レーザー通信による毎秒1テラビットのデータ転送のテストが成功、海底ケーブルが不要になる可能性

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スイス・チューリッヒ工科大学の科学者が、首都ベルンからユングフラウヨッホまで53kmを結んだレーザー通信で毎秒1テラビット単位のデータ転送に成功しました。今後、衛星を用いたレーザー通信が実用化されると、海底ケーブルは不要になる可能性があります。

Tbit/s line-rate satellite feeder links enabled by coherent modulation and full-adaptive optics | Light: Science & Applications
https://doi.org/10.1038/s41377-023-01201-7


Lasers enable internet backbone via satellite | ETH Zurich
https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2023/06/lasers-enable-internet-backbone-via-satellite.html


Lasers enable internet backbone via satellite, may soon eliminate need for deep-sea cables
https://techxplore.com/news/2023-06-lasers-enable-internet-backbone-satellite.html

この実験は2014年から800億ユーロ(当時のレートで約9兆8000億円)を投じて行われた全ヨーロッパ規模の研究およびイノベーション資金プロジェクト「Horizon2020」で行われたもので、実験結果はスイス・バーゼルで開催された欧州光通信会議で発表されました。

インターネットのバックボーンは光ファイバーケーブルを用いた高密度ネットワークで形成されており、ネットワークノード間で転送されるデータ量は毎秒最大100テラビットを超えます。大陸間の接続は海底に敷設されたケーブルを介して行われており、世界中に530以上の海底ケーブルが張り巡らされています。海底ケーブルの数は今後さらに増えると見込まれています。海底ケーブルは費用がかかり、大西洋横断ケーブルの場合は1本で数億ドル(数百億円)の投資が必要です。

今回、チューリッヒ工科大学が実証した、テラビット単位のデータ転送が可能なレーザー通信により、地球に近い衛星群を介して、海底ケーブルよりもコスト効率がよく、より高速なバックボーン接続が可能になるとみられます。


研究の筆頭著者であるチューリッヒ工科大学電磁場研究所のヤニク・ホルスト教授は「光データ転送において、ベルン大学ツィマーヴァルト天文台とユングフラウヨッホの高地研究基地を結ぶテストルートは、衛星と地上局を結ぶルートよりも困難があるといえます」と述べています。

衛星を用いたインターネットとしては、SpaceXが展開するStarlinkなどが知られています。Starlinkは低軌道に4400基の人工衛星を打ち上げて世界中にインターネットを提供するサービスで、さらに第2世代人工衛星として7500基を打ち上げる予定です。しかし、衛星と地上局を結ぶ通信には波長が数cmのマイクロ波が用いられているので、それほど高速ではありません。

一方で、レーザー通信では数マイクロメートルの波長の近赤外線を用いるので、単位時間当たりでより多くの情報を転送できます。

遠距離にある受信器に到達するまで信号の強度を十分保つために、レーザー光波は直径数十cmの望遠鏡から変調された状態で発信されます。含まれる情報は16QAMのとき4ビット、64QAMのとき6ビットです。

空気粒子の乱流の変動により、光波が受信器の検出器に到達したとき、振幅と位相角が加算・相殺されて誤った値が出ることがあるため、プロジェクトパートナーであるフランス国立航空宇宙研究所(ONERA)は、97個の調整可能なミラーを備えたマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)チップを導入、ミラーを変形させて光波の位相を毎秒1500回修正することで信号強度を約500倍に改善しました。ホルスト教授はこの改善を、53kmの距離で1テラビットの帯域幅を確保するのに不可欠なものだったと述べたとのこと。

チューリッヒ工科大学電磁場研究所長のユルク・ロイトホルト教授は「我々のシステムは画期的な進歩です。これまでは、数ギガビットの狭い帯域幅で長距離を接続するか、広い帯域幅の自由空間レーザー通信で数mの短距離を接続するかの2つの選択肢しかありませんでした」と語りました。

今回のシステムは単一波長で毎秒1テラビットを実現しており、今後、標準技術で40チャネルにすることで、毎秒40テラビットまで簡単に拡張可能だとのことです。

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