「シリコンバレーの誰もが嫉妬する男」NVIDIAのCEOジェンスン・フアンとは

NVIDIAのジェンスン・フアンってこんな人。

GPU(グラフィックスプロセッシングユニット)を開発したことで有名な半導体メーカーNVIDIA(エヌヴィディア)。そのCEOであるジェンスン・フアンはMicrosoft、Amazon、Google、すべてのカンファレンスに登壇した唯一の人でもあります。シリコンバレー界はジェンスン・フアンなしでは語れないのは、NVIDIAが開発したGPUがAIドリームを実現するためには必要不可欠だから。

かつてはリッチなゲーム環境のためにゲーマーたちに必要とされてきたGPUですが、今では世界中のテック企業にとって宝石のような存在となりました。

ジェンスン・フアンがここに至るまでにはどのような経緯があったのか、そして今どこへ向かっているのかを紐解いていきましょう。

シリコンバレー全体が嫉妬する男

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NVIDIA H100
Image: NVIDIA

2023年にAIのトレーニングや実行に使われたチップの80%以上がNVIDIAで製造されたものだったそうです。

そう、NVIDIAはAIチップ市場を席巻しているのです。Appleなどのテック企業がAIをトレーニングするのに一日に数百万ドルを使っているのですが、それはすなわち、NVIDIAにもお金が流れているということになります。

「NVIDIA」はラテン語で「嫉妬(envy)」の意味ですが、まさに今シリコンバレーの誰もがジェンスン・フアンに嫉妬している状態なのです。

MicrosoftとMetaは今年、NVIDIA H100sとH800sを15万台ずつ購入しています。Google、Amazon、Oracleも手に入るだけの数を購入していて、5万台ずつゲットできたようです。

そんな中、バイデン大統領アメリカの外交政策をNVIDIAのチップが中国企業の手に渡らないように設定する手段に出ています。2023年はこの世界で力を持つ人たちが、ジェンスン・フアンの名を知る年となりました。

ビッグ・テックと呼ばれるGoogle、Amazon、Apple、Meta、Microsoftは本当は誰にも頼らずにビジネスを進められることを願っているのですが、NVIDIAなしでは今の所やっていけないため、フアン氏とは「いいお友達」でいなくてはいけないのです。

GPUの歴史

ジェンスン・フアンがAI革命の中心に立つことになったのは、実はけっこう前の話。

フアン氏の資産は430億ドル(約6兆640億円)と言われていますが、フアン氏が打ち合わせをするのは、ファミリーレストラン「デニーズ」のブース席というスーパー庶民派。フアン氏は10年以上前にデニーズのブース席で、ゲームの未来はCPUではなく、GPUだ!という賭けに出たわけです。

CPUはタスクをひとつずつ順番に計算するのに対して、GPUは多くの計算を同時に行なうのが得意です。2009年のMythbustersでのデモンストレーションでは、GPUは例えて言うなら、1,100台同時に発射できるペイントガンで一発するだけで、詳細なモナリザを描けるみたいなもの、とわかりやすくGPUが並列タスクを実行できることを説明しています。一方でCPUは、単一のペイントガンのような感じで、一発ずつ噴射しながらスマイリーフェイスを点で描いている様子で説明しています。

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Video: NVIDIA/YouTube

GPUはゲーム業界を革新し、CPUで生み出されたビデオゲームのグラフィックスよりもはるかに優れたものにしました。

偶然か、それともフアン氏の先見の明だったのかはわかりませんが、GPUは人工知能のトレーニングに不可欠な存在となりました。GPUは大量の同時タスクが必要なグラフィックスのレンダリングをするのと同様に、大規模なニューラルネットワークを構築するための数十億の同時タスクを実行できるからです。

GPUは人工知能に取り組むすべての企業にとって不可欠な構成要素となりました。他のチップメーカーはNVIDIAより数年遅れていると言われています。

競合?それとも顧客?

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Image: Microsoft

今年、テック企業がこぞってAIチップの生産に参入して話題になりました。MicrosoftはMaia 100、GoogleはTPU v5p、AmazonはTrainium 2、そしてMetaはMTIA。それぞれがんばってはいるのでが、実際のところどれもNVIDIAのGPUには及ばないのが現実。NVIDIAは競合他社よりも数年先を行っているからです。というわけで、テック企業はしばらくの間はフアン氏のチップでAIモデルをトレーニングすることになります。

AIチップの垂直統合への動きは、とても鈍いです。Metaは2025年まで自社のチップを持たないでしょう。AWSは独自のGPUを開発すると言っていますが、非常に複雑で難しいものなので数年はかかるでしょう

と、BairdのシニアリサーチアナリストであるTristan Gerra氏はGizmodoに語っています。

Gerra氏は、次の数年間には内製のAIチップを構築する試みは見られるものの、すべて非常に限定的であると述べています。2024年もNVIDIAは、市場シェアを失ったとしても、たった数ポイントだけでおさまると見られています。

長期的に見ると、NVIDIAはビッグ・テックをチップの競合他社として心配する必要があるかもしれませんが、現時点でビッグ・テックはNVIDIAの顧客。ビッグ・テックたちが自社のAIチップでNVIDIAに追いつくころには、NVIDIAはさらに大きなことに乗り出しているのは間違いありません

「次のIntelになる」

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Image: NVIDIA

NVIDIAは、クラウドGPUを提供する「DGX Cloud」の一般提供を開始。

Google、Microsoft、AWSなどのクラウドプロバイダーに参入かと思いきや、これらの企業にGPUを提供する代わりに、DGX Cloudをホスティングしてもらっている(各社のクラウド上でDGX Cloud運営している)のです。なので、今のところいい関係と言えるのですが、フアン氏はThe New York Timesに対して、AIがコンピューティングを完全に変えたと述べています。フアン氏は、新しいコンピューティングの時代を築きたいと考えているようです。

私たちは、まったく新しい世代のコンピューティングが始まる場所にいます。60年間、新しく発明されていないことが大きな問題なのです

と述べています。フアン氏は現在のコンピューティングは、主に取得するだけのものであると指摘しています。単に電話にファイルの取得を頼んでいるだけのようなものだといいます。将来、コンピューティングが取得だけでなく、AIによって支えられた生成が行なえるようになっていくだろうと語っています。

フアン氏が言っている60年前の発明とは、1958年にゴードン・ムーアとボブ・ノイスによって設立されたIntelによるもの。Intelは多くの小さなトランジスタをシリコンコンピュータチップに配置することで、CPUチップを完成させ人類の計算能力を劇的に向上させました。

フアン氏は、次の革命の中心にいるのはNVIDIAとGPUだと見ているのです。次のIntelになる、ということですね。

新しいコンピューティングは単にチップを設計するだけでは解決することはできません。ネットワーキングからスイッチング、コンピュータの設計方法、それにチップ自体、その上にあるすべてのソフトウェア、それを統合する手法まで。これはコンピュータ産業の完全な再発明なので簡単なことではないのです

とフアン氏は語っています。

フアン氏が話しているこの変化というのは、サム・アルトマンが技術の未来として描いているものと一致しています。OpenAIの基調講演でアルトマン氏は、将来人間がコンピュータにタスクを実行させるような時代が来ると説明しています。AI生成を単なる機能でなく、将来のコンピュータのコアオペレーティングシステムと見なしているのです。

フアン氏は自分自身のことを、新しい未来には新しいデータセンター、新しいコンピュータデザイン、それを支える新しいコーディング言語が必要だと見抜いた最初の一人だと考えているようです。フアン氏とNVIDIAはこのビジョンに全てを賭けていて、将来のコンピューティングを構築するテクノロジー企業になっていくことを望んでいるのです。

みなさんがそれを理解するのは難しいことなんです。しかし、これこそが私たちが辿り着いた観察なんです。もちろんチップについても含まれていますが、単なるチップの話だけではないのです

と語っています。ビッグ・テックのGPUは、今日NVIDIAがある位置にやっと追いついているのは5〜10年後かもしれませんが、ジェンスン・フアンにもっと大きな、ずっと先を行く何かが見えているようです。

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