公園で「賭けチェス」や「チェスの有料レッスン」などをしてお金を稼ぐニューヨークのチェス・ハスラーとは?

GIGAZINE
2022年04月06日 06時00分
メモ



アメリカ・ニューヨーク市にあるユニオン・スクエアという公園には野外のチェステーブルが設置されており、「hustler(ハスラー)」と呼ばれるチェスの猛者たちが一般の人々と対戦し、賭け金やレッスン代などを稼いでいます。そんなチェス・ハスラーの人々に、「どのくらい稼いでいるのか?」「本業は持っているのか?」「人生についてのアドバイスは?」といった質問を行った記事が公開されています。

Life Advice from NYC Chess Hustlers – by Anne Kadet
https://annekadet.substack.com/p/life-advice-from-nyc-chess-hustlers?s=r

ユニオン・スクエアのチェステーブルは80年以上にわたって存在しており、そこでは大勢のチェス・ハスラーたちが入れ替わり立ち替わり座ってきたとのこと。ニューヨークに関する出来事を記したニュースレター「CAFÉ ANNE」を運営するアン・カデット氏は読者からの要望に応じて、3人のチェス・ハスラーにインタビューしています。


◆マルセル・アンダーソン氏
アンダーソン氏は1977年にメリーランド州ボルチモアでチェスを習ったそうで、ニューヨークには35年ほど住んでいるとのこと。チェス・ハスラーは副業として本業の合間を縫って行っているそうですが、1日に稼いだ最高額は1700ドル(約20万円)に達し、最低でも125ドル(約1万5000円)ほどを稼いでいると述べています。また、チェス・ハスラーとしての稼ぎは税金として申告していないため、税金分を考慮すると本業よりチェス・ハスラーの方が稼げるだろうとも語っています。

若い頃からチェス・ハスラーとして活動していたアンダーソン氏は、短い時間設定を設けたゲームを得意としているとのことで、中でも1ゲーム3分間という超短時間の形式が好きだそうです。「(若い頃に遊んだ相手は)本当にいいプレイヤーでも、時間制限があれば緊張します。プレッシャーに押しつぶされる人もいます。私はプレッシャーの中で生まれました!」と話すアンダーソン氏ですが、誰もがたくさんのお金を賭けてチェスをしたいわけではなく、強くなるにつれて競争のレベルも上がってしまうことも指摘しています。また、アンダーソン氏はチェスに熱中するあまり、ガールフレンドから「私かチェスのコマかどちらかにして、マルセル」と言われてしまったこともあるなど、人間関係がチェスによって破綻してしまうこともあったと述べています。それでも、アンダーソン氏にとって薬物カウンセラーといった普通の仕事はフラストレーションがたまるものであり、チェスをプレイすることはストレス解消にもなるとのこと。

チェスが好きな理由について尋ねられたアンダーソン氏は、「これは人生のようなものだからです」と述べ、チェスにおけるオープニングミドルゲームエンドゲームがそれぞれ人生の3つのパートに対応すると主張。生まれてから26歳くらいまでは学校に行ったりキャリアを始めたりするオープニングであり、その後20~30年間はキャリアを積んだり結婚したり子どもを育てたりするミドルゲーム、そして50歳以降の人生はエンドゲームに当たるとのことで、アンダーソン氏は「チェスとはそういうものです。人生もそうです」と述べています。

アンダーソン氏はメリーランド州に住んでいた若い頃、薬物を売った罪で逮捕されたことがあるそうですが、「これはゲームが終わったという意味ではありません」とコメント。オープニングだけが存在するのでなく、エンドゲームまで続くチェスに人生をなぞらえています。「私が伝えたいのは、どんな種類の対立が起きたとしても、冷静でいなければならないということです。冷静であれば盤面がよりクリアに見えるようになります。プレイしている相手、議論している相手が誰でどんな人なのか、もっとはっきり見えるようになるのです」と、アンダーソン氏はアドバイスしました。

なお、アンダーソン氏は人々にチェスのレッスンをすることもあるほか、対戦相手をあえて勝たせる場合もあるとのこと。「もっと遊びたいと思わせるには勝たせなければなりませんし、達成感を味わわせなければなりません」という戦略的な理由に加え、相手が頑張ってチェスをプレイする子どもの時は特に勝たせてあげていると述べています。


◆E.G.G.S.氏
本名の頭文字を取って「E.G.G.S.」と名乗っているチェス・ハスラーの男性は、アンダーソン氏のようにコミュニケーションスキルが高くないためレッスンは請け負っておらず、勝負をするかチェスのトレーニングに最適なパズルを出題しているそうです。E.G.G.S.氏はまず最初に無料のパズルを出題し、相手の解答精度や速度を見てレベルを把握した上で、その人に適切な有料のパズルを出題するとのこと。料金は出題するパズルの難易度に応じているそうですが、基本的には5ドル(約600円)ほどだと述べています。

E.G.G.S.氏は、ユニオン・スクエアのチェステーブルではお金を賭けて戦ったり、レッスンをしたり、パズルを出したりといったエンターテインメントを提供する伝統があると主張。この80年にわたる伝統を守る限り、誰でもチェステーブルに座ることができるそうですが、基本的には先着順であるため、E.G.G.S.氏は朝6時30分には家を出るとのこと。ハスラーたちはお客を捕まえやすい角のテーブルを好んだり、個人的にお気に入りの席を持っていたりするそうで、E.G.G.S.氏は真ん中の木のそばにあるテーブルがお気に入りだそうです。

1日に稼げる金額は天気や座ったテーブルによってまちまちだそうですが、カデット氏がインタビューした日は100ドル(約1万2000円)ほどだったとのこと。アンダーソン氏は1日に1000ドル(約12万円)以上稼ぐ日もあるそうですが、E.G.G.S.氏は「それは何年も前の話でしょう。COVID-19の後、外国からの観光客はそれぞれの国に帰りましたから」と述べ、2022年の時点ではそれほど盛況ではないと答えています。

カデット氏が「チェス・ハスラーとしての経験からあなたが与えられる最高の人生のアドバイスは何でしょう?」と尋ねたところ、E.G.G.S.氏は「私は今、立ち往生しています。人生のアドバイスを与えることはできません」と回答。それでもカデット氏が食い下がったところ、「チェスは勉強する人に報います。ですから、人生においてよくあるためには、勉強しなくてはなりません」というアドバイスを答えました。


◆ナサニエル・ウィリアムズ氏
ウィリアムズ氏はネイティブのニューヨーカーであり、11歳の時にチェスを母親から学び、23歳で空軍を除隊した1978年から43年間にわたりユニオン・スクエアでプレイしている人物です。43年間で変わったこととしては、昔よりチェスをプレイする人が増えたことを挙げています。ウィリアムズ氏は、コンピューターでチェスを学んだ8歳~10歳の子どもたちが大人に勝ってしまうこともあると述べています。

ユニオン・スクエアにやってくるチェスプレイヤーの中には、「お金のやり取りがしたい」というギャンブラーだけでなく、単にチェスがやりたい、あるいはチェスをやって自分の弱点や強みを教えてほしいというタイプの人もいます。ウィリアムズ氏はギャンブルをしないタイプだそうで、「5分間のゲームで5ドル」「1ゲームで10ドル(約1200円)」といったゲーム形式か、「20ドル(約2400円)で30分のレッスン」というレッスン形式でお金を取っています。中には毎週やってくる子どもやニューヨーク州立大学の学生もいるそうで、学生割引として「40ドル(約4800円)で1時間」というサービスも提供しているとのこと。また、ウィリアムズ氏自身はタバコを吸わないものの、対戦相手に売るためのタバコも用意しているそうです。

ウィリアムズ氏はかつてニューヨーク市の福祉部門で働いていましたが、1980年代に薬物関連の問題で退職。その後は財務部門で再び職を得てコンピューターやデータ入力の仕事に就き、2014年に引退したとのこと。その間は副業としてチェス・ハスラーをしていましたが、COVID-19が流行した後は家の裏庭に小屋を建て、チェス好きの人々に格安の手料理やビールを振る舞ったり、チェスをさせたりするビジネスも始めたと述べています。

カデット氏が「人生のアドバイスは何ですか?」と尋ねたところ、ウィリアムズ氏は「たとえ無宗教であっても聖書に精通するべきだと皆に言っています」と述べ、聖書をしっかり読めば悪いことの99%はしないで済むと主張。「盗みをしたりうそをついたり、薬物をやったり、他人の持ち物や恋人を欲しがったり。昔は他人の妻と寝ることは死に値する罪であり、石を投げつけられました。だからそういうことはやめなさい!こうしたことをやめれば、悪いことの99%は排除できます。まだ間違いを犯すかもしれないし、悪い言葉を口にしたりするかもしれません。でも、盗みや強盗、うそ……そういうことをプログラムから排除すれば、人として99%よくなれます」と答えました。


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