え? TikTok米事業、アメリカに買われちゃうの? 買える人いるの?

「会社を売る予定はありません!」

とTikTokがいくら叫んでも、アメリカはガン無視です…。

米下院で13日、与野党が珍しく手を組んで、TikTok米国内事業の売却か営業停止かの二者択一を迫る法案を可決しました。上院を通過して大統領が署名すると、親会社ByteDanceは半年以内にTikTokの米国内事業を米国企業に売りわたさないと、アメリカ撤退となります

これを受けて14日には、トランプ政権のとき財務長官だったスティーブ・ムニューシン氏までもが買収に名乗りをあげました。こうCNBCにコメントしています。

「法案は通るだろう。売却は必至だ」

ビジネスの旨味は大きい。TikTok買収に向け、投資家グループのとりまとめを進めていきたい」

TikTokは「禁止法」と見ている

アメリカ側の動きだけ見ていると買収秒読みともとれますが、TikTok側のスタンスは「法案の目的は買収ではなく、米国での全面BANだ」というもの。広報もこう発言しています。

「これは禁止法。それ以外の何物でもない」

「そのことは議員も承知しているし、一部の法案推進派議員は禁止法だと公言してもいる。彼らはずっと首尾一貫して、米国内でTikTokを禁止することが本当の狙いだと明言してきた」

このスタンスに立って、ハーバード大出のTikTok CEO、周受資(Shou Zi Chew)氏も13日のうちにTikTok公式アカウントに次の動画を公開し、「こんな法案が通ったらアメリカでTikTokが利用できなくなってしまうだろう」と利用者の理解と協力を求めました。

@tiktok

Response to TikTok Ban Bill

♬ original sound – TikTok

「法案が通れば全米30万人以上の雇用喪失につながりかねない」

「TikTokは、利用1億7000万人に自由な表現の場を与え、アメリカでは700万以上の事業をエンパワーしてきた。TikTokからの収入に依存するスモールビジネスオーナーにとっては死活問題だ」

異例のスピード採決

こうした叫びも虚しく(CEOの動画は下院通過後のものだけど主張は通過前も同じ)、TikTok法案はわずか8日間という超特急で下院を通過。結果は352対65の圧倒的多数でした。民主党のナンシー・ペロシ元下院議長が極右のリーダーと作戦会議する光景なんて想像したこともなかったけど、対中国となれば案外あっさりとスクラム組むもんなんですね…。

以下の動画はペロシ議員のもの。「TikTok禁止法なんかじゃない。もっとベターにするための法案よ」と開口一番訴えて、TikTok側の主張を正面突破、です。

(途中で「TikTok」を「 Tic-tac-toe (〇×ゲーム)」と噛んでますが)

でも上院の壁は厚い

ただ、この後には上院を通過しなければなりなせん。こちらの与党・民主党のトップを務めるチャック・シューマー院内総務は「採決にかけるべきかどうかもわからない」という慎重姿勢だし、下院より反対意見ははるかに多いとされます。

大統領の壁も厚い

さらに今年はうるう年で大統領選挙の年でもあります。人気アプリいじめで若年層からの支持を失いたくないのは与党も野党も同じ。現職のときあれだけTikTokバンを叫んでいたトランプ氏まで手のひら返したように禁止に反対しています。「議会を通過したら署名する」とバイデン大統領は約束していますが、今はそうならないように動くほうが与党にとって得策との計算がはたらく可能性もあります。

司法判断の壁はもっと厚い

仮に上院可決→大統領署名を経て法案が成立したとしても、TikTokは裁判所で違法性を争う構えですので、それでまた政府と何年も法廷バトル。司法判断が下るまで、TikTok米国事業売却/禁止の件は棚上げとなりますしね…。

それでもTikTokを買いたい富豪は山ほどいる

そんなTikTok横取り法案ではありますが、TikTokは今をときめくSNS。ちょうど下院採決直後の15日には、米国内事業の昨年売上が160億ドル(約2兆4128億円)の史上最高を記録したという発表もありました。投資家にとっては垂涎の的であり、 買収に名乗りをあげる富豪が後を絶ちません。

これまで名前のあがった人はこんなにいます。

・Kevin O’Leary氏(カナダの投資家)

アメリカの人気投資リアリティ番組『Shark Tank』に、Mr. Wonderfulの名前で出演中。Foxニュースに「買収したい米企業を取りまとめたい」と語り、「TikTokは中国共産党にデータをリークしていることはだれでも知っている。売却すべき!」とツイート(「だれでも知っている」というのは氏の言葉で、それを裏付ける証拠が表に出たことは一度もない)。

・Bobby Kotick氏(ゲーム開発Activision元CEO)

ByteDance共同創業者の張一鳴(Zhang Yiming)氏に、買収に関心がある旨を直接伝えたとの報道あり。先日ディナーの席で、OpenAIのサム・アルトマンCEOも巻き込んだ投資家グループで買収してはどうかと発案したとWall Street Journalが伝えています。

・ラリー・エリソン氏(オラクル共同創業者)

トランプ氏を公に支持する数少ないシリコンバレーの企業家。トランプ氏がTikTok米国内事業売却の大統領令を発布した2020年、ウォルマートと組んで買収を試みた実績あり。結局TikTokに訴えられて大統領令は違法との司法判断がくだって見送りになったが、TikTokはこのことが契機でオラクルと提携し、アメリカ人利用者のデータを米国内にあるオラクルのサーバーに置くことで中国脅威論の弱体化を図る「プロジェクト・テキサス」を推進中。同プロジェクトをもってしてもTikTokいじめは鎮火の兆しがないですが、仮に売却強制になった場合、Oracleが譲渡先候補の筆頭にあがると見られています。

TikTok買収には15兆円以上もかかる

しかしまあ、先立つものは要りますよね。今やTikTokの時価総額は1000億ドルくらい。これだけの規模の資金をポンと出せる投資家はそういません。強いてあげるならAmazon、Apple、Metaぐらいですが、プラットフォーム運営会社による買収はあまり考えられませんしね(反トラスト法違反のおそれがあるので政府からストップがかかる)。トランプ政権が買収強硬策を画策した2020年当時、TikTokはMicrosoft、Netflixなどいろんなアメリカ企業に買い取りを打診したと伝えられています。

あれから4年。TikTokは爆発的流行を経て、授業、起業、オピニオン発信など幅広く使われるようになり、政治や経済にも影響力を及ぼす存在に化けています。やっと秘伝のソースのアルゴリズムが結果を出してきたのに、揚げにトンビとはまさにこのこと。TikTokだって、表立って言わないだけで内心忸怩たるものがあるはず。おめおめ譲渡に応じるような真似はしないだろうし、法案が現実味を帯びてきたそのときには、経営権死守の方向で徹底抗戦が予想されます。

まあ、今はまだ仮説の話ですけどね。法廷バトルに入ればもっといろんな人が名乗りをあげてくるんでしょうけど、今のところはまだ、幸か不幸かTikTokは中国の親会社の手中にあるってなことで。

タイトルとURLをコピーしました