人間は「現実には起きなかった架空の事件」を自分がやったと思い込んで自白をしてしまうという研究結果

GIGAZINE



犯罪捜査において「犯人が自供した」ことは非常に強力な証拠と見なされますが、時には無実の人であっても過酷な取り調べに耐えかねて自白してしまうことがあり、えん罪が生み出される可能性があると指摘されています。実際に過去の研究では、被験者に「発生すらしていない架空の事件」の記憶を植え付け、その事件の犯人は自分だと思い込ませられることが示されています。

Constructing Rich False Memories of Committing Crime – Julia Shaw, Stephen Porter, 2015
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0956797614562862


Suspects can confess to committing crimes they didn’t do – research shows – beds.ac.uk | University of Bedfordshire
https://www.beds.ac.uk/news/2015/january/suspects-can-confess-to-committing-crimes-they-didnt-do-research-shows/

People can be convinced they committed a crime that never happened — ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150115102835.htm

テレビドラマや小説には、「警察の取り調べで自白を強要され、やってもいない事件をやったと言ってしまった」という無実の人が登場することがあります。現実の事件でも、いったんは罪を認めた人物が法廷で自白を撤回し、後に自白の正当性が認められず逆転無罪となったり、判決後に裁判のやり直しが命じられるケースがあります。

過去の研究では、容疑者を追い詰めると同時に同情と理解を示す「リード式尋問法」という手法を用いたところ、実際にはやっていないミスをやったと自白させられることが示されています。

なぜ人は無実の罪を犯したと自白してしまうのか? – GIGAZINE


また、2015年に査読付き学術誌のPsychological Scienceに発表された研究では、当時イギリスのベッドフォードシャー大学で心理学講師を務めていたジュリア・ショー氏らの研究チームが、被験者に「偽の事件の記憶」を植え付けるという実験を行いました。

この実験では、まず被験者となる大学生が「11歳~14歳の間に経験した特定のイベント」についてのアンケートに回答し、研究チームとイベントの詳細について共有しました。その上で研究チームは、40分間のインタビューを1週間間隔で合計3回実施し、被験者が10代の頃に経験したインパクトの大きい2つのイベントについて話し合いました。

研究チームが被験者と話し合った2つのイベントのうち、1つはアンケートを基にした「実際に起きたイベント」でしたが、もう1つは「実際には起きなかった架空のイベント」でした。架空のイベントは「警察沙汰になるほどの暴力や盗難」といった犯罪にまつわるイベントと、「ケガや金銭の損失」などの感情的なイベントに分かれており、アンケートで被験者が回答した現実の経験や親しい人の名前が組み込まれていました。また、研究チームは被験者の保護者とも連絡を取り、「被験者から聞かれても架空のイベントについて話し合わないこと」を承諾してもらったとのこと。


被験者はインタビューにおいて、2つのイベントで何が起こったのか詳しく説明するように求められました。当然ながら架空のイベントについて話すのは困難だったはずですが、インタビュアーはとにかく何か話してみるように促し、記憶を思い出す戦略などについてもアドバイスしたそうです。

2回目と3回目のインタビューでそれぞれのイベントについて可能な限り思い出してもらったところ、「犯罪を犯したという架空のイベント」についての記憶を与えられた30人のうち21人(71%)が、実際には起こさなかった犯罪についての記憶を発達させたことが判明。何らかの暴力事件についての記憶を植え付けられた20人のうち11人は、存在しなかった「警察との正確なやり取り」について報告しました。

一方、犯罪沙汰ではない感情的なイベントについての記憶を植え付けられた被験者では、30人のうち23人(76%)が偽の記憶を発達させました。架空のイベントの記憶を発達させた被験者は、犯罪に関わるものと感情的なものの両方で同程度の詳細について話し、偽の記憶の信頼性や鮮明さについても同程度だと報告したそうです。


研究チームは、現実に存在する友人などを架空のイベントに組み込むことで、架空のイベントを現実に起きたことだと思わせることができたと推測しています。ショー氏は、「このような状況では、本質的に誤りやすい再構成的な記憶プロセスが、驚くほどリアルな偽の記憶を極めて簡単に生成することができます。この実験セッションにおいて、被験者の中には自分が犯したことがない犯罪について、信じられないほど鮮明な詳細を思い出せる人もいました」とコメントしています。

今回の研究結果は、多くの人々が「やってもいない犯罪」を自白する可能性が高いことを示しており、捜査機関はこの点を理解した上で取り調べを行う必要があります。ショー氏は、「虚偽の記憶を生成させることが知られている悪い取り調べテクニックが引き起こす害を実証することで、インタビュアーにそのテクニックを避けて、代わりに良いテクニックを使うように説得することができます」と述べました。

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