「ゼレンスキー大統領のメッセージ」がなぜこれほど人々の心をつかんだのかを専門家が分析

GIGAZINE
2022年04月17日 20時00分
動画



ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後の2022年2月25日と26日に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシア軍が迫る首都・キーウからSNSで自撮り動画を公開し、「私はここにいる。武器を捨てることはない」といったメッセージを発信しました。日本を含む多くの国々が、足並みをそろえてウクライナ支援に乗り出す契機の1つとなったこれらの動画の影響力について、ソーシャルメディアの専門家が解説しています。

Why Zelenskyy’s ‘selfie videos’ are helping Ukraine win the PR war against Russia
https://theconversation.com/why-zelenskyys-selfie-videos-are-helping-ukraine-win-the-pr-war-against-russia-178117

ミシガン大学でソーシャルメディア分析や人工知能などを専門に研究しているAnjana Susarla教授は、ウクライナ侵攻直後にゼレンスキー大統領が発信した動画の中でも、特に影響力が大きかった2つの自撮り動画について分析しました。その結果、これらの自撮り動画が見る人の心を揺さぶった要因は、大きく分けて次の3つあるとの結論に至ったとのこと。

◆1:確かなメッセージ
最初の要因は、動画のメッセージが説得力のあるものだったという点です。例えば25日に投稿された動画は、深夜のキーウを背景に、ゼレンスキー大統領が記者発表用のマイクやプロンプターも使わず直に語りかける内容となっています。また、ゼレンスキー大統領の後ろにいるデニス・シュミハリ首相がスマートフォンの画面を示して、あらかじめ用意された動画ではないことを強調する一幕もありました。

ゼレンスキー大統領が自分の公式Instagramアカウントに投稿した動画はこのリンクから、メッセージに和訳を付けた動画は以下から見ることができます。

「私たちはここにいる、独立を守る」 首都からウクライナ大統領が政府幹部と – YouTube
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この動画について、Susarla氏は「現代は、自撮り動画を作ったり、家族でビデオチャットをしたりするのが当たり前の時代となりました。自撮り動画という日常的な風景と、『私たちはここにいる。兵士たちもいる。国民もいる』というメッセージの緊迫感との対比が、ゼレンスキー大統領の訴えの信ぴょう性を際立たせています」と分析しました。

◆2:見る人につながりを感じさせる
2つ目の要因は、ソーシャルメディアを通して人々とつながったという点です。Susarla氏によると、ソーシャルメディアには個人的なつながりを感じさせ、メッセージの可視性を増幅させ、同じ考えを持つ人と共有させることで話題作りをする効果があるとのこと。企業が新製品や新サービスをアピールするためにソーシャルメディアを活用するのも、これが理由です。

例えば、スターバックスは自社のロゴをクールなものだと思わせるイメージ戦略により、若くて影響力が強いインフルエンサーに自社の商品やメッセージを拡散させることに成功しています。


SNSを駆使したゼレンスキー大統領の戦略について、Susarla氏は「ゼレンスキー大統領は、自国民の団結や連帯感を強調したメッセージで、彼の動画を見た多く人々との間に接点を生み出しました。そして、ソーシャルメディアを通じた説得力のあるストレートなメッセージで海外の多様な視聴者に訴えかけ、戦争を人々にとっての自分事にしたのです」と指摘しました。

◆3:メッセージの即時性
最後の要因は、リアルタイムで進行中だということを意識させるものだったということです。ゼレンスキー大統領は、ロシア軍によるキーウへの攻撃が本格化した26日にも自撮り動画を投稿し、改めて抵抗する意志を示しました。

「われわれは武器を置いたりしない」ウクライナ大統領が26日、新たな動画公開 – YouTube
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またゼレンスキー大統領は、国外への避難を支援すると申し出たアメリカ政府の関係者に対し、「私に必要なのは弾薬であって乗り物ではありません」と断ったとも伝えられています。

こうしたメッセージについて、Susarla氏は「自国にミサイルや爆弾が降り注ぐ中、国民のために援助を求めるゼレンスキー大統領の訴えは、これ以上ないほどの緊迫感を持っていました。そのため、このメッセージに触れた多くの人が、ロシアの侵略を阻止するために国際的な圧力を高めるというゼレンスキー大統領の大義に即座に賛同するようになったのです」と指摘しました。

ソーシャルメディアの影響力に関する2016年の研究によると、緊急性が高いことが感じられるメッセージは感情的な反応を促しやすく、その情報を発信したり共有したりする人の数を増やす効果があるとのこと。こうした連鎖がトレンドとなり、ユーザー間の議論を活性化させるため、メッセージはさらに注目を集めるようになります。

Susarla氏はこれらの分析結果をまとめて、「ゼレンスキー大統領は、ソーシャルメディアのルールを直感的に理解しているように見えますが、これは彼がエンターテイナーとしてのキャリアを持っていることを考えると納得がいきます。ゼレンスキー大統領の動画は4分から7分と短く、要点がまとまっていて親しみやすく、個人的な感じがします。また、ウクライナ版『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ』に出演したり、映画『パディントン』の声優を担当したりといった前歴が話題として急浮上するといった出来事も、有事下における好感度や信頼性を強化するのに一役買っています。その結果、ゼレンスキー大統領のメッセージは世論を喚起する上で極めて強力なものとなっているのです」と述べました。

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