今年は民間企業がスゴかった! 2024年の宇宙ニュースまとめ

今年は宇宙企業各社にとっては真価を問われる1年でした。

民間企業による宇宙飛行は何十年も前から存在していましたが、新たな宇宙時代の最前線に出てきて、宇宙旅行の国家的アジェンダに徐々に組み込まれていったのはここ数年のこと。

この1年は民間宇宙産業にとっては波乱の年であり、宇宙でどれだけ重要な役割を担えるかが試されました。2024年に大きなマイルストーンを達成した企業がある一方で、難局をうまく乗り切れなかった企業もあったのです。

アメリカの宇宙ビジネスにおける2024年の大きなトピックといえば、明暗をわけた2つの月着陸船、ISSに宇宙飛行士たちを置いてけぼりにしたスターライナー宇宙船、巨大タワーによる史上最大のロケットのキャッチなど。

米Gizmodoがこの重要な1年における業界の印象深かった出来事と残念だった出来事をまとめました。

失敗と呼ばないで:ボーイング社、宇宙飛行士たちを“立ち往生させる”

何年もの延期を経て、Boeing(ボーイング)社のカプセル型宇宙船「CST-100 スターライナー」がついに初の有人テストフライトに飛び立ちました。10年前にNASAと締結した契約を履行するため、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士2名を輸送したのです。

6月5日に打ち上げられたスターライナーは、NASA宇宙飛行士のバリー・ウィルモア氏とスニータ・ウィリアムズ氏をISSに輸送しました。しかし同機がISSに接近する際、スラスターのうち5基が故障し、ドッキングに難航。また5箇所のヘリウム漏れも発生しており、そのうち1つは打ち上げ前に確認されていたものでした。

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ISSに接近するボーイングのスターライナー
© NASA

当初はクルーをスターライナーに乗せて帰還させる予定でしたが、状況をふまえて地上にいるチームが3カ月にわたり議論。その間、スターライナーはISSにドッキングされたままでした。

NASAとBoeingはようやく、スターライナーを無人で帰還させて宇宙飛行士2名をSpaceX(スペースX)社の宇宙船「クルードラゴン」に乗せて帰還させることに合意。9月6日にISSから切り離されたスターライナーは、クルーをISSに置いて去ったのです。

Boeingの担当者らはスターライナーを取り巻くメディアの報道を“とても苦痛に感じる”とこぼし、報道陣に対しNASAの宇宙飛行士2名を“立ち往生”していると呼ぶのをやめるよう頼みました。しかし実際のところは、見たままに呼んだだけ。最初から災難に見舞われてきた計画を、私たちはこれからも報じ続けるのみです。

2014年、NASAはISSへのクルー及び貨物用の打ち上げサービス提供の契約をBoeing及びSpaceXと結びました。これまでSpaceXが宇宙ステーションに9回もクルーを運んだのに対し、Boeingは運用可能なミッションをまだ1つも完遂できていません。さらにBoeingはスターライナーで累計18.5億ドルという巨額の損失を計上しています。NASAとの42億ドルの契約では、Boeingがスターライナーの所有権をすべて保持する一方、NASAはISSへの往復ミッションを購入する顧客となるはずですが…。

スターライナーの初の有人飛行でのヘマを受けて、Boeingは宇宙事業をまとめて売却することを検討しているかもしれません。

2つの契約が渡された当時、Boeingは(アポロ計画を含む)歴史に残る宇宙計画からの実績に乗じて絶好調だった一方、SpaceXは業界の当てにならない新参者と見なされていました。現在、2社の間にある歴然たる差は、新たな宇宙時代の下で民間宇宙企業がどれだけ成長してきたかを物語っています。

SpaceXによるナイスキャッチ

確率ははっきりとしないが、ゼロより上だ。

SpaceXのCEOで創業者のイーロン・マスクがそう述べたのは、2年前のインタビューのでのこと。同社がどのようにして史上最大のロケットを巨大なメカニカルアームで挟んで捕獲するつもりなのかを説明した後に、発した言葉でした。同じ動画では同社のエンジニアが、「イーロンは脚部分を消してしまおうって言ったんだ。消そう。アームだけを使おうってね」と回想していますね。

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Image: SpaceX
5回目のテストフライトで歴史的快挙を成し遂げた、SpaceXのスターシップ

今年、マスク氏の絵空事のように思えたビジョンは確かに実を結びました。

10月13日、スターシップは歴史に残るテストフライトのために離昇。今回初めて、2本のアームが伸びた400フィート(約121m)のタワーMechazilla(メカジラ)が、232フィート(約71m)あるロケットのブースター「スーパーヘビー」をキャッチしたのです。

SpaceXの将来有望な完全再使用可能な超重量物打ち上げロケットは、1年を通して運用可能な打ち上げに近づいていき、テストフライトごとに前回よりもさらにうまく行くと証明していきました。

同社が超大型ロケット「スターシップ」を初めて打ち上げたのは2023年4月でしたが、そのデビューは理想的とはいえないものでした。同機はミッション開始から4分も経たないうちに落下しはじめ、地上管制官たちはやむなく自己破壊装置を発動させる指令を出したのです。

2023年11月、スターシップの2回目のテストフライトはブースター「スーパーヘビー」と上段ステージ両方が空中で爆発するという結果に。それでも初フライトからは大幅な進歩です。

3月に行なわれた3回目のテストフライトでは、スターシップはステージ分離に成功し、2段目エンジンの本番と同じ時間での燃焼テストを終え、推進剤の移送を実施して、ペイロードドアの開閉も試しました。

6月に行なわれたスターシップの4回目のテストでは、ロケットの大部分が制御再突入の際にピークに達した加熱と最大動圧点を乗り切るなど、これまでのテストフライトと比べると新たな境地が開けたのです。

SpaceXは、NASAの有人月探査ミッションのアルテミス3と4で宇宙飛行士たちを月の南極域に着陸させるスターシップHLS(有人着陸システム)を開発中です。同社は地球低軌道、月ゆくゆくは火星へと貨物を運ぶのにこの超大型ロケットを使おうとしています。

民間人による宇宙での快挙

2001年以来、60名ほどの民間人が観光目的で宇宙へ赴き、主に景色を見るために準軌道の高度を訪れています。しかし今年、民間宇宙飛行士がこれまでより高い高度を旅し、史上初の民間宇宙遊泳を行なったことで、宇宙ツーリズムは新たなレベルに到達しました。

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クルードラゴン宇宙船から現れるジャレッド・アイザックマン

9月12日、宇宙遊泳を実施する世界初の民間ミッション「Polaris Dawnが行なわれました。商業宇宙飛行の新境地を切り開く歴史的な瞬間のため、民間人の宇宙飛行士がSpaceXの宇宙船の外に出たのです。

同ミッションは、宇宙に夢中なテック起業家でNASAの次期長官に指名されたジャレッド・アイザックマン氏が、Space Xから購入した計3回のフライトの1回目で、宇宙船「クルードラゴン」に搭乗しました。

億万長者が出資した同ミッションは、地球から870マイル(1400km)の最高高度に到達し、さらに有人ミッションの遠地点(地球から最も遠い地点)の新記録も樹立

船外活動時、最初にクルードラゴンの外に出たのはアイザックマンでした。彼は、このミッションのために設計されたSpaceXの新型宇宙服の動きやすさのテストをしてから宇宙船に戻りました。アイザックマンの後に続いてSpaceXのエンジニアであるサラ・ギリス氏が、ハッチの外にでて一連のテストを実施。4名の宇宙飛行士は5日間軌道上に滞在し、その間に30以上もの調査研究や実験を行なったのです。

民間ミッションに限っていえば、Polaris Dawnは間違いなく一線を画すものであり、宇宙を訪れる民間人に対する新たなスタンダードを打ち立てたと言えるでしょう。

月面を目指して

2月、テキサス州に拠点を持つIntuitive Machines(インテュイティブ・マシーンズ)社は、月面着陸を成功させた初の民間企業となりました。月着陸船「オデュッセウス」が宇宙空間を8日間かけて旅し、月の南極域にあるマラパート・A・クレーター付近に12個のペイロード(積載物)を届けたのです。

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Image: Intuitive Machines
2024年2月22日に月面にタッチダウンした、Intuitive Machines社の月着陸船「オデュッセウス」

素晴らしい快挙でしたが、全部が完璧というわけではありませんでした。

オデュッセウスはナビゲーションのトラブルのせいで月面に近づく際に傾き、横転してしまったのです。とうてい理想的とは言えない姿勢で、横向きになった太陽光パネルには充分に日光が当たりませんでした。しかし無様な着陸にもかかわらず、オデュッセウスは月にペイロードを届けるというメインタスクを全うしています。

月面着陸が一筋縄ではいかないというのは、Astrobotic(アストロボティック)社の金ピカな月着陸機「ペレグリン」の失敗に終わったミッションからもわかります。

月にタッチダウンする史上初の民間宇宙機になると期待され1月8日に打ち上げられたペレグリンは、2月下旬に月に着陸する予定でした。重量2829ポンド(1,283kg)の同機は、NASAの深宇宙ネットワークを介して通信の確立までもしましたが、月への旅路はその直後に崩壊し始めたのです。

ペレグリンから推進剤が危険なペースで失われはじめ、Astroboticは月着陸機を月面にタッチダウンさせるのを諦めることに…。ピッツバーグに本社を置く同社、バルブ故障がペレグリンの異常の原因だったと考えています。

どちらの月着陸船も、NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)という取り組みの一環です。CLPSは人類を月に再び降り立たせ、月を人類の長期的な駐留のための持続可能な場所にする、というNASAの目標を支援するために設立されました。

また民間企業に月面へのさらなるアクセスとペイロードを月に輸送する能力を許可することで、民間企業にとっての新時代の到来を告げるという意図もあります。

民間企業による救いの手

今年、挫折に直面したのは商業宇宙事業だけではないものの、民間企業こそが国の宇宙アジェンダを復活させる鍵なのかもしれません。

NASAの月探査機「VIPER」は、月の南極域で氷状の水のある場所とその量を100日ほどかけてマッピングしていく予定でした。

4億5000万ドル(約708億円)を費やした同ミッションは2025年9月に打ち上げられるはずでしたが、いくつかのサプライチェーンの遅延を被った後、NASAは他の商業ペイロードミッションに支障をきたす恐れから、VIPERの月への旅を中止することに決めました。

NASAがこの件を公表した時、VIPERローバーを解体し、パーツは今後のミッションで再利用するつもりだと明かしていました。しかしながらその判断に対し、科学コミュニティは罪のないロボットを失うことから激しくお怒りに。NASAがそれに反応し、突如としてこの月探査ローバーを月に送ってくれる団体を募ったところ、月面着陸を成功させた民間企業Intuitive Machines社が名乗り出たのです。

同社は現在、NASAの情報提供依頼に応えるべく、他社や研究機関そして国際パートナーと協力しています。

NASAと民間企業のパートナーシップの別事例だと、火星の地表から岩石サンプルを回収し、地球に持ち帰る新たな手段を提案する企業として、業界の新星Rocket Lab(ロケット・ラボ)社を選んでいます。

アメリカとニュージーランドの両方から打ち上げが可能な同社は、現在予測されるコストよりも低価格で、NASAの現行スケジュールよりも数年早く完了する、NASAの火星サンプル・リターン(MSR)ミッションのエンドツーエンドのミッション・コンセプトを開発する仕事を任されています。

今年は民間宇宙ビジネスにとって完璧な1年ではなかったかもしれません。しかし宇宙産業はロケットの打ち上げ(とキャッチ)や民間人による宇宙旅行、そして厄介な月面着陸といった急速に変わっていく状況の中で、実力を示そうと努力しているのです。

Source: YouTube

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