8月23日、台湾が自主開発したワクチンの接種を受ける蔡英文総統 – 写真=ZUMA Press/アフロ
「コロナ対策の優等生」台湾が突如直面した危機
2020年、新型コロナウイルスの流入を防ぎ、感染の拡大を見事に抑え込んだ台湾。だが2021年5月、状況は一変した。5月10日の3人を皮切りに、台湾では毎日、市中感染が確認されるようになった。発端は中華航空の国際貨物便パイロットによる輸入感染で、彼らを隔離収容したホテルのミスなど、いろいろな要素が重なったとされている。
その1週間後の5月17日には、過去最高の535人の感染者が確認され、瞬く間に全国に蔓延(まんえん)した。この急転直下の感染拡大に、台湾は一時期パニックになりかけた。さらに6月26日にはデルタ株の市中感染、国内流入も確認され、台湾のコロナ神話も崩壊したと思われた。
しかし、2カ月後の7月11日以降、台湾は市中感染を30人以下に抑えている。この状況をアメリカの「The Diplomat」は7月29日の記事で「Why Taiwan is Beating Covid-19 again」と称賛している。そしてついに8月25日には、3カ月ぶりに国内感染ゼロを達成した。
かたや日本では年明け以来、大都市圏を中心に感染拡大がたびたび発生。東京では8月末までの244日間のうち、まん延防止等重点措置がのべ34日間、緊急事態宣言がのべ181日間(計88.1%)も適用されてきた。しかし、大規模な感染拡大を防ぐことはできず、医療機関が逼迫(ひっぱく)する事態に陥ってしまった。今も19都道府県で、9月30日まで緊急事態宣言が延長されることが決まっている。
昨年と同様、市中感染の拡大を迅速に抑え込んだ台湾と、出口の見えない緊急事態宣言をだらだらと延長し続ける日本。いったいどこがどう違ったのかを、本稿では検証してみたい。
市中感染7人で警戒レベルを1ランクアップ
台湾の今回の市中感染拡大は、4月中旬頃からその兆候が見えていた。花蓮市在住で日本料理店を経営している溝渕剛氏は、「ぽろぽろと本土感染が出て来て、嫌な感じは漂っていた」と証言している。
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Travel Wild
4月下旬にはコロナ対策を統括する中央感染症指揮センターが、複数の感染者が立ち寄った場所と時間帯を公開。注意喚起を行い、感染者の発見に努めていた。この時点で、同センターは感染爆発の可能性を考えていたのかもしれない。
5月10日に3人、11日には7人の新規感染者が確認された。台湾では1年ぶりの、感染源不明の市中感染例も含まれていた。この段階で、中央感染症指揮センターは全国の警戒レベルを1段階上の「第2級」に強化。三密場所でのマスクの着用の義務化(罰金あり)、室内100人以上、屋外500人以上の集会禁止などの徹底を国民や官民の機関に求めた。
スマホでQRコードを読み取るだけの追跡アプリ
その後、5月15日には台北市と新北市の警戒レベルを「第3級」に上げ、19日にはそれを全国に適用した。外出時は常にマスク着用が義務付けられ、室内5人以上、室外10人以上の集会は禁止。警察、医療、公的機関、ライフライン関連事業を除く建物・施設は閉鎖を命じられた。
第3級の宣言は昨年のコロナ禍発生以降初めてのことで、さらに国民の緊張は高まった。検査業務の再強化やCOVID-19専用病床の再開、防疫ホテル・隔離施設の拡大に加え、地方自治体が独自の迅速な対応を行えるような権限譲渡も発表された。
さらに、クラスター発生時の濃厚接触者の追跡と本人への通知を容易にするため、交通機関や店舗の利用時に連絡先と利用時間を登録する「実聯制」の利用も推奨された(登録した情報は28日間を過ぎると削除される)。もとは備え付けの用紙に書き込む仕組みだったが、その後スマホで店頭のQRコードを読み取り、メッセージを送信するだけで登録が完了する無料アプリだ。
実聯制アプリの利用は個々人の任意で、強制や罰金などの規定はないが、国民のほとんどが応じているとされる。台湾の、ITを駆使した実効性と汎用(はんよう)性のある社会制度インフラ構築力には驚かされる。