クラスター弾はNATOの分裂を誘発

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バイデン米政権はウクライナにクラスター弾を供与すると表明したが、ウクライナに武器支援してきた北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中でその是非を問う声が聞かれる。

代表的なクラスター爆弾の一つ、CBU-87B(模擬弾)Wikipediaより

クラスター弾は「ストロイミュニション(Streumunition)」とも呼ばれ、爆撃機から投下されるか、ハウビッツ砲、砲兵砲、ロケットランチャーからのロケットとして発射される。一定の高度に達すると、爆弾またはロケットが開き、タイプによって数百個の小型爆弾が放出される。高い爆発力と柔軟な使用方法により、さまざまな目標を攻撃することができる。MARS-MLRSロケットランチャーの一斉射撃では、最大で24万平方メートルの目標地域に最大8000のサブミュニションが広がる。このような爆弾は、目標地域に広範な範囲で多数の爆風や破片効果をもたらすため、市民の安全を脅かす。クラスター弾の不発率は最大45%と非常に高いため、周辺の住民にとって極めて危険だ。そのため、クラスター爆弾は国際的に非人道的な兵器とされている。

ちなみに、クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)は2010年8月1日に発効、2023年3月1日の段階で加盟国は111カ国だ。ただし、米国、ロシア、ウクライナはオスロ条約に加盟していない。

ウクライナへのクラスター弾の供与問題について、バイデン氏は7日、CNNとのインタビューの中で「容易な決定ではなかった」と苦渋の選択であったことを明らかにしている。米国がウクライナに供与を決定した理由として、①ウクライナ軍の弾薬不足だ。その不足を早急に補填する能力は欧米同盟国にはない。そこで暫定的な解決策としてクラスター弾の供与となった。②ウクライナ軍の攻勢を支援するため、等の2つの理由が考えられている。

米国の説明では、①ウクライナ軍に提供するクラスター弾は非常にモダンで、地上を汚染する危険率は従来のそれより少ないこと、②米国はウクライナにクラスター弾の使用には注意し、民間人への影響を最小限度に抑えるように要望、ウクライナ側がそれを受け入れたこと、③戦争が終われば同爆弾の除去作業を支援すること、などで合意があったという。

オーストリア国営放送のワシントン特派員、クリストフ・コール記者は、「米大統領はクラスター弾の供与問題では道徳的な視点と純粋な軍事的考慮の間で悩んだが、最終的には後者を優先した」と解説していた。バイデン米大統領がCNNとのインタビューで、「ウクライナ軍はロシア戦争で勝利しなければならない」と強調していたが、その目的を実現するため「手段は正当化された」というのだろう。

NATOのストルテンベルグ事務総長は、「クラスター弾はロシア軍もウクライナ軍も使用してきた。違いはロシア軍は侵略のためにそれを利用し、ウクライナ軍は主権を守るために使ってきたという点だ」と説明、クラスター弾でウクライナの土壌は既に汚染されているというのだ。

ところで、ウクライナを支援してきたNATO加盟国では米国のクラスター弾の供与について、今年下半期の欧州連合(EU)議長国スペインのロブレス国防相は8日、「クラスター弾は国際的に使用禁止された武器だ」と主張、クラスター弾のウクライナ供与に反対している。英国のスナク首相も同日、「わが国はオスロ条約の加盟国だ」として、クラスター弾の供与に反対する姿勢を明らかにしている。

ドイツでは主力戦車「レオパルト2」のウクライナへの供与問題で国内で意見が対立したが、クラスター弾の場合、オスロ条約加盟国と非加盟国の間で対立、特に、ウクライナに武器を供与してきたNATO加盟国の間で意見が分かれてきているのだ。

バイデン米大統領は9日から欧州を歴訪、11日から12日の日程で、リトアニアで開催されるNATO首脳会談に参加するが、同会議の狙いはNATOのウクライナ支援の結束強化だ。ウクライナのNATO加盟問題では、バルト3国やポーランドが早期加盟を支持している一方、米国やフランスは慎重だ。そして今、クラスター弾の供与問題で加盟国間で意見の違いが浮かび上がってきたわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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