創業119年のメゾンアーネストが ラグジュアリー市場 、米国への展開を強化する理由【ラグジュアリーブリーフィング】

DIGIDAY

米国の購入客はメゾンアーネスト(Maison Ernest)について聞いたことがないかもしれない。100年を超える歴史を持ち、歌手のカイリー・ミノーグ氏のような熱烈な支持者がいるにもかかわらず、このパリのラグジュアリーシューズブランドは秘密のような存在だったと、同ブランドの社長、ルドヴィック・デデュー=ワレランド氏は言う。

最大の市場である米国への大規模な拡大計画

しかし、メゾンアーネストには、3年前に社長として加わったデデュー=ワレランド氏の下で大きな計画がある。同社の次のターゲットは米国市場だ。現在、米国の小売業者との卸売提携や米国市場を対象にした新製品、マーケティング計画の刷新など、今後数年間にわたる米国での大規模な拡大が進行中である。

デデュー=ワレランド氏は次のように述べている。「米国市場はすでに当社の単一市場の最大のものになっている。オンライン売上高の50%を占めており、パリのブティックを通じて次に大きい市場であるフランスをわずかに上回っている。米国は将来にとって重要な市場だ。課題は、新規顧客にブランドを展開しながらメゾンアーネストのDNAと伝統を維持するということだけだ」。

卸売提携に注力

拡大計画の最初の部分は卸売である。メゾンアーネストは以前米国で卸売販売を行っていた。10年ほど前にオンライン販売に注力するために卸売提携を解消するまでは、バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)などの大手デパートで1500ドル(約21.3万円)のブーツを販売していた。現在、そのような関係を再開しようとしている。 デデュー=ワレランド氏は、まだ交渉中であるため、相手が米国での大規模なラグジュアリー小売業者の1社であること以外は言及できないと述べた。同氏によると、メゾンアーネストの米国内での販売は主に卸売になり、ブランド直営店の計画はないという。

「オンラインでもオフラインでも少数の厳選パートナーを選んでブランドを成長させたいと考えている」とデデュー=ワレランド氏。「年間1000%成長してブランドを露出しすぎるようなことは望んでいない。そうしたならば、製品の品質が低下するだろう。品質を制限するよりは、ブランドの成長を制限するほうがいい」。

ポップアップでブランド体験を提供

客足がコストに見合わないだろうという理由からブランド所有の店舗の導入は考えていないとデデュー=ワレランド氏は語っている。その代わりに、ニューヨークやロサンゼルスなどの都市で年に数回、10日間のポップアップに注力するという。

メゾンアーネストは、昨シーズンのパリファッションウィークにおいて、有名なキャバレーのクレイジーホースでポップアップを開催して、大復活を果たした。メゾンアーネストの伝統はパリのキャバレーのダンサー向けのシューズの製造にあり、その流れは今日まで続いている。カイリー・ミノーグ氏やマニー・ロング氏らポップスターにステージやミュージックビデオ用にシューズを提供している。最新シングル「Padam Padam」では、ミノーグ氏は赤いサイハイのメゾンアーネストのブーツを履いている。女優のマーゴット・ロビー氏は新作『バービー』のバイラルになった予告編でメゾンアーネストのパンプスを履いていた。

パリでのポップアップはフランスのメディアで好評を博し、一部のメディアはポップアップでメゾンアーネストの名が「再び知名度が高まった」と評した。デデュー=ワレランド氏は、米国でのポップアップでも同社の伝統をを尊重しながら、同じような体験をもたらしたいと述べている。

「一定の所得レベルまでのラグジュアリー顧客は製品をラグジュアリーだと見なしているが、ある所得レベルを超えるとラグジュアリーとは体験を意味する」とデデュー=ワレランド氏。「当社にとっての理想的な小売環境とは、ニューヨークやロサンゼルス、ほかの米国の都市で四半期ごとに 10日間のポップアップを開催することだ。ポップアップごとにまったく新しいことを行う。ある四半期ではパリのキャバレーを再現したり、別の四半期では違うことをするかもしれない」。

米国の消費者に合わせた製品展開

だが、メゾンアーネストの米国の顧客は欧州の顧客とまったく同じではないため、販売される製品も異なってくる。たとえば、同ブランドのフランスの一般的な顧客よりもハイヒールに慣れていない米国の顧客にアピールするために、今シーズン同社は初のフラットを取り入れた。次のコレクションでは、特に米国人を対象にしたリボン付きサテンミュールが登場する予定だ。

デデュー=ワレランド氏は次のように述べている。「製品を米国市場に適応させることが鍵だった。米国のバイヤーからは、女性はいまではフラットシューズしか履かないと言われている。だが、それがずっと続くかは正直なところわからない。また、当社の米国でのミッションには、女性から期待されている以上に快適なヒールを紹介するということがある。当ブランドの製品を試したら女性たちは低めのヒールや高いヒールをまた履き始めるかもしれない」。

ラグジュアリーブランドに必須の国際的な視点

ラグジュアリーコミュニティには国際的な傾向がある。裕福な顧客は頻繁に旅行するため、ラグジュアリーブランドが世界のほかの地域に進出することは一般的である。ラグジュアリーブランドにとってアジアや中東などの地域の魅力が高まってはいるものの、米国が主要なラグジュアリー市場であることは変わらない。アメリカ大陸はラグジュアリー販売において依然世界最大の地域であり、世界市場の32%を占め、ヨーロッパや中国を上回っている。

ラグジュアリーブランドは国際的な視点で考えていることが多い。たとえば、エルメス(Hermés)、ディオール(Dior)、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)は、いずれも今年、米国に大規模な旗艦店をオープンしたか、またはオープンする予定がある。また、デザイナーらはデザインする際に国際的な顧客を念頭に置いている。

「デザインするときの私の視点は常に国際的だ」と語っているのは、イタリアのラグジュアリーブランド、アイスバーグ(Iceberg)の英国人クリエイティブディレクター、ジェームス・ロング氏だ。「私はロンドン出身で、米国とアジアで大きなプレゼンスを持つイタリアのブランドで働いている。このブランドをできる限り国際的なブランドにしたいと思っている」。

[原文:Luxury Briefing: Inside 119-year-old Parisian brand Maison Ernest’s US expansion

DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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