連載再開で盛り上がる冨樫義博先生のもうひとつの聖地「山形県新庄市」

ロケットニュース24

『HUNTER×HUNTER』連載再開、およそ4年ぶりの新刊リリース、『冨樫義博展 -PUZZLE-』開催など、稀代の漫画家・冨樫義博先生の周辺がかつてない盛り上がりを見せている。

森アーツセンターギャラリーで行われている同展示会には350点を超える原画や資料が展示され、チケットの抽選販売が行われた日程も。最寄り駅の日比谷線・六本木駅コンコースでは柱巻き広告が注目を集め、写真を撮る人が絶えない。

もし筆者が念能力者なら六本木周辺にうずまく熱気を目視できるほどだろうが、東北の地方都市にひっそりと “もうひとつの聖地” があるのをご存じだろうか。


・冨樫先生の出身地、山形県新庄市

冨樫先生は山形県新庄市出身。

『名探偵コナン』の青山剛昌先生の出身地である鳥取県北栄町や、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』舞台のJR 亀有駅周辺など、漫画を活かした街づくりの実践地は数あるが、新庄市はそれほど有名な観光地とは言えないだろう。しかし、実はゆかりのスポットが複数ある。

陸の玄関口となるJR新庄駅。ここには「かむてん神社」という小さな社(やしろ)がある。


「かむてん」とは、冨樫先生がデザインした新庄市の公式イメージキャラクター。見てのとおり天狗をモチーフとしており、新庄市の北東にある神室山の天狗伝説がもとになっている。

神社ではデジタルおみくじが引けるほか、商売繁盛の「COME店(かむてん)」や合格祈願の「COME点(かむてん)」のご利益があるらしい。

さらに、駅に隣接する「もがみ体験館」にはミニ漫画ミュージアムがある。


羽海野チカ先生など、新庄市にゆかりのある数人の漫画家とともに紹介されている冨樫先生。ゴンやキルアが描かれた日本的な祭りのイラストは不思議な世界観! 冨樫先生も小さい頃から地元の「新庄まつり」に親しんできたそう。

写真撮影は不可なのでお見せできないのだが、ここで必見なのが『HUNTER×HUNTER』の構想段階のキャラクターメモ。

鉛筆でさらさらっと描かれた「ラクガキ」とも呼べそうな1枚は、すでにしっかり『HUNTER×HUNTER』の原型となっており鳥肌ものだ。「あの壮大な世界が、本当にひとりの人間の頭の中から生まれたんだ」と実感できて身震いする。

東京で開催中の『冨樫義博展 -PUZZLE-』にも膨大な数の原画が展示されているが、人混みの中で白線を踏まないよう気を遣って見る原画よりも、誰もいないミニミュージアムで1枚の鉛筆画に向き合う時間は、比較できないほど濃密だ。

この展示コーナー、かつては「新庄・最上漫画ミュージアム」として大々的に展開していたらしいのだが、だいぶ縮小されてしまったようなのが少し残念。現在は多くが鉄道関係の展示になっている。

ところで、展示の中には「実家は万場町の冨樫紙店」の一文がある。地元では “紙屋の息子” ポジションだそう。


・実家である冨樫紙店

商店街として栄えた万場町は駅からそう遠くない。健脚に自信があるなら徒歩でも行けるし、車には駐車場が用意されている。

その名のとおり紙や事務用品を扱う商店だが、近隣の人に生活用品を販売する雑貨屋の側面があり、また遠方から訪れる人には冨樫作品グッズを扱うファンショップの側面もある。コロナ以前には遠く海外からもファンが訪れたという。

店頭に並べられたささやかなキャラクターグッズは、アニメ版『幽☆遊☆白書』にまつわるものが多い。昭和の時代から時を止めたかのようなレトロな店内とあいまって、懐かしさを感じるものばかりだ。ファンが寄せ書きをするための冊子も用意されていた。

さらに、ここでしか買えない冨樫先生デザインのオリジナルノート(全4種)が! 丁寧で繊細な筆致には、ひとめで「冨樫先生だ!」とわかる魅力がある。

個人的に筆者は、冨樫先生の「線」がたまらなく好きだ。よどみがなく滑らかで、1本の線から質感まで伝わってくる気がする。東京の原画展で見た、ほとんどホワイト(修正)がない原稿には度肝を抜かれた。つけペンとインクを買い、見よう見まねで冨樫先生の絵を描き写していた少女時代は筆者の原点だ。

商品を入れてくれたショッパーズバッグ(紙袋)も冨樫先生のデザインだそう。

冨樫作品ファンとして訪れたはずが、いつのまにか「お母さんのファン」になってしまう、陽気で温かいお母様が歓迎してくれる。大学時代の冨樫先生が「自分よりも(漫画が)上手い」と評した弟さんが在店していることも。世界の巨匠を「よしひろ、よしひろ」と呼ぶ存在がいるのは、本当に不思議な気がする。


・静かなる聖地

もう少しPRしたら、新庄市は漫画の聖地として全国から人が集まる地になりそうなポテンシャルを秘めていると思う。しかし現状、地元自治体や観光機関の姿勢はそこまで積極的には感じられない。

少々もったいない気がするが、それゆえに転売屋が大挙して訪れるようなこともなく、万場町にも冨樫紙店にもゆったりした時間が流れているのかもしれない。

なお冨樫紙店は個人商店なので必ずしも毎日開店しているとは限らないし、一度に多くの人を迎え入れられるような施設でもない。公的なショップやミュージアムとは異なるので、その点に注意しつつ礼節を保って訪問してみてほしい。


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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