バイトダンス(ByteDance)が運営するライフスタイルSNSプラットフォーム、Lemon8は現在、各地で人材を募集している。求人情報を見るかぎり、Lemon8は姉妹アプリであるTikTokの戦略を踏襲する意向らしい。
現時点でも、Lemon8とTikTokには共通点が多い。ソーシャルメディアプラットフォームがZ世代のユーザー獲得競争でしのぎを削るなか、Lemon8もTikTokも、リリース後の早い段階から、アプリのダウンロード数ランキングでトップ10入りした。また、アプリ成長の主な原動力がクリエイターという点でも両者は同じだ。
モバイルアプリ分析を専門とするアップトピア(Apptopia)によれば、Lemon8は2020年3月、AppleのApp storeとGoogleのGoogle Playで公開された。位置づけとしては、加工画像が中心のインスタグラムと商品・カテゴリーが中心のピンタレスト(Pinterest)の中間と評されるアプリで、TikTokと親会社(バイトダンス)を同じくするだけでなく、同様のアルゴリズムを採用している。パーソナライズされたこのアルゴリズムは、TikTok台頭のきっかけを作り、競争力の源泉となった。
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Lemon8では現在、24名(スタッフ17名とインターン7名)を募集しており、今後のコンテンツの収益化、ひいてはオーディエンスの収益化に向けて、組織の土台作りのさなかにある。
クリエイターの協力は不可欠
Lemon8はアプリの地域限定リリースに際して、クリエイターによる訴求施策をすでに始めており、Lemon8を紹介する数多くの動画をTikTokに投稿してきた。ライフスタイルセグメントにおける認知度の上昇を足がかりに、さらなる成長を目指す意気込みだ。現在募集中のスタッフ職の大半(17のうち13)が、ファッション、ビューティ、グルメ、ライフスタイルといった主なジャンルのコンテンツクリエイターとのパートナー関係担当だという。
職場も広域にわたる。求人6名がニューヨークを拠点とするスタッフ職で、基本時給は27ドル69セントから46ドル15セント(約3600円から約6000円)。Lemon8がすでに定着している市場のベトナム、インドネシア、タイでは、ホーチミン・シティで3名、ジャカルタで2名、バンコクで1名を追加採用し、さらに英ロンドンでも1名を採用する予定だ。
ロンドンで募集中の「コンテンツ戦略担当マネージャー」は、クリエイターパートナー関係管理チームと緊密な連携をとりつつ、アジア以外では米国に次いで重要な市場である英国の事業戦略を練る役割を担う。
Lemon8にとって、実力あるクリエイターのスカウトと、視聴急増が期待できるコンテンツの制作と配信は(ヒットが保証されるわけではないにしても)、ユーザー基盤の拡大戦略として理にかなっているといえよう。
「バイトダンスには、TikTokを通じて築いたクリエイターの人脈という利点がある」と、エンダース・アナリシス(Enders Analysis)の上級リサーチアナリスト、ジェイミー・マキューアン氏はいう。「人脈を活かしてクリエイターを動員すれば、マーケティング予算を抑えながらLemon8のユーザー基盤を拡大できると考えたのかもしれない。とはいえ、TikTokの成長は、何年にもわたって投じられた膨大なマーケティング費によるところが大きい。グローバル展開するなら、相当額の投資は避けられないだろう」。
Lemon8の広告プラットフォーム
ソーシャルメディアは、どんなプラットフォームを有していても、運営面ではある程度、広告に頼らざるをえず(ビーリアル[BeReal]を除く)、チャネルの運転資金はおおむね広告収入でまかなわれている(Twitterはその好例)。
Lemon8も例外ではない。
Lemon8はプラットフォームの透明性を確保する一助として(おそらく政府当局からの批判を避けるためもあるだろう)、プライバシーポリシーに、広告主によるユーザーデータの収集と使用目的を明記している。一方、広告プラットフォーム収益化プロジェクトにも力を入れており、バンコク勤務の人材を募集中だ。公式サイトに掲載された求人広告によると、職務内容は「最高クラスの広告体験」と「Lemon8の多様な収益化ソリューション」をマーケターに提供することだという。
今回募集中の、東京を拠点とする「SMB市場パートナーシップマネージャー」は、広告代理店との関係づくりや、日本市場における各種イベントを担当する。中小企業のクライアント獲得はソーシャルプラットフォーム広告事業の基盤となるため、Lemon8としても市場の早期攻略は理にかなっている。
注目すべきは、24の職のうち、バイトダンスが本社を置く北京を拠点とする職はひとつもないことだ。マーテク分野スタートアップ・アクセラレーターのZ2Cリミテッド(Z2C Limited)広報担当ディレクター、バーバー・ジェイブド氏は次のように述べている。「TikTokが米国議会公聴会へのCEO出席などで注目を集めている状況を勘案して、『Lemon8とバイトダンスの関連を取り沙汰されないように』とバイトダンス社内または社外の人間が助言したとしても、とくに驚きはない。疑惑のレーダーをかいくぐって活動するための戦略だろう」。
「大々的な発表」はいつになるのか
しかし、欧米市場でのTikTokの将来がいまだ不透明な状況を考えると、バイトダンスが自社サイトに堂々とLemon8の採用情報を掲載し、2社の関わりを明示していることは驚きといえるかもしれない。
求人ページ直下の「About ByteDance」へのリンクを開くと、バイトダンスが「TikTok、Helo、Ressoなど10数製品のほか、中国市場向けプラットフォームのToutiao(今日頭条)、Douyin(抖音)、Xigua(西瓜)を有する」旨の記載があり、これはLemon8がバイトダンスの傘下にある事実を初めて公式に認めた明確なメッセージになる。
「バイトダンスはいま、Lemon8とは別の理由でニュースを賑わせている。だからLemon8について大々的に発表する適切なタイミングを見定めようとしているのではないか」と、MMIエージェンシー(MMI Agency)でコミュニケーション部門ディレクターを務めるジョーダン・ロバック氏は指摘する。
Lemon8はすでに、次のトレンドを生むSNSとしての位置づけを固めようとしており、クリエイターとユーザー双方にとって、姉妹アプリのTikTokにも迫る勢いの人気アプリになりそうだ。またバイトダンスにとってLemon8は(進行中の論争はさておき)、画像や短尺動画など幅広いコンテンツに対応できるプラットフォーム体制整備に貢献し、ソーシャルメディアで支配的地位を確立する一助になるといえよう。件の求人ページの説明にもあるように、Lemon8のチームは自らを評して「リスクを検討したうえで難題に取り組み、(意思決定における)不確実性も受け入れる覚悟がある」としている。
こうした背景があるからこそ、Lemon8ではアプリのグローバル化にともなう課題を見すえ、早くも内部監査部門長の採用計画を進めているのだろう。米カリフォルニア州マウンテンビュー勤務となるこの職の求人は、「効果的なガバナンス、リスク管理、内部統制の制度設計と運用に関して客観的かつ確固たる見解を示し、知見と助言を提供できる高い専門知識を有する」ことを資格要件としている。
Lemon8やCapCutに投資する「リスクヘッジ」
ひとつ明らかなのは、将来に対するLemon8の前向きな姿勢だ。バイトダンスは、中国との関係をめぐる疑惑でLemon8がTikTokと同じ運命をたどる可能性を懸念していないようで、事業計画推進の決意は固いとみられる。インフルエンサーマーケティングで知られるリンキア(Linqia)の事業戦略部門バイスプレジデント、キース・ベンデス氏によると、現在、バイトダンスが運営するアプリのうち3つが、米国内のアプリダウンロード数で上位にランクインしている。その3つとは、TikTok、動画編集アプリのCapCut(キャップカット)、Lemon8である。
ベンデス氏は次のように述べている。「一部の国々で政府端末でのTikTok使用を禁止する動きがある現状を考えると、バイトダンスがLemon8やCapCutに投資するリスクヘッジは、悪くない戦略だといえる」。
なお、米DIGIDAYは今回、バイトダンスにコメントを求めたが、即答は得られなかった。
[原文:TikTok sister app Lemon8 looks to creators to help it grow to the next level]
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)