日本では、京都の桜が過去1200年で最も早く開花を迎えたことが2021年に話題になりました。さらに、日本よりはるかに緯度が高い島国であるイギリスでも、1980年代に比べて1カ月も早く花が咲くようになったとの論文が発表されました。
Plants in the UK flower a month earlier under recent warming | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.2456
UK plants flowering a month earlier due to climate change — ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2022/02/220201201102.htm
Flowers in The UK Are Blooming a Whole Month Earlier Than They Did in The 1980s
https://www.sciencealert.com/flowers-are-blooming-a-whole-month-earlier-in-britain-than-they-did-in-the-early-80s
世界の気温が上昇の一途をたどっていることは観測データから明らかですが、自然環境に対する影響は定量化が困難です。そこで、ケンブリッジ大学地理学部のウルフ・ブントゲン教授らの研究チームは、1753年から2019年までの期間に記録されたイギリスの植物406種の初開花に関するデータ41万9354件を洗い出して分析しました。
その結果、2019年のイギリスにおける植物の平均開花日は4月2日で、1986年以前からほぼ1カ月早くなっていることが分かりました。以下がそのことを示すグラフです。1753~1986年における初開花日を示す棒グラフ(青色)と、1987年以降の棒グラフ(赤色)を比較すると、初開花日の平均の差は26日間もありました。
イギリスの温暖化は、降雨量や雪解け水の量を変えており、これらは開花にとって重要な要素です。そのため、世代交代が比較的早い一年草などの植物は早咲きになることで気候変動に対応しようとしていますが、気温の上昇には追いついていない可能性もあります。研究チームはこの点について、「植物が気候変動に追いつけるほど急速に適応進化して、最適な時期に開花できるようになるかどうかは不明です」と記しました。
研究チームによると、今後も気温の上昇が続けばイギリスの植物の平均開花日が3月にずれ込むことも十分考えられるとのこと。もしそうなれば、早く芽吹きすぎた農作物が凍結や霜害の被害を受けて収穫量が減少したり、花粉アレルギーの季節が延びたりするおそれもあります。
早すぎる開花は人間だけでなく、花粉媒介者となる昆虫や植物を糧にしている動物などにも影響を与えると見られており、絶滅や生物多様性を激減させるリスクのあるこの現象は「Ecological mismatch(生態学的ミスマッチ)」と呼ばれています。
論文の筆頭著者であるブントゲン教授は、この研究結果について「開花の前倒しは生態学的なリスクを伴うため、実に憂慮すべき結果です。植物が早く咲きすぎると、晩霜で全滅してしまうおそれがあります。しかし、それ以上に重大なのは、生態学的ミスマッチです。植物、昆虫、鳥類などの野生生物は、それぞれの発生段階が同期するように共進化してきました。例えば、ある植物が花を咲かせると、そこに特定の種類の昆虫が集まり、それがまた特定の種類の鳥を呼び寄せるといった具合です。しかし、どれか1つの時期が早まってしまうと、この同期がずれてしまうことが懸念されます」と述べて、危機感をにじませました。
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