BLOGOS編集部
「国のために戦った人に失礼」櫻井翔に批判が集まる
日本テレビ系列で放送されているニュース番組「news zero」で、タレントの櫻井翔氏が、魚雷を落とす雷撃機の搭乗員として真珠湾攻撃に参加した吉岡政光氏に対するインタビューを行った。(*1)
その中で櫻井氏が「戦時中というのはもちろんですけど アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」という質問をしたことを受け、ネットで炎上している。
櫻井氏を批判している人たちは、「国のために戦った人に失礼だ」「軍の命令でやったんだ」「戦争を知らない」とか「平和ボケした質問」などと批判している。
さて、この櫻井氏の質問に対して吉岡氏はこのように答えている。
「私は『航空母艦と戦艦を沈めてこい』という命令を受けているんですね。『人を殺してこい』ってことは聞いていないです。したがって命令通りの仕事をしたんだ。」
「もちろん人が乗っていることはよく分かっています。しかしその環境というと私も同じ条件です。ですけどもそれとは切り離すと戦争はしちゃいけないということを一番身をもって知っているのは私たちだと思っています」
他人を殺すことを抽象化された兵士たち
この一連の流れで重要なのは、あくまで命令としては「敵艦船を沈めてこい」であり、人を殺せとは言われていなかった点だ。実態としては当然相手の艦船には人が乗っているが、それは切り離して考えるしかなくなっていたという状況である。
つまり、兵士たちは「お国のために戦う」という御旗の下で、戦闘行為で他人を殺すことを認識することを許されず、「お国のための戦果」という形に国の都合に合わせて抽象化して考えるしかなくなってしまっているのである。
吉岡氏はそうした「お国のために戦う」という御旗の現実を提示した。その言葉は櫻井氏の「アメリカ兵を・・・」の質問が的確だったからこそ引き出された戦争の現実であると考えられる。
そしてそれはアメリカ側も同じである。
アメリカの右派は、日本に対する原爆投下を「アメリカが広島と長崎に原爆を投下することで戦争終結を早めた。結果として我々は多くの人の命を救ったのだ」という言い方で誇ることがある。
エノラ・ゲイに乗り込んで原爆を投下したアメリカ兵にとっては、これもまた「爆弾を投下してこい」と言われたのであり「人を殺せ」とは言われなかったであろう。
兵士たちは命令通りに原爆を投下した。そしてアメリカの勝利で戦争は終わった。だが、戦争を終わらせた爆弾によって、広島と長崎で育まれていた生活は一瞬にして崩壊した。多くの人が死に、生き延びた多くの人も後遺症や、愛する人を亡くしたことで苦しむことになった。
そして、今でもたくさんの人たちの死や苦しみというものが「戦争を早期に終結させた」というアメリカの華々しい戦果として、抽象化されて受け入れられているのである。
失礼ではなく、効果的だった櫻井氏の質問
吉岡氏は、東京新聞の取材も受けている。(*2)
その中で「他の人に言われたんですが」という前置きをして「「あんたは軍艦を沈めて、たくさんの人が死んだことをどう思いますか」って言われたんですけども」という話をしている。
そしてここでも吉岡氏は「人を殺せって言われた命令は1つもないです。軍艦をやるか軍施設をやるか2つしかない」と、戦果の形で命令されたということを主張している。
この「他の人」が櫻井氏かどうかは分からないが、別の媒体のインタビューでも櫻井氏に聞かれたのと同様の話をしているということは、この質問が吉岡氏にとっては、自分の考え方を他者に伝えるために適切な質問であったという事実を示していると言っていいだろう。
櫻井氏を批判する人たちは「私は日本を守るために戦ってくれたおじいちゃんを尊重している。それに比べて櫻井氏は失礼だ」と思っているのだろう。しかし、吉岡氏が自ら「櫻井氏は失礼だ」と言ったならともかく、他人が失礼か否かを決めることではないはずだ。
戦争経験者の声を聞け
また、中には「櫻井氏がアメリカ兵を殺した責任を吉岡氏に押しつけている」と考えている人もいるようだ。しかし、戦争という大きなうねりの責任が国や軍上層部にあるのは当然として、その一方で末端の兵士たちに責任を問うても意味がない。
仮に末端の兵士たちに責任があるとすれば、戦争という状況に国を進めてしまったという、日本人全体の責任と同じものであり、その責任は今後も戦争を起こさせないことでとるしかない。
実際、東京新聞の取材には、「戦争というのは無残なもん。人殺しなんです。人殺しの最大のものは、一番深い罪になる。それをみんな考えてくれれば戦争もできないはず」と、戦争は悪いことだとキッパリと断言して締められている。
櫻井氏によるインタビューで重要なことは、実際に戦争に参加することになった吉岡氏が、戦争をどのように認識しているかだ。戦争経験者がその天寿を全うして話を聞くことができなくなる前に、1人でも多くの人から話を聞くことで、私たちは戦争の現実を学ぶことができる。
その視点を欠いたまま、インタビュアーである櫻井氏を叩いても、我々は何も学ぶことはできないのである。
*1:真珠湾攻撃から80年・・・103歳元搭乗員語る(news zero)https://www.ntv.co.jp/zero/do-suru/articles/aygnyttho12yg0h8.html
*2:【真珠湾の記憶】吉岡政光さんインタビュー【日米開戦80年】(東京新聞チャンネル YouTube)https://www.youtube.com/watch?v=NSOb6qNNoRo