「光や温度が制御された人工施設内でミツバチを飼育する実験」にはどんな意義があるのか?

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野生のミツバチの個体数が減少していることが問題視されている中、デザイン・科学・テクノロジーの領域を組み合わせた研究を行っているMITメディアラボのプロジェクトチーム「Mediated Matter group」は、ミツバチを人工的な施設の中で飼育する「Synthetic Apiary(合成養蜂場)」という実験を行っています。人工施設でミツバチを飼育する実験にどのような意義があるのかについて、MITメディアラボのネリ・オックスマン准教授が説明しています。

Neri Oxman’s Synthetic Apiary II studies honey bees to gather design insights
https://www.dezeen.com/2021/11/19/neri-oxman-synthetic-apiary-two-honey-bees/

オックスマン氏は、地球上では100万種の生物が絶滅の危機に瀕しており、中でも世界中のミツバチの大幅な減少は最も不安なものだと指摘。ミツバチは人間文化と深く関わっている昆虫であり、世界のさまざまな地域でハチミツが食べられているだけでなく、主要な作物のうち70%以上がミツバチを経由して受粉を行っているとのこと。

Mediated Matter groupの研究チームが2016年にスタートした「Synthetic Apiary I」は、ミツバチが1年中活動できるように管理された空間を作り出すプロジェクトです。人工的に管理された光・湿度・温度は常に春の状態を再現しており、ミツバチには餌となる合成花粉と砂糖水が与えられます。Synthetic Apiary Iがどのような施設になっているのかは、以下のムービーを見るとわかります。

Neri Oxman designs synthetic apiary – YouTube
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白い無機質な部屋の中は気温が摂氏21度、相対湿度が50%に保たれており、ミツバチの生存に適した環境が再現されています。


ミツバチには合成花粉と砂糖水が与えられており、花がない環境でも生存・繁殖することが可能です。


研究者らは防護服を着て部屋の中に入り、ミツバチの世話や健康状態の評価、サンプルの採取などを行います。


人工的に管理された状況下で飼育することで、ミツバチの行動ダイナミクスをさまざまなスケールで縦断的に研究することが可能とのこと。


すでに、Synthetic Apiary Iの中で飼育された女王バチが周囲の環境に生物学的サイクルを適応させ、産卵を誘発することにも成功しているそうです。これはミツバチの行動サイクル全体を人工的にシフトできることを実証するものであり、人工的な環境で持続可能なミツバチの飼育が可能であることを示唆しているとオックスマン氏は主張しています。


また、研究チームはSynthetic Apiary Iに続き、ミツバチのコロニーが巣を作る能力を研究するための施設「Synthetic Apiary II」を構築しています。Synthetic Apiary IIでは、周囲の環境をさまざまに変化させることにより、「ミツバチのコロニーがどのように周囲の環境の変化に応答するのか?」を研究できるとのこと。Synthetic Apiary IIにはさまざまな環境が用意されており、3Dプリンター技術で化学的なフェロモンを埋め込んだ環境や、磁場の強度や向きをさまざまに変化させた環境、時間の経過と共に形状が変わる環境などが含まれているそうです。

合成バイオマーカーで強度を増した蜜蝋(みつろう)を用意した環境では、ミツバチは多くのエネルギーを使用して自分で蜜蝋を生成する代わりに、用意された蜜蝋を巣の建築資材として組み込み始めたとのこと。「これは、巣の構築が単に特定の形態を作るために事前に定義された行動のセットではなく、環境刺激からの摂動に対する複雑な適応を含む、応答的でダイナミックなプロセスであることを示唆しています」と、オックスマン氏は述べています。

つまり、周辺の環境が一種の入力情報となり、ミツバチのコロニーは行動を適応させ、ミツバチの巣という出力情報が変化するというプロセスになっているというわけです。研究チームはSynthetic Apiary IIで作られた巣の構造をX線CTスキャンを通じて分析し、ミツバチと周辺環境の間にある目に見えないやりとりを研究するとのこと。ミツバチの巣の形成や集団行動を分析することで、人間の行動に適応できる新たな洞察や新たな生体適合材料の使用方法、効率的な構造形状などが発見できるかもしれないとしています。

「このようにして、私たちは建築環境をさらに相乗的な形態に変化させて、素材や形状を通じて自然環境とよりシームレスに統合し、人間とそれ以外の生物の両方に有益な生息地を提供することができます」「産業プロセスや人間中心のデザインを実践することにより、本質的な行動や生態系を変えてしまった花粉媒介者達を保護するだけでなく、再び人間の介入なしに繁栄できるようにすることは、私たち相互の生存にとって不可欠なことです」と、オックスマン氏は述べました。


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