デジタルネイティブ 世代をターゲットとする企業戦略に欠かせない情報とは?: Tastemade Japan 代表取締役社長 夏目卓弥氏

DIGIDAY

ブランドやパブリッシャーで活躍中のDIGIDAY+会員に、どのようなメディアに触れ、情報を活用しているのかを聞くプレミアムインタビュー「ビジネスパーソンの情報活用術」。第3回は、Tastemade Japan代表取締役社長の夏目卓弥氏。

TASTEMADEは、2012年に米・ロサンゼルスで設⽴された「食と旅」を中心にしたライフスタイルデジタルメディアだ。⽉間視聴者数は全世界で3億人、⽶国のほか⽇本・イギリス・ブラジルなど10ヵ国以上の制作拠点から、動画コンテンツを配信している。

Tastemade Japanは2016年に設立され、現在Instagram・facebook・TikTok・Twitter・YouTube・Pinterest・LINEという7つのSNSプラットフォームに展開。日本国内の総フォロワー数は900万人以上にのぼり、8割以上はミレニアル世代・Z世代の女性だという。

情報感度の高いSNSネイティブを惹きつけ、スポンサーからも満足される映像を生み出すため、日々どんな情報に触れているか。同社を率いる夏目氏に、情報活用術を聞いた。

◆ ◆ ◆

ーー動画メディア、TASTEMADEの特徴は?

米国本社のTastemade Inc.  がサンタモニカで創業したのは、個人YouTuberが目立って出てくる前の2012年で、MCN(マルチチャンネルネットワーク)といわれた業態のひとつだった。当時シリコンビーチと呼ばれたサンタモニカ・ベニス界隈には、モバイル系のアプリ事業者などスタートアップやMCNが数多く誕生したが、そのほとんどがディズニーやタイムワーナー等のメディアコングロマリットに買収されたり廃業に追い込まれた。

そんななか、TASTEMADEが成長し続けた要因は「食と旅」という世代を超える普遍的なテーマのコンテンツをこつこつと制作・配信してきたこと。流行の移り変わりが比較的早い美容やコスメと違い、「食と旅」は5年前の動画もライブラリーとして活用できることが利点。加えて、ハイクオリティな動画を内製で制作していること。もともと映画の都であったロサンゼルスにおいて制作人員が旧メディアからデジタルメディアにシフトしたことで、優秀なクリエイターを確保し動画のクオリティを担保できたことも大きいと感じている。

いまレシピ動画は早回しで手元だけが映るHOR(ハンズオンリーレシピ)が主流となっているが、この手法を最初に作ったのがTASTEMADE。清潔感のある白バックではなく、あえて黒バックを採用したのも食の色映えやレシピからアートに引き上げる美的センスを考慮してのこと。SNSの増加につれて、それぞれのプラットフォームに合う尺や画角・トーンを研究し最適化することでフォロワーを増やし、特定のプラットフォームに依存しない形でメディアの価値を高めてきた。

 

ーーTastemade Japanのコンテンツと事業領域は?

日本では「レシピ動画」「ちびめし」「きゅうりめし」という3本のオリジナルコンテンツを中心に制作するほか、バヤシさんなど著名なインフルエンサーとのコラボも進めている。なかでもTikTokは動画関連企業では国内No.1の190万人のフォロワー数を有しており、配信すると一気にコメントが1000件くらいつくなどアクティブだ。そして満を持して、2022年4月にオウンドメディアのTASTEMADE SWEETS COLLECTIONを立ち上げた。

分散型メディアのSNSとオウンドメディアの両輪でファンを醸成し、将来は「食と旅」以外のコンテンツも拡張することで「ライフスタイル分野のデジタルメディアでナンバーワンになる」というビジョンを掲げている。

2022年は7つのSNSプラットフォームに動画コンテンツを約350本配信し、食だけでなく旅のオリジナルコンテンツなども制作している。フォロワー数を順調に増やすことで、テレビなどがリーチしにくいZ世代に向けたプロモーション依頼を企業や自治体から受けることも多く、BtoBのスポンサー収入を伸ばしている。

夏目卓弥/三井物産時代は米・シリコンバレーとロサンゼルスに駐在。主にメディア分野に携わり、日本コンテンツの海外展開事業のほか、2019年米国Tastemade Incに三井物産が出資した際にはディールを担当した。2020年12月、三井物産がTastemade Japanを関係会社化したことから、同社代表取締役社長に就任。現在は組織改革からトップ営業まで、幅広く活躍中。

ーー社長として手がける業務について

ビジョンや戦略をつくって社員に繰り返し周知・伝達することに加えて、40名という小さな組織なので、採用も含めた人事やチームビルディングにも携わっている。また、株主である三井物産と米国Tastemade Inc.の信頼・支援を得られるよう戦略的に説明することや、トップ営業にも力を入れているところだ。

先ほど話したBtoBの動画制作は、レシピ動画や地方自治体のインバウンド動画からコーポレートブランディングまで実に幅広い。一度プレゼンすれば、ハイクオリティな動画を作っていることを認識してもらえるので、「Z世代に刺さるようなブランディング動画を」と意外な企業からオファーを受けることもある。また最近は外国人観光客が戻ってきているが、海外拠点との連携を活かしたインバウンドPRに加え、地元の物産を海外にアウトバウンドでPRするための案件で声がかかることも増えており、このところ全国を飛び回っている。

ーー海外拠点との連携には、どのようなものがあったか?

過去の事例では、宮城県産の玄米「金のいぶき」をアメリカ西海岸の健康志向層に訴求するプロジェクトにおいて、TASTEMADEが持つアメリカのシェフネットワーク1,000人から、中華・イタリアンなどアメリカ食生活のトレンドとマッチしたレシピを収集した。最終的にメキシコ料理のパクチーを使用した「シラントロライス」とイタリア料理の「マッシュルームリゾット」に決定し、レシピ動画を制作し健康志向層に向けて配信した。

海外向けのマーケティングとして、アジア向けにKOL(キーオピニオンリーダー)を起用するような事例もあるが、TASTEMADEは自身のアカウントをフォローしてくれている全世界のファンに向けて、広告ではなくオーガニックコンテンツとして発信できる。そこが大きな強みで、食・旅関連のクロスボーダー案件で手掛けられるスポンサー動画の裾野の広さに面白さも感じている。

 

ーーBtoCとBtoB、インバウンドとアウトバウンドに対応するため、どのような情報に触れている?

仕事はSNSが主戦場だが、新聞はだんぜん紙派だ。日経新聞も一時、電子版に切り替えたが、毎日アプリを自ら開くことがルーティン化できずに読まなくなってしまったので、毎朝自宅に届くプッシュ型メディアの新聞紙に戻した。紙面には食品原料・食品・小売店・消費者動向や地方創生・観光関連などのBtoB顧客関連情報から、SNSやテック系・メディアエンターテインメント全般のトレンドまで、現在の仕事に関連する情報があふれている。そのことにあらためて気づき、新聞を読むのが楽しくなった。

業界情報に関しては、グローバル情報の信頼度が高いDIGIDAYをチェック。特にプラットフォームや食ブランドの動向は注目しているので、メルマガが届いたら必ず開くし、気になる記事を見つけたら社員にも共有している。最近の記事では「2023年に、TikTokがTwitterよりも大きくなることはありえない」がとても興味深かった。また、情報がまとまっているホワイトペーパーというものがそもそも好きなので、できるだけ目を通すようにしている。

その他流行情報については、Tastemade Japanは社員の30%がZ世代なので、日々の会話や社内の各種レポートから、どこでどういうものが流行っているか把握できる。僕はもともと甘党ではないけれど、若手社員のおかげでカヌレや琥珀糖、トゥンカロンなどスイーツ事情にはかなり詳しくなり、いまでは新大久保のトレンドスポットやデパ地下にも足を運ぶようになった。気になったニュースは、社員各自がSlackの共有チャンネルにアップするほか、毎週の全体会議でレポートする形でタイムリーに情報共有をおこなっている。

ーー夏目さんならではの情報収集・活用法は?

新聞・雑誌・書籍・ウェブなど日々さまざまな情報に触れているが、重要視しているのは、自分が直接見聞きした“生の情報” だ。以前、メディアの仕事で米国にいたことからテック・メディア業界に独自の最先端ネットワークがあり、知人・友人とは「お互いに近況アップデートしよう」とたまに連絡をとっているし、最近は海外からのビジネス客も多いので、直接トレンドを聞くことができる。数人に会って話をすると、違う見方もあれば同じキーワードが何度も出てくることがあり、例えば「米国でライブコマースが起ち上がっており、どういった技術・サービス・エコシステムやプレーヤーが存在するのか」といったような大事なインサイトが見えてくる。各種媒体から得る情報と生の情報を突き合わせながら、内容が重複する点と異なる点を比べて、そこに自身の考察も加えてトレンドを整理していく情報のクレンジングが自然と好きな作業だ。

情報を活用するために欠かせないのは、メモをすること。書かないといずれは忘れるので、打ち合わせやカンファレンスではとにかくメモを取っている。シリコンバレーでベンチャー投資を担当していたときは、業界関係者との打ち合わせで仕入れたレファレンスメモが投資の意思決定に直結していた。いかにわかりやすく書き、タイムリーに共有するかという部分は商社時代に鍛えられたのだと思う。
 

ーーいま会員であるDIGIDAY+のサービスは?

過去に参加したPUBLISHING SUMMIT は、基調講演やパネルディスカッションが興味深く、内容も盛りだくさんで同業者や広告事業者の考えやトレンドを知る良い機会になった 。それに、Tasty Japanを運営するBuzzFeed Japanの代表取締役社長、スコット・マッケンジーさんは一緒に仕事をしたことのある昔からの友人だが、2年前のDIGIDAYイベントで久々に顔を合わせ、「競合じゃん!」とお互いに驚いたことも。

これまで当社はSNS発信が中心だったが、オウンドメディアであるTASTEMADE SWEETS COLLECTIONのトラフィックも順調に伸びているので、今後は同メディアでの広告運用も視野に入れていく予定だ。イベントに参加する際の立ち位置も変わるため、セッションの見方やネットワーキングの進め方も以前とは異なる形になると思う。そういう意味でも、4月に神戸で開催されるPUBLISHING SUMMIT 2023は、とても楽しみにしている。

Written by 山本千尋
Photo by 渡部幸和

▶︎ビジネスパーソンの 情報活用術
Vol.1 課題を構造化した「情報の引き出し」を用意しておく:株式会社 ポーラ ブランドマーケティング部 部長 中村俊之氏
Vol.2 「 界隈 」を知るためにリアルな体験と生の声は欠かせない:貝印 株式会社 マーケティング本部 広報宣伝部 次長 齊藤淳一氏

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