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Amazonは6月8日、開始から2年になるオンラインラグジュアリーストアのコンセプトを欧州全体に広げ、クリストファーケイン(Christopher Kane)やアルチュザラ(Altuzarra)など8つのブランドを取り扱うと発表した。
Amazonは2020年、デザイナーのオスカー・デ・ラ・レンタ氏とともに、エクスペリエンス・ラグジュアリーストア(Luxury Stores)をはじめて開設した。このコンセプトが開始されたとき、同社はラグジュアリーストアを「資格のある米国のプライムメンバー」のみ利用可能にした。ただしそのあとで、eコマースの大手企業である同社は招待専用の機能を廃止し、さらに広い採用を促進した。現在、ラグジュアリーストアには50ブランドが含まれ、衣服以外でも、美容品や、バッグ、既製服から靴、香水まで網羅している。
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専門家によれば、同社は高所得の買い物客を勧誘し、背景で大きな景気後退が進んでいるこの時期に、同社プラットフォームのブランド数を増やすことを期待しているという。しかし、同社がオンラインのラグジュアリーショッピング分野に入り込めるかどうかについては、同社を追いかけているアナリストのあいだでも意見が分かれている。シアトルを拠点とする巨大テック企業である同社は、米国におけるラグジュアリーストアをそのまま欧州で再現したわけではない。同社はその代わりに、米国のラグジュアリーストアで購入できるものと比べて、より少ないブランド数でスタートした。
調査企業のガートナー(Gartner)でデジタルマーケティング担当のディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は次のように述べている。「Amazonのラグジュアリーストアビジネスが実験以上のものだったとは考えられない。このビジネスは、同社の売上全体のうち、ごくごく小さな割合にすぎない。同社は米国においてより多くのブランドを上手にこのビジネスに取り込んだが、大手のラグジュアリーブランドを確保することには成功していない」。
モデルのクリステン・マクメナミーを起用したプロモーション動画
オンラインでのラグジュアリー販売
米国のラグジュアリーストアで販売されているブランドには、クリストファーケイン、ロダルテ(Rodarte)、ジョナサンコーエン(Jonathan Cohen)などがある。Amazonが顧客とデザイナーの両方の関心を集めるために使用した方策のひとつは、独占のカプセルコレクションのプロモーションだ。同社は先週、ジョナサンコーエンとともにカプセルコレクションを開始し、このコレクションは現在ラグジュアリーストアのホームページで特集されている。
一部のファッションブランドは、ラグジュアリーストアによって成功したと語っている。
ラグジュアリーファッションデザイナーのピーター・ダンダス氏は2020年、Amazonで自身のブランドであるダンダスの店舗を開設した。現在ではAmazonのラグジュアリー商品として最上位の売上を誇る。ダンダスの最高マーケティング責任者を務めるアキコ・タカシマ氏は、同ブランドがこれまでに受け取った反応は「力強いもので、しかも毎月増えていった」と語り、サイトでもっとも売れているアイテムはアクセサリーだと述べた。
Amazonでの売上は、ダンダスの1カ月のD2C売上高のうち最高30%を占めると、タカシマ氏は述べている。ダンダスは、自社独自の倉庫を使用してAmazonでの注文に対応していることから、Amazonでの売上をD2C売上に数えていると、タカシマ氏は述べている。
同氏は、インターネットでラグジュアリーを販売するという認識自体が、特にネッタポルテ(Net-a-Porter)のようなプラットフォームが20年以上前に出現したことによって変化したと語っている。
Amazonが解決すべき問題
しかし、より多くのファッションブランドを引き入れるには、Amazonがまだ対処していない多くの課題が混在する。
ジャシンスキー氏は、ラグジュアリーブランドやデザイナーがAmazonへの参加を躊躇している大きな理由は、ユーザーデータの共有に関するAmazonの制約だと付け加えている。
リテールテクノロジー(Retail Technology)のディレクター兼パブリッシャーを務めるミヤ・ナイツ氏は、運営の観点から見て、トランザクションをAmazonに渡すことで、ブランドは顧客の情報を多少把握しにくくなる。「このため、Amazonがこの問題をどのように解決するかは注目すべき点だ」と同氏は述べている。
名誉のためにいっておくと、Amazonはオンラインでのファッションエクスペリエンスを多少改善することに成功したが、それほど大きくではないと、Amazonコンサルタンシーであるポディアン(Podean)の最高経営責任者を務めるマーク・パワー氏は述べている。
Amazonは2020年、偽造品がストアの一覧に記載されるのを防ぐため、偽造犯罪対策チーム(Counterfeit Crimes Unit)を発足した。これは、Amazonのマーケットプレイスで模造品が売られていることに不満を持っていたラグジュアリーブランドをなだめることをおもな目的とした活動だ。同社は昨年、販売アカウントを作成する600万回の試みと、100億点を超える疑わしい商品の出品を阻止したと語っている。
「偽造品や違法の出品者をブロックすることや、ブランドが自社固有のパッケージで注文に応じられるようにすることは有用だ。しかし、シャネルの店舗で3人に絶えず容姿やセンスを褒められながら騒がれるのとは大違いだ」とパワー氏は述べている。
ガートナーのジャシンスキー氏は、「Amazonのブランド名は、消費者に対しては非常に強力だが、ラグジュアリー企業からすると、人々が安い商品や特売品を買い求めに行く場所と一緒にされたくはないだろう」と付け加えている。
米国でのエクスペリエンス開始に関する最大の問題のひとつは、このエクスペリエンスで買い物をするために招待された顧客ベースが広範すぎたことだと、全世界のファッションおよび美容品ブランドがオンラインで成長できるよう支援作業を行っている代理店であるクォンティファイド(Kwontified)のマネージングディレクターを務めるエレイン・クォン氏は述べている。「ラグジュアリーストアエクスペリエンスで買い物をする意思が非常に乏しい、または資金が非常に乏しい人々が数多く招待されてしまった」と同氏は付け加えている。
クォン氏は、状況を悪化させた複合要因は、特定のラグジュアリーブランドの熱心な信奉者である買い物客が「Amazon、私はラグジュアリーストアのエクスペリエンスで買い物をしたい。入れてもらえないだろうか?」と告げる簡単な方法がなかったことだと付け加えている。
欧州に展開する理由
2年が経過した現在、Amazonは欧州のラグジュアリー市場に狙いを定めている。
ガートナーリサーチ(Gartner Research)によれば、ラグジュアリー小売は2020年に困難な時代を体験したあとで、2021年に復活を見せた。全世界における個人用のラグジュアリー商品市場の2021年の評価額は、2020年に比べて30.4%増加し、これはすべてのカテゴリーにわたる小売の平均増加率の19.3%を大きく上回った。重要な点として、この増加は2019年と比較して売上がわずかに増えたことを示しており、ラグジュアリー商品の購入客はわずかな休止のあとで再び商品を買い求めるようになったことを表している。
「欧州市場の多くはオンライン買い物客の浸透率が高く、多くのファッションブランドの本拠地でもある。これらのブランドの多くは自社商品を欧州で製造しており、実験を拡大するために自然な場所だ」とジャシンスキー氏は述べている。
一般的に、ラグジュアリー商品は消費者向けの主要商品よりも利幅が大きいため、これらの売上の増加は、Amazonにとって有利に働く。
ディーエー・デビッドソン・カンパニーズ(D.A. Davidson companies)のマネージングディレクター兼シニアアナリストを務めるトーマス・フォルテ氏は、「当社は、この展開が長期的に成功すると考えている。これはAmazonにとってまだ早期の取り組みであり、自社の収益の大部分をすでにラグジュアリー商品の売上に依存しているほかの企業とは異なり、売上鈍化の影響を大きく受けることはないためだ」と述べている。
[原文:Amazon Briefing: Amazon seeks to revive interest in Luxury Stores with expansion to Europe]
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Amazon