社長の子どもが社長になる理由

アゴラ 言論プラットフォーム

黒坂岳央です。

どことなく「起業家な気質の遺伝子はあるかもしれない」という漠然とした感覚は昔からあった。

「高校生の時から転売やブログをしていた」

「学生の時から株取引をやっていた」

こういう人はなぜか親が投資家や経営者だったりする。実際、これまで経営者やフリーランスと出会ってきたが、彼らの多くはやはり親が同じく自営業だったパターンだった。

自分自身、祖母も父親も自営業をやっていた家に生まれ「起業なんて不安定な生き方は絶対したくない。自分は会社員でキャリアを追求する生き方をするぞ」と思っていたが、経営者の娘と出会って不思議とまるで導かれるように自営業者になった。

漠然としたこの感覚について本稿で取り上げたい。

andresr/iStock

起業家遺伝子の存在

WU Executive Academy of Vienna University of Economics and Businessは「The Discovery of the Entrepreneurship Gene Can entrepreneurship be inherited?(起業家精神の遺伝子の発見 起業家精神は遺伝するのだろうか?)」という記事を発表した。同記事の内容を簡単に取り上げたい。

The Discovery of the Entrepreneurship Gene
Many people wonder whether entrepreneurs are born or made. Recent studies suggest that some individuals are indeed genetically predisposed to entrepreneurship. …

まずリスクテイク、忍耐力、市場ニーズの発見、人間関係の構築する力など起業家の要素は確実に存在するという。

これはサラリーマンも自営業も両方やった経験があるのでよく理解できるつもりだが、サラリーマンと自営業ではそれぞれ成功に必要な要素はまったく異なる。サラリーマンでうまくいった人が起業してもうまくいく可能性が高いわけではなく、むしろその逆のケースを多く見てきた。だから起業家という生き方にフィットした才能や気質は存在する可能性は高い。この遺伝子が親から子へと引き継がれるという考えだ。

同記事によると、ビジネスチャンスを見極める能力さえも0.45の遺伝率があるという。また、記事内にはなかったが、忍耐力やリスクテイクの気質も遺伝的要素はかなり大きいと思われる。実際に起業家になるかどうかの遺伝率は0.4~0.6である。つまり、起業に関しては、遺伝子が重要な役割を担っていると言っていい。

さらにもう1つの要素は育った環境だ。親が自営業であれば子は親の背中を見て育つわけであり、親が経営者やフリーランスなら、その仕事や生活ぶりをみて知らず知らずの内に親と似たようなルートをたどるというものである。

ここまでの要素を俯瞰すると、生まれつき起業家になりやすい人は存在する可能性は高いといえる。もちろん、ずっとサラリーマン家の子が起業家になるケースもあるし、その逆もありえる。あくまで統計的相関性の話だ。

結婚相手も関係するかもしれない

これは学術的、統計的データのない、あくまで筆者の肌感覚でしかないが結婚する相手との相性も起業家の気質が大きく関係すると思っている。

自分は妻と付き合い始めた頃、彼女とはビジネスの話ばかりしていた。「将来は起業してビジネスをしよう」という話は、彼女と知り合った初年度からお互いによくしていた(一年間はかなり迷いも感じていたが)。こういうことはあまり一般的ではないかもしれない。彼女は親が会社経営者で先祖も同じ職業についていた。彼女の中に流れる事業家としての血がそうさせたのかもしれない。

自分は彼女と会うまでずっとサラリーマンのキャリアを追求する生き方しか考えたことがなかったので、起業とか独立という話に新鮮さ、楽しさを感じながら話をした。自分が起業家気質でなければ、こうした話は否定的に捉えて受け入れなかった可能性もある。今考えれば、自分も彼女もお互いに独立心が強かったので相性も良かったと思う。

人間は自分と同じ属性に惹かれ合うので、起業家遺伝子が結婚相手すら引き合わせているかもしれない。世の中で経営者やフリーランスと結婚している相手は似たような職業とか、独立した生き方に理解がある相手だ。公務員は公務員同士で結婚し、サラリーマンはサラリーマン同士が多いという感覚がある。

結論としては、起業家遺伝子なる存在が証明されたという話ではない。あくまでそうなりやすい一要素があって、要素を多く持ち合わせる人物が必ずしも起業するわけでもない。だがあくまで確率論の話とはいえ、社長の親は社長であるケースが多いという漠然とした肌感覚は正しかった可能性を示してくれただろう。

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