アメリカで開催されたCES 2024のレポートです!
今年のソニーブースでは「Powering Creativity with Technology」をテーマに、クリエイターの創作を支援する新しいコンテンツ制作手法や、バーチャル空間を活用して最先端の体験を届けるファンエンゲージメントなど、クリエイターの創造力を支え、エンタテインメントを生み出すための技術が公開されていたんですよ。
その中でも注目を浴びていた展示の一つが、クルマの移動空間をエンタテインメント空間へ進化させるうえで必要となる最新のモビリティセンシング技術。たとえば、ドライバーがハンドルを握っていなくても、道の先を見ていなくても問題ナシ。安心&安全なドライブとなれば、快適な車内でエンタメを楽しむなど自由に過ごしながら目的地まで一直線。
そんな自動運転の時代をめざすために、どんな技術が必要となるのか。「Experience Mobility Sensing Beyond the Human Eye(人間の眼を超えるモビリティの眼を体験)」コーナーで展示されていた、車載用センサーたちをご紹介します。
ソニーのイメージセンサーはさまざまな領域で活躍中
ところでソニーグループというと普段僕らは家電製品や映画、音楽などのニュースに目を奪われますが、スマートフォンカメラ用のイメージセンサーやXR/EVF※に使われるマイクロディスプレイパネルなど、さまざまな半導体も作っています。そしてこれらを開発しているのがソニーセミコンダクタソリューションズ(以下SSS)です。
※ XR…仮想世界と現実世界を融合する映像技術の総称、EVF…Electronic View Finderの略。電子ビューファインダー
中でも「電子の眼」と呼ばれるイメージセンサーでは、彼らの研究開発力はグローバルでトップクラス。スマートフォンやデジタルカメラなど生活に身近なプロダクトから、工場における産業機器まであらゆるデバイスに搭載されているんです。
そしてこの電子の眼は、一部の性能では人間の眼を超えるまでに進化しています。すでにADAS(先進運転支援システム)に用いられるなどクルマの眼として活躍していますが、これから来たる自動運転時代のモビリティでもフル活用されていくってご存知ですか?
クルマの根幹をなすパーツといえばボディ、モーター/エンジン、タイヤですが、人の眼に代わってモビリティの安心・安全を支える存在として車載用イメージセンサーは今やなくてはならない存在。
ソニーは一眼レフやスマートフォンカメラ分野で培ったセンサー技術を車載分野にも応用し、クルマの周囲360°を把握し安全性を高める「Safety Cocoon」というコンセプトのもと、モビリティセンシング技術の進化で安全・安心な移動空間をめざし、その先にある未来のエンタテインメント空間の創造に貢献していこうと考えているのです。
クルマの周囲360°を正しく認識するイメージセンサーたち
車載用のイメージセンサーはクルマのさまざまな位置に搭載されています。
人間の眼に代わり前方向を認識するカメラから、眼が届きにくい側面や後ろを見張るカメラ。近い場所にいる他の車両や、遠くにある道路標識に書かれている文字もすかさず検出できるから、クルマ側にいち早く正確な情報を伝えることができるんですね。
短距離から長距離までを高速かつ高精度に検知し続ける距離センサー
車載用イメージセンサーだけでは検知しにくい車外環境や物体に対して活躍するのが、前方の物体との距離をリアルタイムに把握するLiDAR用のSPAD※距離センサー。
※SPAD(Single Photon Avalanche Diode)とは、入射した1つの光子(フォトン)から、電子を増幅させる画素構造で、弱い光でも検出できることが特長
「LiDARってスマートフォンにも搭載されている距離センサーだよね」という方、ほとんど正解です。ほとんど、と記した理由は、車載用のセンサーはスマートフォンよりもさらに遠くを見通せるから。
特に、SSSのSPAD距離センサーは、独自の積層型構造を持つもので従来製品よりも長距離かつ精度の高い測距を可能にします。これにより、遠方にある車両や歩行者などの位置や形状を検知・認識し、安心・安全な運転につなげることができるんです。
人の眼では対応しきれない明暗差を察知
明暗差が大きいシーンでも鮮明に撮像できるHDR(ハイダイナミックレンジ)技術もクルマには欠かせません。たとえばトンネルから出るときに、トンネル内外の明るさの違いから前が見えなくなることがありますが、人の眼では把握できなくてもHDR技術があれば道路の先の状況を察知することが可能です。
また、LEDが用いられている信号機や標識を撮像する際にチラつきが発生してしまうことがありますが、そのチラつきを抑え、高品質な情報を取得できるのがLEDフリッカー抑制技術(LFM)。長時間露光しても白飛びしない技術を用いることで、周期的に点滅しているLED表示板も確実にとらえることができるんです。 独自の画素構造と露光方法により、HDRとLFMを高い次元で両立できるのも、SSSの車載用イメージセンサーの強みと言えます。
ドライバーと同乗者の状況をモニタリング
車外に向けた眼だけではありません。インキャビンセンシングのように、車内を見る眼もあります。ドライバーの頭部、眼、関節の動きから脇見、居眠り、スマホチラ見などの姿勢を察知して、「運転に集中しないと危ないよ」と教えてくれます。
また幼児が座るようなチャイルドシートなどの物体の存在も認識してくれるので、もし何かあったときのエアバッグの作動にも対応してくれるんですね。
センサー技術でモビリティの安全性を高め、移動空間をもっと自由に、快適にできる世界に
さまざまな機能・性能を実現しているSSSの車載用イメージセンサーは、どのような思想で研究・開発されているのでしょうか。車載事業部 八木直志さんにお話を聞きました。
──ソニーのイメージセンサーといえばスマホ用やデジカメ用が有名ですが、車載用イメージセンサーはそれらのセンサーとは何が違いますか?
八木:第一に耐久性や安全に対する信頼性ですね。車載用イメージセンサーは10年以上、シビアな環境でエラーなく動き続ける必要があるので、その耐久性が必要です。そして、もしエラーが発生した場合、それを検知し通知するような仕組みも車載用イメージセンサーには求められます。
求められるHDRの性能も異なります。デジカメやスマホなら露光時間の異なる複数の画像を組み合わせてHDR画像を生成しますが、クルマは動きながらの撮影となるため何枚もの画像を組み合わせてHDR画像をつくると、いくつもの像が重なり正しい物体の位置をとらえることができなくなってしまいます。そのため1枚の画像でHDRを実現するダイナミックレンジ性能が重視されます。
──LiDARやインキャビンもスマホ用などのセンサーとは違うものですか?
八木:その2つのセンサーは、対象との距離を取得できる特徴があります。
車載LiDAR用のSPAD距離センサーは、画像ではなく物体との距離情報を取得できるのが強み。運転するときに、先行車・対向車、歩行者・障害物などの有無やそれらとの距離を確認できる情報はドライバーが運転するうえでとても役に立ちます。
インキャビンセンシングの場合は、1つのセンサーから取得されるモノクロのイメージと距離情報を組み合わせて車内の情報をモニタリングします。3次元データから高精度にドライバーの姿勢などを把握して、安全に役立てるのが目的ですね。
──SSSさんは、これらのセンサーたちでどんなモビリティの未来を実現したいのでしょう?
八木:人間の眼をはるかに超えたセンサー技術で、モビリティの安全性を高め続け、車内空間での過ごし方がもっと自由に、もっと快適になるような世界をめざしています。
安心・安全が守られたモビリティは、SSSが自動車メーカーやTier1(メーカーに直接部品を納品する1次サプライヤー)などさまざまなパートナーと協力して創り上げていきます。私たちはその土台となる信頼性の高いデバイスを作り、提案していきたいです。
移動空間を新たな感動が生まれるエンタテインメント空間へ
今年のCES 2024会場には、さまざまな家電メーカーが自動車を使った展示をしていました。レベル5の自動運転時代を目前として、家電メーカーが培ってきたエレクトロニクスの技術が未来のモビリティの世界を創ると見越しているのでしょう。
SSSのイメージセンサーも、安心・安全に裏付けされた自動運転時代を作り上げる上で欠かせない技術。今までは運転に専念しなければならなかったドライバーも、助手席やリアシートに座る友達、パートナーや家族といっしょにさまざまなエンタテインメントを楽しみ、創造性に満ちた時間を過ごせるようになる。クルマを単なる移動手段ではなく、新たなユーザー体験や感動をもたらす空間につなげるコア・テクノロジーです。
SSSが創る電子の眼は、新しい時代を見通していく。今後の活躍にも目が離せない半導体企業の1つと言えますね。
半導体の未来を語るメディア「LightsWill」では、CES2024に出展した数ある企業の中でも、半導体企業にフォーカスしてイベントの様子をレポートしています。
世界の半導体業界のリーダーたちは、CESで何を発表したのか。半導体企業の動向を網羅できる内容にまとめています。
Source: ソニーセミコンダクタソリューションズグループ