国立感染症研究所が発表した今年8月の超過死亡は、1万~1万7000人と、超過死亡統計史上で最大だった。 これはまだ超過死亡のダッシュボードに反映されていないが、毎週平均3800人で、7月31日の週の最大1193人の3倍である。
週ごとの超過死亡数(国立感染症研究所)
こうなることは8月の死亡数が前年比1万8000人増えたことから予想されていたが、その原因ははっきりしない。8月のコロナ死者数は7000人だから、超過死亡数はその2.5倍。残りの1万人がコロナ陰性の死者である。
「循環器系疾患」とワクチンは無関係か
その原因として、仁井田浩二氏は、コロナにかかっても11日でPCR陰性になるので、それをきっかけにして他の病気で(25日で)死亡するまで見つからなかった隠れコロナ死者がいたと想定すると、100%説明できるという。そういうケースもあっただろうが、累計7800万人以上がPCR検査を受けた日本で、見逃したコロナ死者がそれほどいたとは考えられない。
コロナ以外の死因の内訳は、8月についてはまだわからないが、1月から3月までの第6波については、日本経済新聞が分析している。死因別で最大なのは、心不全などの循環器系疾患で、前年比10%増えた。それに次いで多いのが老衰で、21%も増えた。この内訳が問題である。
循環器系疾患として疑われるのは、ワクチン接種による心筋症である。日経新聞は「心筋症は死亡数の増加には影響していなかった」というが、心筋症の死因は「心不全」と書かれることが多い。心不全というのは心臓が止まったといっているだけで、ワクチン接種の直後に死亡した特殊なケース以外は、因果関係が追えない。
「老衰」が激増したのはなぜか
奇妙なのは老衰である。 老衰が1年で2割も増えることは考えられないので、これは他に原因があったはずだ。一つはオミクロンで陽性者が激増したので、救急医療が追いつかなかったことだろう。8月の緊急搬送困難事案は毎週6000件を超えた。
ただ、これは救急車が4回以上たらい回しされただけで、最終的に入院できなかったケースはない。そのうち死亡率は5%程度だから、8月に緊急搬送の遅れで死亡した人は100人以下だった。病床使用率は6割以下だったので、医療がそれほど逼迫していたわけではない。
もう一つ考えられる要因は、自宅で死亡する高齢者が増えたことである。次の図のように自宅で亡くなる人は、昨年1年で3万人ぐらい増えた。 その原因の一つとして、救急車が間に合わなかったこともあるだろうか、本人が入院を望まないケースも多いという。
2類以上の「過剰医療」が高齢者を締め出す
病院がコロナ患者を隔離する厳戒態勢になっているため、入院すると家族と面会できなくなるので、自宅で最期を迎えたいという高齢者が多い。これは単なる風邪になったオミクロン株をいまだに感染症法の2類以上の「死の病」として扱っている過剰医療が原因である。
これについては国のコロナ分科会の尾身会長も記者会見して「コロナの感染症法上の扱いを見直すべきだ」と提言したが、厚労省は変えない。インフルと同じ5類に落とすと感染症法の特別扱いがなくなるので、巨額の補助金を受けている病院が反対するからだ。
そうこうしているうちに、風邪の季節がやってきた。これから感染者が増えるとき、感染症法の扱いを緩和することは政治的にむずかしい。このままでは今年の冬も、コロナ偏重の過剰医療で締め出された高齢者が、コロナの2倍近く亡くなる悲劇が繰り返されるだろう。