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eコマースと高速配送サービスにおけるAmazonの成功は、ほかに類を見ないものだが、このテックジャイアントは、オンラインショッピングの分野において、オンライン販売の急速な原動力となっているソーシャルコマースには、打って出ることができていない。
Amazonは最近、インスパイア(Inspire)と呼ばれる新しいツールをテストしていると報じられている。これは、買い物客のユーザーエンゲージメントを高めるために、商品の写真と動画をTikTok風にフィード投稿するものだ。Amazonは過去にも、2017年にプライム会員を対象にした、ショッパブルなニュースや画像をフィード投稿できるスパーク(Spark)を発表するなど、同様の取り組みを試みている。Amazonは、2年後にスパークを廃止したものの、自社のプラットフォーム上でソーシャルメディアのスターやインフルエンサーを支援する新しいツールを追加した。
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インスピレーションを得る場ではない
より多くのソーシャルメディア的な機能を構築しようとするAmazonのさまざまな試みは、商品のインスピレーションを得るために、インスタグラムやピンタレスト(Pinterest)などのアプリを利用する人が増えていることと相関していた。TikTokが米国で急成長していることを考えると、Amazonはより密接に、この動画共有アプリの魔力の一部を取り込もうとしているのだろう。しかし、eコマースのアナリストたちによると、これまでAmazonのソーシャルコマースへの取り組みは、消費者たちに、何よりもまず商品のアイデアを同社のウェブサイトに求めるよう説得することに苦戦してきた。最新のツールであるインスパイアも、同様の課題に直面することになるだろう。
「TikTokは、我々のクライアントのあいだで見られるように、Amazonへのトラフィックを推進する強力なドライバーになっている」と、Amazonでのブランド成長を支援するアカディア(Acadia)で小売マーケットプレイス戦略責任者を務めるキリ・マスターズ氏は言う。しかし、Amazonは長い間、商品発掘の方法に問題を抱えてきたと、同氏は付け加えた。
インサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)によると、TikTokは今年、全世界で7億5500万人の月間ユーザーを抱えると予想されている。ソーシャルネットワークにおける同社の市場シェアは、今年は20%に達し、2024年には25%近くになると予測されている。
マスターズ氏は、「Amazon.comは、人々がインスピレーションを得たり、新しいトレンドを発見する場所ではない。ピンタレスト、TikTok、インスタグラム、Facebook(フェイスブック)などのソーシャルチャネルは、そのための場所だった。しかし、Amazonはそのすべてを手に入れたがっている。そのため、ライブストリーミング動画や、Amazonポスト、何年も前のAmazonスパークなどの機能をローンチしているのだ」と付け加えた。
消費者の「ショッピング」よりも「買う」ことを重視してきた
これは短編バイラル動画アプリのTikTokを真似ようとするもっともわかりやすい試みだが、Amazonはソーシャルコマースの時代性を捉えようと、ライブストリーミング動画やインフルエンサーなどのメディア体験に力を入れようとしている。Amazonは2019年、Amazonライブ(Amazon Live)を開始した。Amazonライブのねらいは、デモやストレステスト、チュートリアル、試着など、消費者が商品をバーチャルに体験できるよう支援し、購入前に試す機会を提供することだった。
インテリジェンスインサイダー(Intelligence Insider)のリテール及びeコマースの主任アナリスト、アンドリュー・リプスマン氏は、「Amazonがソーシャルコマースや、Amazonライブのような、メディアを利用したショッピング体験で苦戦しているな理由は、おもに、買い物客が、買い物をする(Shop)よりも多くのものを買う(Buy)ためにAmazonに行くように仕向けられているからだ」と述べている。「こうした体験を生み出すことは、これまでAmazonのDNAの一部ではなかったし、消費者がソーシャルメディアプラットフォーム以外でこの種の買い物をしたいと思っていることも明らかではない。この機能が日の目を見るかどうかはわからない。なぜならAmazonは、成功するにはまだまだ時間がかかることを認識しなければならないからだ。」
Amazonがこの分野で競争しようとしているもうひとつの理由は、中国のオンラインショッピングにおけるソーシャルコマースの影響力が高まっているためだとリプスマン氏は指摘する。「Amazonはおそらく、これが欧米市場で同じように流行した場合の、同社に不利益を与える傾向に対する防衛策だと見ているのだろう」。
結局のところ、Amazonがソーシャルネットワークを理解するよりも、ソーシャルネットワークがショッピングを理解する確率の方が高いのだ。
「Amazonは過去20年間、同じように見えてきたし、ライブ動画やスパーク投稿のようなショッピング体験の実験はすべて小規模で、最終的には無関係だった」とマーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)の創設者兼CEOのユオザス・カジウケナス氏は話した。そして、「Amazonはずっと前にうまくいくモデルを見つけており、成長を続けるために自己改革をする必要はないのだ。だから、TikTokやほかのソーシャルネットワークは、Amazonがソーシャルネットワークを理解するよりも、ショッピングを理解する可能性が高いのだ」と付け加えた。
[原文:Amazon attempts to take on TikTok with its latest social commerce feature]
Vidhi Choudhary(翻訳・編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu