今回は、ファッションがいかにトレンドのマーチャンダイズを活用してブランドのファンダムを盛り上げているかを紹介する。
ブランドのベースボールキャップが人気を集めており、消費者が自分自身を現実世界にタグ付けする機会を提供している。
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SNSで話題になっているベースボールキャップ
これをTikTok効果と呼ぼう。ソーシャルメディアでハッシュタグが付いたさまざまな美的センスが拡散するにつれて、消費者はファッションブランドのスタイルを参照して、自分のアイデンディティを確立したり、みずから進んで自分の方向性を選択したりするようになっている。同時に熱意のある人気のブランドは、ベースボールキャップの販売とマーケティングのチャンスを活かそうとしている。つまり、いまの時代に合ったロゴ入りのスタイルを作り出すことで人々の需要に応えつつ、ブランドの世界に手が届くようにしているのだ。ベースボールキャップは一般的なイケてるアイテムとなっており、現在はそうした結果に基づいて、ブランドはこの製品カテゴリーを構築している。
一度このトレンドに気づくと、いたるところで目につくようになる。ファッションのファンのインスタグラムは、ブランド名が小さく刺繍されたベースボールキャップの写真であふれている。アロヨガ(Alo Yoga)、ザ・フランキーショップ(The Frankie Shop)、アニン・ビン(Anine Bing)のキャップは、スタイルインフルエンサーの間で大きな話題だ。一方、エメレオンドレ(Aime Leon Dore)の秋のルックブックとロロ・ピアーナ(Loro Piana)の製品リリースは、いずれにしても現在の状況からして、このトレンドが長続きするだろうと業界が確信していることを示している。
キャップ自体は新しい発想ではない。「バレンシアガ(Balenciaga)」とロゴが入った帽子は、2017年からカイリー・ジェンナー氏やリアーナ氏などのセレブリティが着用している。また2021年には、ドラマ『メディア王〜華麗なる一族〜(Succession)』の登場人物が身につけていた400ドル(約5万7000円)から600ドル(約8万6000円)のロロ・ピアーナのキャップ(ブランド名は入ってないか、目立たない)が、ステータスを感じさせるキャップとして人々の欲望をかき立てている。
だが、そのコンセプトがすっかり定着していることは否定できない。ファッション検索エンジンのリスト(Lyst)で2022年第2四半期の「もっともホットな」メンズ商品8位にランクインしたのは、ポロ・ラルフローレン(Polo Ralph Lauren)の定番のコットンチノキャップだ。フロントパネルの中央には同ブランドのシグネチャーであるポニーがあしらわれている。リストのランキングは、買い物客のソーシャルショッピングおよびオンラインショッピングの行動に基づいたものだ。
高級ホテルとのコラボが大きな反響を呼ぶ
最近ベースボールキャップを導入したファッションブランドには、さらなる展開の計画がある。フレーム(Frame)の場合は、ホテルとのコラボレーションでこのトレンドに乗った。2021年には、バックパネルに小さく「Frame」とあり、フロントに「The Carlyle(ザ・カーライル)」や「Ritz Paris(リッツ、パリ)」と書かれたキャップを含むスタイルをリリースしている。この9月8日にはリッツ・パリ・コレクションの第2弾をローンチ、その中には3色展開のリッツブランドのキャップもある。
フレームの共同設立者でチーフクリエイティブオフィサーのエリック・トルステンソン氏によると、リッツのオリジナルコレクションは、同社のコラボレーションでも最大の話題となったという。ヘイリー・ビーバー氏やナオミ・キャンベル氏などスタイリッシュなセレブリティが、ファンとしてこのアイテムを「気高く」着用している姿が写真に撮られたことで火がついた。コレクションのアイテムは、現在リセールサイトで小売価格の5倍から10倍で販売されている。
「マーチャンダイジングには、そのときがある」とトルステンソン氏は言う。「(最初の)リッツ・パリのコレクションは、世界でもっとも有名なヘリテージブランドのひとつであるために非常に大きな反響を呼んだ。そして私たちのコラボレーションはアクセスを民主化した。誰もがベースボールキャップを受け入れるようになった」。
実用的でありながら最新のファッションとして売れ続ける
セレブリティや憧れのルックに夢中になる以外にも、ファッション界隈で話題になっているジェンダーニュートラルで実用的なルックを求めて消費者はキャップを入手している。白のタンクトップ、オーバーサイズのパンツ、無骨な靴と合わせれば、ベースボールキャップはインフルエンサーやデザイナーが認める最新ファッションになるのだ。
フレームと同様に、アニン・ビンも2021年にブランドのキャップをデビューさせている。同社のチーフオペレーティングオフィサーであるオリビア・ジェンティン氏は、「ダイアナ妃の普段のストリートウェアスタイル」にヒントを得たという。時代を感じさせない気軽なセンスは、同ブランドにとって、そして今日のほかの多くのブランドにとって、共通のタッチポイントになっているとジェンティン氏は語った。さらに、ブランドの「視認性」と「オープニング・プライス・ポイント(もっとも低い価格)のブランドアイテム」を提供する「強いスタイル」の導入も目標だった。それから1年半、このキャップは売れ続けている。現在はアニン・ビンのコア商品であるクラシック・コレクションに組み込まれ、毎シーズン新たなカラーバリエーションがリリースされている。アニン・ビンのマーケティングでは、このキャップをアクティブウェアからスーツまで、あらゆるスタイルに合わせて紹介している。
「私たちは毎シーズン、トップセラーのスタイルを作り直し、革新し続けている」とジェンティン氏は言う。同様に、アニン・ビンでは現在ブランドのロゴ入りのヘアアクセサリーなど小物などのスタイルにも目を向けている。
また、アロヨガのブランドキャップもよく売れている。同社でデザインおよびマーチャンダイジング・バイスプレジデントを務めるアビー・ゴードン氏は、このキャップの導入は、ブランドとつながる方法を求めていたコミュニティに応えるものだったと述べている。アロの愛用者も初めて購入する人も、男女を問わず、このスタイルの「アクセシビリティと汎用性」が大きな動機となってキャップを買っているという。また、キャップは四半期ごとに完売しており、コレクションは発売以来、6色のカラーバリエーションを追加して拡大している。今ではキャップはアロの定番の製品シリーズとなっている。
来年春まではブームは継続
創業5年のM65スタジオ(M65 Studio)の新しいコレクションが何かの兆しであるなら、ブランドキャップのブームは少なくとも2023年春まではこのまま継続することになるだろう。9月9日のニューヨークファッションウィークのランウェイショーでプレミアを行う同ブランドの春のラインには、ロゴ入りキャップが複数含まれると、デザイナーのアンソニー・ヘンドリクソン氏はGlossyに語った。これらのスタイルは、「人々がストリートで身に着けているもの」からインスピレーションを得たヘンドリクソン氏の全体的なビジョンである、「何気ない」「Y2K」ルックを完成させるものとなるだろう。
販売業者のリサーチ・アンド・マーケッツ(Research and Market)からのデータによれば、世界のベースボールキャップ市場は今後も成長し続けるだろう。その市場は2020年から年平均成長率6.6%を記録し、2026年には242億ドル(約3兆4400億円)に達すると予測されている。
成功したシンプルなキャップの販売ビジネス
だがこの分野での成功を目指す企業にとって、マーチャンダイズ以前に必要なのが強力なブランドだ。
アムステルダムを拠点とするバート・クーイ氏は、カルバン・クライン(Calvin Klein)でフリーランスのマーケターとして働いているが、2020年5月からブランドファーストのファッションビジネスを構築している。いまのところ、その会社ではブランドキャップの販売のみを行っている。
パンデミックの最中、クーイ氏はデジタルムードボード兼クリエイティブな表現のために、Cabmateというインスタグラムのアカウントを立ち上げた。「キャッチーでコスモポリタン」なアカウント名は、ニューヨークを代表する小売店シャリバリ(Charivari)の創業者ジョン・ワイザー氏に関する新聞記事でこの言葉を目にして選んだ。そして彼は、モダンでありながら親しみやすいと判断したフォントでロゴを制作した。
このアカウントが紹介するマスキュリン・フェミニンで90年代ミニマリストのスタイルは、すぐに多くのファッション界の有名人たちを魅了した。リタ・オラ氏、ファッションメディアのベテランであるケイティ・グランド氏、インフルエンサーのカミーユ・シャリエール氏など、1万1000人のインスタグラマーが、クーイ氏がキュレーションした数十年前のケイト・モス氏やキャロリン・ベセット=ケネディ氏の画像にエンゲージメントしている。
フォロワーがそうした投稿に描かれている「雰囲気を感じる」ことができるように、そのアカウントで「もっと何かしたらいい」と友人に勧められたクーイ氏は、ワンサイズでユニセックスでシンプルなキャップをローンチすることに決めたのだという。それ以降彼は、世界27カ国で販売するShopify(ショッピファイ)のサイトを通じて、キャップの販売という強力なサイドビジネスも確立した。キャップには8種類のスタイルがあり、それぞれ「Cabmate」とコントラストを放つ刺繍が施され、45ドル(約6400円)前後で販売されている。フランス、ドイツ、英国、オランダが最大の販売市場で、これまでの同社の成長はすべて有機的なものだとクーイ氏は言う。具体的な売上の数値については言及を避けた。
キャップもトートもニーズがあって残るもの
「人々が私たちのキャップをかぶるのは、このコミュニティの一員になりたいからだ。内輪に属していること、あるいは『事情通』であることを示したいのだ」とクーイ氏は言う。「質はよいが、ただのベーシックなキャップだ。みんなこのブランドだから買っている」。
もちろん、新たな形で時代に合ったロゴ入りのキャップの背景にある大きな何かは、最近広く報道されているように一度は飽きられたトートバッグが再び人気を博していることにも作用している。だがブランドのベースボールキャップは、いわゆる「新しいブランドトート」ではない。ジェンティン氏によれば、「(買い物客の)ワードローブには、どちらのアイテムもニーズがある。どちらも残るものなのだ」。
[原文:Fashion Briefing: Why branded baseball caps are suddenly everywhere]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)