次の世につなぐために…月にアートを送る計画「Lunar Codex」

未来の月渡航者への贈り物。

150カ国以上の3万人を超えるアーティストによるアート、本、音楽、映画、詩などを月に送るLunar Codex」というプロジェクトが進行中です。

NASAのアルテミス計画に合わせて輸送

このLunar Codexは、物理学者であり作家のSamuel Peralta氏によって発案されました。

この計画はNASAの宇宙開発とも関連しています。NASAがアポロ計画以来の有人月面着陸を目指す「アルテミス計画」です。

そのミッションの1つとして、ローバーやさまざまな観測機器の輸送を目的とした商業月面輸送サービス(CLPS)があります。

Lunar Codexでは、これらの計画の中で民間の宇宙開発企業などとの交渉により輸送スペースを確保し、アルテミス計画に合わせて月面への輸送を行なうそうです。

月に送るタイムカプセル

Image: Lunar Codex

Lunar Codexは、そのものを「月に送るタイムカプセル」と紹介されています。

そのタイムカプセルには、前述のような膨大な数の作品が入るのですが、その名前のCodex(=写本)が示す通りアーカイブを保存します。

このアーカイブ作成には、NanoFiche™という技術が使われます。

デジタルテクノロジーによって高解像のまま画像データにし、さらにそれをニッケルなどをベースとしたフィルムにアナログ保存するという方法です。

これにより、解像度が高く、小型で、さらに湿度や温度の影響を減らした劣化のしづらいアーカイブ媒体として保存ができるとのこと。

そのほかにも複数のテクノロジーを使い、最高の状態ともいえるアーカイブとしてタイムカプセルに入れられるのです。

どんな作品がある?

『永遠に明かりが消えてしまった家』と題されたウクライナの土を使った版画
Image: Olesya Dzhurayeva

Lunar Codexでアーカイブされる作品の収集に関しては、Peralta氏自らアーカイブの許可を取るためにさまざまなギャラリーや出版社などに掛け合い、またクリエイターとの交渉も行なっているそうです。

そのほかにもアーティスト自薦による作品募集も受け付けているとのこと。

アーカイブには、今という時代を象徴する作品が多く選ばれています。

例えばアルテミス計画が女性初の月面着陸を目指すということを受けて、女性アーティストの作品を多く集めていることもその1つ。女性アーティストを対象としたアートコンテスト「ベネット賞」の受賞者であるアーティストの作品なども含まれます。

また、タジキスタン生まれでウクライナに移住し活動をしていたOlesya Dzhurayevaの作品もアーカイブされます。彼女は、元々”都市生活における日常と驚き”をテーマとして扱っていました。戦争によりその生活が崩壊していく中で制作された作品もあります。

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Video: Escape Motions / YouTube

Connie Karleta Salesは、自己免疫疾患による視神経脊髄炎を患いながら創作活動をしているアーティストです。彼女は視線技術を駆使してコンピューターを操作し、デジタルペインティングにて作品を制作しています。このことはNew York Timesでも伝えられています。

そのほかにもフィリピンの現代芸術を代表するひとりで神秘的なテーマを扱うことでも知られるMarcel Antonio、印象的なステンドグラスモザイクを制作しているMia Tavonatti、イヌイットをルーツに持ち複雑でトライバルな伝統をモチーフをする彫刻家Abraham Anghik Rubenなどなど。

さらには、ウィリアム・マッケラン、アレックス・コルヴィル、ゴットフリート・ヘルンヴァインといった有名なアーティストたちの作品も含まれ、草間彌生の作品もアーカイブされるといいます。日本からはほかにもMaria Mitsumoriなどの作品も選ばれているそうです。

Lunar Codexの目指すもの

Peralta氏は、Lunar Codexについて以下のような文を公開しています。

我々の願いは、これらのタイムカプセルを見つけた将来の渡航者が、今日の世界の豊かさを発見することです。

それは戦争やパンデミック、気候変動にもかかわらず、人類が夢を見てなにかを創造する時間を見つけたことを物語っているのです。

今の人類が直面している問題を、そしてそうしたときにも芸術や文化はあり続け育まれていたことを、未来の誰か(あるいは宇宙人かもしれない)に見つけてほしいと願っているのです。

もともとはコロナウイルスのパンデミックにより、ギャラリーや劇場、コンサートホールが閉鎖したことからこの計画が始まったと、Peralta氏は語っています。

いつか終わりを迎える前に、地球に存在していた芸術や文化の一部が、残されれば良いと思います。

そしてそれを見つけた誰かが、芸術や文化の新たな芽吹きとなれば、さらにおもしろいことでしょう。

Source: Lunar Codex, New York Times, Dazed, YouTube, Olesya Dzhurayeva, Crooked Little Flower Studios, Instagram, Mia Tavonatti, Abraham Anghik Ruben, Maria Mitsumori