五輪は掟破り 女医が海外に訴え – 鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

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オンラインでの抗議リレー「私たちが止めるしかない東京オリパラ」を毎週続けている女性たちが12日午後、日本外国特派員協会で記者会見を開き、改めてパンデミック下での五輪開催に反対を表明した。医師や看護師、教職員らが参加。「無観客にしようがしまいが、数万人もの選手や関係者が世界中から集まるなど、パンデミック下にやってはならないこと」、「オリパラ開催のために社会を生きる女性たちの命と生活が危機にさらされている。『国家からのフェミサイド』だ」などと訴えた。

【「東京がエピセンターになる」】

 「パンデミックの時には、多くの人を1カ所に集める大規模なイベントを絶対にやってはなりません。掟破りです」

 開業医で公益社団法人日本女医会理事の青木正美さんは力をこめて語った。

 「『SARS-CoV-2』というウイルスは人から人へ移ります。オリンピックは世界中から選手を集めて行う世界最大のイベントです。全て無観客にしようがしまいが、数万人もの選手や関係者が世界中から集まるなど、パンデミック下にやってはならないことです。人類の生命維持に対する最大の冒涜です。今、私たち人類がしなければならないことは、みんなで集まってスポーツをすることではありません」

 青木さんは「このまま開催すれば東京が巨大なエピセンター(感染の中心地)になってしまう」と危惧する。

 「私は臨床医ですから、東京がオリパラによってどれほど苦しむことになるのか、より専門的に考えることができます。そもそも日本は、オリパラ開催国として最低限やるべきことを全くやっていません。誰でもどこでも何度でも、無料でPCR検査をできるようになっていません。ワクチンを2回接種した人も20%にも達していません。イベルメクチンという日本製の有効な薬があるのですが、その治験も積極的に行っていません。そして想像力も全くないリーダーは、五輪開催というあり得ない、無謀な判断を下しました」

 「晴海の選手村の宿泊施設には個室がありません。2人から6人部屋です。食堂も3000人が一緒に食事をするなど、ソーシャルディスタンスも取れません。ですから選手村や競技場で新たな変異株が誕生する可能性も大いに考えられます。それらのウイルスが母国に持ち帰られれば、地球規模で広がってしまうでしょう」

 「世界中の皆さんも、いまオリパラを開催するべきではないことが容易に分かるはずです。」

 オリパラを「最もやってはいけないこと」と繰り返した青木さん。スピーチをこう締めくくった。

 「なぜIOCや日本政府、東京都の優秀なリーダーたちには理解できないのか、とても不思議です。そして怒りを感じます。パンデミックの本当の怖さを知らずに、とても甘く考えているのだと思います。オリパラは最もやってはいけないこと、つまり人類のタブーであるのです。開催を止めて人類の命を守って行きましょう。今からでもまだ間に合います」


(上)「パンデミック下のオリパラ開催はタブー」と訴えた医師の青木正美さん。「日本の大メディアはスポンサーになっていて、いくつかの地方紙を除いては五輪開催に無批判」とも
(下)「フラワーデモ」の松尾亜紀子さんは「海外の選手、関係者、メディアの皆さんはこれ以上、日本に来ないで」と力をこめた

【「国家からのフェミサイド」】

 松尾亜紀子さん(フラワーデモ)は「日本政府や東京都、IOC、JOCに私たちの声は届いていません。大切な命と引き換えになぜ、私たちはオリパラを選ばなければいけないのでしょうか。私たち日本の女性から世界の皆さんに強くお願いします。これ以上、日本に来ないでください。海外の選手、関係者、メディアの皆さんは来日をキャンセルして」と訴えた。

 「私たちがオリパラ中止を強く求めるのは、社会を生きる女性たちの命と生活が危機にさらされているからです。開催国であるにもかかわらず、日本政府は感染症への対策をほとんど行っていません。経済対策もなされていません。コロナ禍で在宅を強いられた結果、DVや望まない妊娠の相談件数が増えています。非正規雇用で働く女性のうち2割がコロナ禍で休業を余儀なくされました。職を失った途端に住まいを失う女性たちも増えています。深刻なのは、自死を選ぶ女性が増えていることです。この1年間で女性の自死は25%増えました。そもそもオリパラ会場設営のために多くの野宿者たちが強制排除され、都営アパートに住む人々が追い出されました。都営アパートに暮らしていた多くは、行き場のない高齢女性でした。これらは全て、オリパラ開催のために私たちを犠牲にする『国家からのフェミサイド』です」

 「国民の命を、そして多くの女性を犠牲にしないためにオリパラは中止する必要があると思います。遅すぎるということはありません」と訴えたのは、昭和大学病院泌尿器科の医師で前日本女医会長の前田佳子さん。

 「医療現場で働く人の7割以上が女性です。つまり、医療現場への負担は女性への負担でもあると言えます。日本看護協会の2020年10月の調査では、正規雇用看護職員の離職率が20%を超えている病院が21・2%と前年度の2倍になっていました。最前線に立たされ、影響を受けている多くが女性なのです。感染対策と患者の受け入れに多くの労力とコストが投入されていて、医療現場は疲弊が続いています。五輪開催ありきで突き進んできた政府による人災です」

 「2020年3月から2021年2月10日までの1年間に病院以外で亡くなった方を検死したところ、261人が新型コロナウイルス陽性でした。日本の医療体制はもろく、感染者が急増すれば十分な対応ができません。東京は今日から4回目の緊急事態宣言下にありますが、オリパラ開催で感染者がさらに急増すれば、十分な医療が受けられずに亡くなる方がこれまで以上に増えることは間違いありません。これ以上、COVID-19によって大切な命が失われることがあってはなりません」


(上)「これ以上、COVID-19によって大切な命が失われることがあってはならない」と訴えたのは医師の前田佳子さん
(下)看護師の宮子あずささんは「コロナ患者を受け入れるために本来の病棟業務ができなくなっている」と看護師の現状を語った=日本外国特派員協会

【「帰国したら自己隔離を」】

 看護師で著述家の宮子あずささんは看護師たちの心理状態を懸念しているという。

 「看護師たちの多くは、感染予防のために自分の生活を切り詰めて、友達とも全く会わずにリフレッシュができていません。外食したり出歩いていたりする人たちを目にするとにくくなると言うんです。『自分たちがこんなに我慢しているのに、自粛できない人たちのおかげで酷い目に遭っている』と個人を恨む心理状態になっていくのを非常に心配しています」

 都内の小学校で特別支援学級の担任をしている長野みゆきさんは、学校連携観戦プログラムの中止を求めた。

 「子どもたちは昨年から、ずっと感染予防と我慢を続けています。給食を食べながら会話をすることも禁じられています。運動会や遠足など楽しみにしていた行事が全て、縮小・中止になっています。なぜ五輪だけが特別扱いなのでしょうか。まだ間に合います。いまは感染拡大を封じ込めることに全力を注いでください」

 質疑では、NHK記者が「選手や関係者も来日していて、もう止まらないのではないか。今この段になって会見を開いて訴えることの意義は?」と質問した。

 これに対し、青木さんは「五輪が中止されようとされまいと、既に来日している選手や関係者は母国に帰ったら絶対に2週間は自己隔離してください。ウイルスを絶対に母国に広めないでください。そういう覚悟が足りないと考えたことも、記者会見を開いた理由の1つです」と答えた。

 前田さんは「これまで抗議リレーで積み重ねてきた声、五輪開催の弊害を海外にも伝えたいと考えた」と回答。松尾さんは「平時に隠されていた五輪の暴力性がパンデミックで明らかになったので、それは訴えないといけないと考えました。この国は命を大事にしないと思います」と述べた。

(了)

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