレシピ動画」がこのプラットフォームでは有効だという。

ナッターバターは31万5000人のフォロワーと160万人の「いいね!」を獲得しており、Facebookやインスタグラム、Twitterなどのコミュニティをはるかに凌いでいる。同社は、クッキーが案内人に扮した食料品店ツアーや、ピーナッツバタースナックとその宿敵ゼリーとの確執など、iPhoneで撮影した動画や奇抜なコンテンツを積極的に取り入れている。

ウォン氏は、「インスタグラムに投稿された、いわゆる『Pinterest映え』するレシピ写真はオーディエンスの共感を得られないことがわかったため、TikTokに参加して別の道を選ぶことにした。TikTokでは、あえて飾らない手法でブランドの個性を引き立たせることができる」という。

セレンディピティに期待

各ブランドは、すでに流行しているレシピへのリアクションや、独自のレシピ、ユーザーが作成したレシピなどをTikTokに定期的に投稿している。ナッターバターは、1枚のトルティーヤと具材を4等分してパニーニ風にプレスした動画「#トルティーヤトレンド(#tortillatrend)」に対抗し、トルティーヤにナッツやピーナッツバター、クッキーを載せてフライパンに投入するレシピを披露した。さらに、新しいバイラルレシピに挑戦するため、マグカップに1枚のクッキーを入れてコーヒーを注ぐという「#ナッターバターコーヒー(#nutterbuttercoffee)」を投稿した。

@officialnutterbutter

#nutterbuttercoffee

♬ original sound – Nutter Butter

ナッターバターが投稿した「#ナッターバターコーヒー」

だが、「ダイナミックでオーガニックなTikTokで『バイラル』を捉えるのは難しい」と、「餅アイス」ブランドのリトルムーン(Little Moons)でマーケティングディレクターを務めるロス・ファーカー氏はいう。23万8000人のフォロワーと320万の「いいね!」を持つリトルムーンが、その代わりに重視しているのが、創造性だ。

ファーカー氏は、「バイラルを生み出すことを狙って計画を立てたものが、バイラルに結びつくことはほとんどない。セレンディピティ(偶然の産物)を受け入れる余裕が必要だ」という。「私たちは、TikTokでどのコンテンツが注目され、どのコンテンツが注目されないかを推測することをやめた」と話す。

セレンディピティが起こり、バイラルなレシピが特に成功した場合、多くのブランドはその成功をプラットフォームの外に広げ、トレンドをほかのプラットフォームでのマーケティング決定の指針とするだけでなく、製品開発やリブランドの参考としている。

スターバックスは、特設サイト「コーヒーアットホーム(Coffee at Home)」で、ダルゴナコーヒーのレシピを公開し、2種類のインスタントコーヒーをプラットフォームの枠を超えてプロモーションしている。パンケーキ店のアイホップ(IHOP)は、TikTokのミニパンケーキシリアルのトレンドに乗って、「パンフレーク」というシリアルの新商品を発売する予定だ。メキシコ・ハリスコ州発祥の山羊肉シチュー、ビリアが同プラットフォームで有名になると、フードトラックでタコスを販売するNYのエルトロロホ(El Toro Rojo)は、タコスをビリアに浸して食べる「ビリアタコス」が大量に売れ、2020年10月には、ビリア・エルトロロホ(Birria Del Toro Rojo)にリブランディングした

リトルムーンのようなブランドにとって、TikTokでの成功は、チャネルの枠を超えてブランドのアイデンティティを形成することにつながる。

「TikTokで起きたことを主流メディアに持ち込むことで、私たちは大きな成功を収めることができた」とファーカー氏は話す。「TikTokを利用していない人たちからの関心の高さも相当なものだ。さらに、TikTokの精神であるエンターテインメント性、遊び心、軽快さは、より『伝統的』な広告にも大きな影響を与えている」。

[原文:‘Simple and visual’: Food and beverage brands embrace viral recipes on TikTok

Maile McCann(翻訳・編集:戸田美子)

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