「昔は木の板で乗っていたんだ」
かなり昔からサーフィンをしているという人にそんな話を聞いたことがある。昔はサーフボードなんて売っていなかったので、アメリカ人が乗っていたのをまねして長い木の板でサーフィンしたのだ、と。
すごい。ハングリーな感じがかっこいい。僕はもう何年もサーフィンをしているが、はじめから市販のボードに乗ってしまっている。
「僕も木の板で乗ってたんです。」って言いたいのでやってみることにした。
※2006年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
どんな板が向いているのか
まずは実際に乗れそうな板を探すところからはじめよう。いくつか話をきいたことがある。
- 子供の頃は洗濯板で乗ったもんさ
- スノコみたいな板だったな
- そのへんに落ちてた長い板で乗ったよ
それぞれ検証していこう。
初めに見つけたのは洗濯板。だけどこれ、どう見ても小さい。ボディーボードというか、小学生のビート板よりも小さい。サーフィンは板の上に立てなきゃならないので、これじゃ不安だ。
次にスノコ。大きさ的には市販のボディーボードとほぼ同じくらいだろうか。だけどスノコは幅の狭い板をつなぎ合わせてあるため、強度に不安がある。それから浮力も足らなさそうだ(一般的に浮力の大きな板の方が初心者向きといえる)。
長い板を探すことにした。
板、これにしよう
材木屋さんでちょうどよい感じの杉板を見つけた。長さ2メートル、厚さ2センチほどの杉板だ。市販のサーフボードよりもかなり薄いが、これ以上厚い板になるともう容易に持ち運びできないくらいに重くなってしまう。薄いことによる浮力不足は大きさで補うことにする(サーフボードの浮力は厚みと大きさで決まる)。実用性と携帯性のバランスを考えると、このくらいのサイズが適当だと判断し、購入した。
サーフボードって職人さんが手で削っていたりするので、ちょっといいやつを使おうとすると軽く10万円とかしてしまうのだ。そんななか、僕の板は1000円弱で買えた。約10分の1だ。いや違う、100分の1か。え!100分の1。サーフボード買うお金でこの杉板が100枚も買えるのか。これ100枚あったら軽く小屋くらい建てられるぞ。安いな、木って。
今回購入した板はロングボードよりは短く、ショートボードよりは長かった。ある程度浮力があり、取り回しもしやすいこのくらいのサイズがちょうどよいと思う。
それではいよいよ昔の人のサーフィンを体験してみたいと思います。
杉板が一瞬でサーフボードに
板はあくまで板のまま使用する。ただ、海で板が体から離れて他の人に怪我をさせてはいけないので、リーシュコード(板と体とを結ぶコード)だけは取り付けた。
たったこれだけで昔サーファーの完成だ。
せっかくなのでサーフィンの基本動作を説明しよう。
海の上で波を待ち、いい波が来たらボードに腹ばいになって両手で漕ぐ。スピードがついたら立つ。以上。すごくシンプルだ。乗ってからの技に関しては板の長さとか厚さとかが微妙に影響してくるような気がするが、乗るまでの動作には少々の板の違いは関係ないんじゃないか。たとえそれが杉板であってもだ。
もしもこれで本当に波を捕まえることができたら、次は板の裏側にフィンを付けよう。フィンをつけることで今度は曲がることができるようになるのだ。そこまできたら商品化だ。ビジネスの香りがしてきたぞ。
では行ってきます
準備体操とイメージトレーニングを終え、いよいよ海に入る、板を持って。
沖に向かう途中で、海から上がろうとする現代のサーファーに声をかけられた。
「板ですか。」
板です。そんな目で見るなよ。これがうまくいったらこの海にも杉板サーファーが増えるかもしれないんだから。
はたして乗れるのか
ポイントに着いたら板にまたがって波を待つ。ここで初めて杉板ボードに座ってみたのだが、心配していた浮力不足はさほど感じられなかった。比較するならばショートボードの一番短いやつと同じくらいの浮き具合だ。これならいけるかもしれない。
お、さっそく波が来た。初めてのサーフィンにはちょうどいい具合の小波だ。前に向き直って腹ばいになり、パドリングを開始した。
波の速さに自分を合わせるように、力いっぱいパドリングをする。合間に少し、杉のいい香りがした。
だがあえなく沈む
だけどこれがまったくスピードに乗らないのだ。というか漕げば漕ぐほど板の先が潜ってしまう。浮力が足らないわけではないと思う。おそらく板がまっすぐ過ぎるのではないだろうか。
市販のサーフボードは走り出しの時に板の先が潜っていかないように反りがついているのだ。杉板も反ってはいるが、僕の買った板はかまぼこ状態に反っていた。それ、残念ながら今は関係ない反りですから。
あきらめきれません
今回は小さな波だったので走り出しにパワーが足らなかったのかもしれない。浮力が足らないわけではなさそうなので、もしかしたら台風とかのでっかい波でなら勢いで乗っていけるんじゃないか。そんな可能性も見えた体験でした。
昔にもこうやってへんな自信をつけて海に消えた人がいたんじゃないだろうか。時代が時代ならばそれは僕の役割だったろう。とにかく木の板からサーフィンを初めた昔の人はやっぱりすごいなあ、と改めて思ったのでした。