AIはどのように私たちの働き方を変えるのか?AIに仕事を奪われる可能性は?

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自然な対話や高度な文章などを生成できるChatGPTや、単語を入力するだけでクオリティの高い画像を生成できるStable DiffusionやMidjourneyなどが登場し、このようなジェネレーティブAIの影響を全職業の80%が受けるという研究結果が示されていたり、世界最大規模のコンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーが「ジェネレーティブAIは世界経済に年間620兆円の価値を加える」と調査結果を発表したりと、その影響力の大きさが注目されています。しかし、工業化や機械化による仕事や雇用の影響は過去200年の労働環境で常にあったものであり、ジェネレーティブAIによる変化はそのような波と何が違うのかという点を、アナリスト兼コンサルタントのベネディクト・エヴァンス氏が解説しています。

AI and the automation of work — Benedict Evans
https://www.ben-evans.com/benedictevans/2023/7/2/working-with-ai


エヴァンス氏によると、200年にわたる労働作業における自動化の波の中で、あらゆる種類の仕事が消えていきましたが、その代わりに新しい種類の仕事が作成されていったとのこと。エヴァンス氏が示した以下の図は、アメリカの国勢調査が1930年に公開した「アメリカの一般職業部門別有給労働者分布率」の変化を示すグラフで、「AGRICULTURE(農業)」の分布数は1870年の約50%から1930年の約20%まで大きく減少しており、「製造業および機械工業(MANUFACTURING AND MECHANICAL INDUSTRIES)」の割合が多くなっています。このように、古い仕事が減る代わりに新しい仕事が増え、その過程では少なからずトラブルも発生しますが、「時間とともに仕事の総数が減ることはなく、自動化によって私たちは皆、より豊かになりました」とエヴァンス氏は述べています。


自動化によりどういった仕事がなくなるかは予想がつきますが、新しい仕事が何になるかの予測は難しく、また新しい仕事はまだ生まれてないこともあるため、「新しい仕事がなくなるのではないか」と心配してしまうのは自然な考えです。経済学の用語には「労働塊の誤謬(ろうどうかいのごびゅう)」というものがあり、世の中における仕事は一定量しかなく労働者はそれを取り合うのだという見方がされることはありますが、それは経済学的には誤りだとされています。やるべき仕事の量が決まっている場合は、機械やAIにその一部を奪われてしまうと人間の仕事がなくなりますが、実際には新たな繁栄と新たな雇用へと波及していくため、仕事量が侵されていくことはないと考えられます。

しかしそれでも、実際にAIに仕事を奪われたという声や、自動化に侵される領域が多いという意見は多くなっています。その理由として、エヴァンズ氏は「過去200年間の自動化で実際に起こっていることは、人間の能力のスケールを上げてきたことだと思います」と述べています。人間は足を自動化して高速に移動できるようになってから、力のある仕事ができるよう腕を自動化し、繊細な仕事もこなせるように指を自動化し、AIによって脳も自動化しました。経済学には、技術が上がって資源の消費効率を改善したことで、資源の消費量を減らすことができると思いきや、消費効率が改善した結果さまざまな用途に転用が可能になり資源の使用量は結果として増加するという「ジェボンズのパラドックス」という考えがあります。これは、資源を人間の労働力と考えても同じことで、手足や脳までも自動化したことで仕事を効率化した結果、労働者はさまざまに転用されて、より忙しくなる恐れがあります。

エヴァンズ氏は以前に、「スプレッドシートが開発される以前は、投資銀行家はとても長い時間働いていました。ゴールドマン・サックスの従業員が金曜日の午後3時に退社できるのは、ひとえにExcelのおかげです。ディープラーニングは、週に1日だけ働く必要があることを意味します」とツイートしており、テクノロジーにより何かを行うのがより簡単になる例を示しています。一方で、テクノロジーはより少ない人数で同じことを行うことを意味する場合もあれば、同じ人でより多くのことを行うことを意味する場合もあるとも述べています。

Younger people may not believe this but before spreadsheets investment bankers worked really long hours. It’s only thanks to Excel that Goldman Sachs associates can get everything done and leave the office at 3pm on Fridays. Now LLMs mean they’ll only have to work one day a week!

— Benedict Evans (@benedictevans)


ひとつの仕事に必要な人数が減り、同じ人がより広範な仕事をするようになるとしても、「自動化により人が10倍の仕事をこなせる」ということは、その仕事をこなす「人」が必要であることを意味します。しかし、この考え方には2種の反論があるとエヴァンズ氏は指摘しています。まず、AIによる変化はインターネットやPCの発展で見られた変化と同じ種類で、それらと同じく純雇用に長期的な影響を与えることはないかもしれません。それでも、AIの発達はかなり急速になっているため、発生する摩擦も大きく、調整するのが困難になるという意見があります。1億台のPCが出荷されるまでには10年前後かかりましたが、ChatGPTは「月間1億ユーザー」をわずか2カ月で達成しています。

ChatGPTが「月間1億ユーザー」をわずか2カ月で達成し史上最も急速に成長していることが報告される – GIGAZINE


また、ChatGPTや画像生成AIを導入するためには、特別なネットワーク構築も特定のデバイスもほとんど必要なく、既存の設備の上で単なるウェブサイトとして機能させることができます。ただ、エヴァンズ氏によると、実際の業務として稼働可能なレベルに整える「製品」ないし「仕事道具」として完成させるまでには、ある程度時間がかかるはずであるとのこと。

また、基本的に特定の目的で作られる機械とは異なり、ChatGPTおよびLLM(大規模言語モデル)は、なんでも答えることができる汎用的なテクノロジーのため、特定の仕事を奪うのみにとどまらず、影響力が広範囲に及ぶという考え方もあります。しかし、実際の業務として機能させるためには専門的なパラメータが求められるため、仕事として侵略してくるためにはそのためのトレーニングセットが必要になるはずだとエヴァンズ氏は指摘しています。

結論として、AIが人間の仕事を大きく侵害しうるかどうかという考えは、汎用人工知能(AGI)の分野に行き着きます。エラー率がなく、でっちあげもなく、本当に人間ができることなら何でもできるシステムがあったとしたら、「自動化によって1人でより多くのことができるようになる」という「1人」すらAIが代用して必要なくなります。しかし、魔法のようなAGIは今ここに存在せず、それならば過去200年に経験してきた自動化の波がまた再び起こるのみだとエヴァンズ氏は述べています。

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