自民党の高市早苗政調会長が11月24日に登壇した講演会では、衆院選の公約に盛り込んだ政治課題を中心に、新型コロナウイルスや災害への対策、経済安全保障などへの思いを語った。
出席者との質疑応答で、話題が得意の外交・安全保障に及ぶと、「憲法9条に自衛隊をしっかり明記する」と信念を改めて強調。主に対中国を念頭にしながら防衛政策を強化すべきとの考えを示した。
講演会は内外ニュースが主催し、高市氏は「これからの政治課題」と題して登壇した。詳細を伝える。
障害者就労もコロナで打撃 新たな仕事を創出する必要性を強調
立憲民主党で代表選挙が行われています。私自身初めて自民党総裁選を経験して、代表選や総裁選といったものが行われるのは政党にとってええことやと感じています。政策ごとに議論を戦わせて、基本理念はそんなに変わらないのですが、個別にこだわっている政策があります。そういった意見をぶつけ合えたことは、自民党にとって益となると感じています。
先週金曜日(11月19日)に閣議決定した新しい経済対策ですが、小さな話と思われるかもしれません。しかし、まず政府のほうで原案を作り、自民党政調会の各部会で議論し、政調会長、政調会長代行、政調会長代理、政調副会長が集まって、政調審議会で丁寧に議論をして、最後は大物が集まる総務会で議論をいただき党議決定をする。公明党も同じようなプロセスで党議決定をして、経済対策もできあがっていくのです。
私が総裁選の時に一生懸命訴えた内容も入れていただいているのです。例えば、就労系障害福祉サービス事業者への支援を実施すると明記されています。障害をお持ちの方が一生懸命働いていらっしゃる場所です。奈良県にもすごく頑張っている事業所があり、精神疾患系の障害をお持ちの方々が働いていますが、主に扱っているのは飛行機やホテルについているスリッパ。必ずしも使い捨てではなく、事業所できれいに洗って、袋詰めをして納める。飛行機についているイヤホンも消毒して戻す。背もたれのシートに使っている布もクリーニングして戻すというようなことで、そこは結構賃金がいいのです。
障害者の若い方々が一生懸命働いて、その給料で家族が生活しているというぐらいです。経営者の理念でしょうが、しっかりと給料を貰ってもらおうと。福祉を受けることに頼るより、障害の種類は違いますけれども、能力を生かして稼いでもらい、納税者になってもらう。そういう理念の経営者です。そういったところに仕事を出して、押し上げていただきたいと思います。
コロナ禍で交通機関が大変打撃を受けました。鉄道もそうで、特に航空会社は大変深刻な状況です。そうした事業所で扱っている仕事も減ってしまうということで、経営者の方は新たな仕事を取りに走り回っている状況です。各地の障害福祉のサービス事業所は経営がかなり困難だと思われます。経済対策にはこうした点も入れていただきました。
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もう1点。総裁選のテレビ討論で私が強調していたことですが、フリーランスで働く方々についてろくな契約も結ばれていません。書面でもメールでも、どういう仕事をしてどういう条件で働き、どういう賃金をいただけるか、契約なしで働いていらっしゃるフリーランスの方が多い。コロナ禍で大変なダメージを受け、普段から大変低い賃金で頑張っている。私は、フリーランスと取引をする契約を明確化するということで、新たな法制度を整備する必要性を討論会で訴えました。すると、経済対策の中にフリーランスが安心して働ける環境を整備するため、契約の明確化などを検討しフリーランス保護法制を含む措置を講じると、入れていただきました。
予算案は使われ方の実情が分かる“真水”に注目を
政治家としてはささやかな喜びですが、総裁選で4人の候補者がおっしゃったことが、経済対策の中に盛り込まれています。しっかり分厚いものができたことは、総裁選の一番のメリットだと思っています。立憲民主党の代表選でも、おそらく同じような現象が起きるだろうと、他党ではありますが楽しみに拝見をしていきたいです。
経済対策について、非常に大きな金額だけが出ている場合が多く、財政支出で55.7兆円規模、事業規模で見ると78.9兆円程度いうことが速報で流れました。ただ、経済対策の議論に入る前、10月1日に私が政調会長に就任して、すぐに部会長人事を行いました。部会長人事は政調会の人事の中で最も大切で、各役所に対応した法律案、予算案を含めて最初に審査をします。党議決定もできないということで、部会長人事は非常に適材適所、経験や専門分野を見ながらこだわって行いました。
部会長人事は総務会で了承されなければなりませんので、火曜日の総務会で了承を受けた翌日の11月10日、就任されたばかりの部会長の方々に集まっていただき、政調会長からのお願いをしました。部会長は4期、5期と務めておられる方々ばかりですから、あえて申し上げるべきことでもなかったのですが、「よく役所が使う『財政支出が何兆円』という数字を見るのではなくて、できたら“真水”をしっかり見てほしい」と。
財政支出としては55.7兆円という数字が出ていますが、ご承知の通り、財政支出は国と地方の歳出に財政投融資を足し合わせたもので、決して国費の真水ではございません。部会長にしっかり見ていただきたいのは、補正、さらに来年度の当初予算に向けて、この真水がいくらかという点。つまり一般会計という金額の確認作業をしてほしいということを申し上げました。
なぜ私がそういうことにこだわったか。令和2年度、3回の補正をやりました。1回目の4月対策では財政支出が48.4兆円でしたが、いわゆる真水で見てみると25.7兆円。5月対策は財政支出が72.5兆円と非常に大きく見えますが、真水は31.9兆円でした。その後、菅総理が就任をされて、12月の対策がありました。財政支出で見ると40兆円でしたが、12月の3次補正も、歳出は19.2兆円でした。必要な対策を実際に国費で見ているのです。何を国費でやるかはよく検討しなければいけませんが、こういった考え方は全ての部会長に共有していただきたいなと考えていました。
共同通信社
コロナで痛んだ日本経済の立て直しが急務
今、特に何が大事かと言ったら、コロナで痛んだ日本経済をしっかりと立て直すことだと思います。次の波が来る可能性はかなり高いでしょうが、医療資源が不足してバタバタしない体制を作っておくこと。今、非常に感染者数が少ない状況で経済活動を少し再開していこうという時に、肝心の事業主体、事業をする企業がつぶれていては、V字回復は望めなくなってしまいます。事業主体を守ることで雇用も守られるわけです。雇用が守られて、そこそこの賃金をいただけることになったら、消費マインドも当然回復します。
消費マインドが回復したら、事業者にもメリットが出てくる。経済が少しずつ良くなってくる。こういう形をまずは補正で急いでやるべき最優先だと考えました。最悪の事態を見据えたコロナ対策、ワクチンも治療薬も国産体制で、しっかりと必要量を確保できる形を作っていくことです。
命を守る対策も 社会福祉施設や病院の立地を疑問視
2つ目に、命を守る投資を怠ってはいけません。冬は豪雪の不安があり、火山噴火などによる軽石の問題も出てきました。それ以上にやはり災害が発生した時、災害復旧にかかる費用は、明らかに事前の防災対策より大きい金額になります。何よりも大事な人の命が、財産が失われてしまう。災害が起きるたびに事業所も無茶苦茶になって、ものづくりをしている工場も泥だらけ、機械も全部駄目になって、泥を掻き出している姿を見るたびに胸が痛みます。
明らかに土砂災害の危険が指摘されているところに、社会福祉施設や病院など避難が困難な方々が使っている施設が建っています。財産権の問題もありますし、土地を取得されている場合にその利用方法は自由ですが、明らかにハザードマップで危険とされるところに、できるだけ新規でそうした施設ができないようにしていただきたいと、総務大臣時代から市町村長にお願いしてきました。土砂災害対策も危ない箇所は洗い出しているわけですから、そこの工事に全力を挙げていただきたいと。命を守ることは何より大事ですから、今回の補正でもしっかりとつけましたし、十分な対策が進めていけるのではないでしょうか。
平成29年九州北部豪雨で氾濫した川(2020年9月21日、大分県日田市で)=BLOGOS編集部