大人気のテキスト生成AI、ChatGPTのサブスクリプション版の提供をオープンAI(OpenAI)が開始するなか、ChatGPTを使用して独自のマーケティングツールを構築する企業も増えている。
2023年2月1日、オープンAIはChatGPT Plusのウェイティングリストへの登録受付を開始した。月額20ドル(約2600円)で新機能の先行利用や他の優先的扱いが提供される。
その一方で、マーケターサイドでは単なる無料版利用の先をにらみ、オープンAIの大規模な言語モデルに自社のデータセットを統合させる動きが進む。現在、ウェイティングリストは米国のユーザーのみを対象としているが、オープンAIでは他の国や地域にも「近日」拡大する予定だという。
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AIで信頼性の高い広告生成を目指す
このサブスクリプションプランのパイロット版の発表と同じ日、コンテンツレコメンデーションのタブーラ(Taboola)は、広告主がタブーラと過去に実施したキャンペーンの効果測定データに基づきChatGPTを活用してキャンペーンを新規生成できるという、新しいベータテストを発表した。タブーラのCEOで創設者のアダム・シンゴルダ氏によると、人々のエンゲージメントが最も高くなる可能性のあるものに基づいてChatGPTがコンテンツを生成し、マーケターはその中から各種ウェブサイトの広告で展開するコンテンツを選べる。
タブーラをはじめとする同種の企業はクリックベイト的なコンテンツの制作でも知られるが、シンゴルダ氏は関連性と信頼性の高い広告の生成を目指している、と話す。この機能は、最初は社内でタブーラの担当者がクライアントに提案するタイトルを生成するために使用されるが、将来的にはセルフサービスのオプションとして提供される可能性もあるそうだ。
「基本的に、当社がデータを所有するセグメント別のタイトルを対象にクエリを実行している」とシンゴルダ氏は語った。「セグメント、フォーマット、時期によって、消費者をクリックへと導く条件は異なる。自社商品にとってどのようなポジショニングが良いのかがわかれば、それを使用するものだ」。
オープンAIを利用し、ChatGPTで新しいチャットボットを作成する企業もある。インターコム(Intercom)は1月末、カスタマーサービス業務の支援とウェブサイトコンテンツの生成を行う、同社初のChatGPTを活用したチャットボットを発表した。
現在はどこまで進んでいるのか
マーケティングではかなり前からAIの活用はあったが、最近はキャンペーンでAIがますますさまざまな役割を果たしている。現在はまだAI生成コンテンツは目新しい存在だが、調査会社ガートナー(Gartner)の予測によれば、2025年には大企業が送り出すマーケティングメッセージの30%が生成で合成されることになる。AI領域の進化のペースを考えると、この予測はさらに早く実現されるかもしれない、とガートナーでマーケティングプラクティス部門シニアディレクターアナリストを務めるニコル・グリーン氏は指摘する。
グリーン氏は次のように述べた。「カーテンで実体が見えないオズの魔法使いだったものが、今は目の前に現れて何ができるのかが見える。現時点ではとても重要なものとして扱いが過熱しているが、何ができて何ができないのかは見極める必要がある」。
広告代理店も、オープンAIを利用して独自のプラットフォームを構築している。1月下旬、ジ・アンクリエイティブ・エージェンシー(The Uncreative Agency)という匿名の「AI活用」代理店が、オープンAIを使用し、人の手を介さずにほんのいくつかの基本的なインプットに基づいて数分で提案を生成する試みで、広告業界の話題を集めた。生成された提案にはアイデアやイラストも含まれ、それがPDFでユーザーにメール送付されるのだが、そのアイデアが「明らかに、あまりいいものではない。少なくとも今はまだ」という免責文付きだ。
このプラットフォームの背後にいるのが誰なのか、それとも現在のテック業界のトレンドを皮肉ったいたずらなのか不思議に思われていたところ、広告代理店DDBのプロジェクトであったことがDDB自身により2月3日に明らかにされた。DDBによれば、最初の1週間で大手広告代理店やコンサルティング企業から1万2000人以上の利用があったという。現在DDBは、クリエイティブ向けのAIツールの提供と生成AIのスタートアップ企業のインキュベーションを行うための、人間とAIを組み合わせたハイブリッドなプラットフォームを新しく立ち上げている(プラットフォームは伝説的なデザイナー、ポール・ランドにちなんでRANDと名付けられた)。
DDBのEMEAチーフストラテジーオフィサー、ジョージ・ストラコフ氏は、自身のチームが背後にあることを明かす前の週、LinkedInに「なんてことだ、素晴らしいと同時に恐ろしい」と投稿した。「生成されるアイデアはあまりにもひどくて、逆に良く思えてくる」。
進むAIの普及
ChatGPTはすでにいくつもの大手ブランドの広告キャンペーンで活用されている。家系図ウェブサイトのストーリード(Storied)では最近、ChatGPTと画像生成AIのミッドジャーニー(Midjourney)を使用してオンラインキャンペーンの動画広告を制作した。アボカド・フロム・メキシコ(Avocados From Mexico)の2023年スーパーボウルのキャンペーンでは、広告のQRコードから表示されるウェブサイトでAIによるツイートが生成できる。
ChatGPTを試しているすべての企業が、ChatGPTがマーケティングのあらゆる面を支配するようになると思っているわけではない。2023年1月、ミントモバイル(Mint Mobile)ではライアン・レイノルズが出演する広告のスクリプトをChatGPTで作成したが、CMOのアーロン・ノース氏は「楽しい実験」だからといって「AIがマーケティング日程の重要な部分を占める」ことには必ずしもならないと述べている。
「コンピュータがライアン・レイノルズらしいセリフを生成できるのは驚くべきことだが、それが最高の出来であるとは限らない」そうだ。
生成AIは、さまざまなスキルを持った人と企業とを結ぶ、フリーランスのマーケットプレイスプラットフォーム、ファイバー(Fiverr)でも人気が高まっている。同社は具体的な数字は明かさなかったが、AIサービスに対する検索はすでに1400%の伸びを見せているそうだ。米DIGIDAYがファイバーのプラットフォームで「ChatGPT」というワードで検索してみたところ、1600件のサービスが表示された。
イスラエルを拠点とするファイバーは、拡大する需要を整理するためにChatGPTアプリケーション開発者やミッドジャーニーを使用するアーティスト、チャットボット開発者など、新しいAIカテゴリーを設定した。その宣伝として、ファイバーはニューヨーク・タイムズ(The New York Times)に「AIへの公開書簡」と題した全面広告を掲載した。AIに「人類は平和的な共存を望んでいる」と語りかける内容だ。
この感情が双方に共通したものなのかは、まだわからない。
[原文:Marketers move beyond the basics of ChatGPT with new tools]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)